どうしようもない姉に婚約者を寝取られそうになったので、彼よりもっとハイスペックな殿方を紹介することにしました。※但し、完璧なのは見た目だけ

当麻月菜

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むしろ遅すぎる(婚約者談)

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(……やっとか)

 一大決心を口にしたティスタを見下ろすウェルドは、「むしろ遅すぎる」と肩を掴んで揺さぶりたい衝動に駆られていた。

 美味しそうにローストビーフを頬張るティスタに一目惚れしてから屈折4年半、ずっとウェルドは、ティスタを蔑ろにするヴァネッサを憎んでいた。

 いっそ事故とみせかけて闇に葬ってしまおうと思ったことは数知れない。むしろどうして今まで我慢していたのか不思議なくらいだ。

 そう自信を持って言えるウェルドが実行に移さなかったのかと言えば、あんな極悪非道な女であっても、ヴァネッサは腐ってもティスタの姉だから。

 どうして同じ両親の元から生まれてきたのにこうも違うのかと呆れてしまうが、それでもティスタの姉である。

 そしてティスタが姉という認識を持っている以上、ウェルドは手を下すことができなかった。

 それがとても悔しくて、もどかしかった。

 あまりに歯がゆくて、ティスタに「一体、どんな弱みを握られているんだ!? 全部無かったことにしてやるから俺に言えっ」と詰め寄ろうと思ったか。

 けれど、どれだけ問い詰めたところで、ティスタは答えることはしないだろう。もしかしたら、弱みを握られていることすら気付けていないのかもしれない。

 長年、悪女の妹として頭を下げ続け、誹謗中傷を受け続けて来たティスタは、心の一部が麻痺している。

 ティスタがヴァネッサを見限ることができなかったのは、謂わば血という呪いのせいだった。

 何よりも強く硬いそれは、時として人の心を蝕み生きる足枷となる。しかも厄介なことに、自ら断つという意志を持たなければ他人ではどうすることもできない。

(でも、ようやっと吹っ切れてくれた。良かった……本当に良かった)

 ウェルドは、安堵の息を吐く。次いで、不安げな様子でじっと自分を見つめている婚約者に声を掛けた。

「─── つまりティスタは、もうヴァネッサ嬢の言いなりにならないってことで合っているか?」

 ウェルドは静かな声でティスタに問うた。

 ただその口調は問い掛けているというよりは、確認するというニュアンスに近い。

「うん、合ってる」

 こくこくと頷きながら、ティスタはウェルドの目をしっかりと見つめて頷いた。

「そうか」
「うん!」

 更に大きく頷くティスタがあまりに愛らしくて、気付けばウェルドは手を伸ばし彼女の小さな頭をわしゃわしゃと撫でていた。





 ウェルドは、ティスタの柔らかいブラウンゴールドの髪の感触を楽しみながら心の中で独り言つ。

(なら、もう遠慮はしない。迅速に、かつ合法的にヴァネッサを排除するのみだ)

 己の胸にティスタを引き寄せながら、ウェルドは不敵な笑みを浮かべた。

 ちなみに彼は騎士ではあるが、脳筋ではない。むしろ次期参謀と期待されるほど、頭の出来は、まあまあ良い方だった。
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