皇帝陛下の寵愛なんていりませんが……何か?

当麻月菜

文字の大きさ
26 / 148
一部 おいとまさせていただきますが......何か?

3

しおりを挟む
 それから数日後、アルビスは予定通り北のリフィドーロという領地に視察に向うことになった。

 旅服に身を包んだアルビスは出発前に離宮に立ち寄り、出窓で読書にふける佳蓮に声をかけた。

「しばらく視察で帝都を離れる。もしここにない本が読みたくなったら、幾らでも取り寄せる。だから大人しく待っていろ」
「……」

 アルビスの最後の言葉に、佳蓮は青筋を立てた。

 誰が待つものか。戻って来た時に空っぽになった離宮を見て慌てふためけばいい。

 背を向け去っていくアルビスに、佳蓮は心の中でせせら笑った。





 皇帝が留守にしても、城内は何も変わらない。

 毎日、メイド達は掃除や洗濯に励み、料理長は調理に勤しみ、官職達は与えられた仕事を着々とこなしている。衛兵達も佳蓮の監視を怠ることはない。

「……どうしたもんかなぁ、これ」

 佳蓮は本日も出窓の物置き部分に腰かけて、窓の外を眺めてため息を吐いた。

 アルビスが視察に出立してもう5日が過ぎたが、佳蓮は逃げ出すタイミングが見つからず未だ離宮にいる。

 リュリュといえば、ここから出してあげると言ったっきり変化はない。毎日、お茶を淹れて、軽食を運んでくるだけ。 

(騙されちゃったんだ、私)

 思ったより心のダメージが大きく虚ろな表情を浮かべていた佳蓮だったが、午後を過ぎた頃、状況は一気に変わった。

「長らくお待たせして、申し訳ありません。全ての準備が整いましたので、行きましょう」

 昼食を運んできたかと思えばすぐに離宮を離れたリュリュは、白い布に包まれた何かを両手に抱えて戻って来た。

 この急展開に、佳蓮は手にしていた白パンを滑り落としてしまった。

「あの……行くって……どこに?」
「外でございます」
「へ?」

 佳蓮がきょとんと眼を丸くしても、リュリュの表情は変わらない。向かう先も口にしないが、こげ茶色の目は”言わなくてもわかってますよね?”と訴えている。つまりはそういうことだ。

「うん、行く。すぐ行く……!」

 食べかけの昼食を無視して何度も頷く佳蓮に、リュリュは抱えていた包みを手渡した。

「あいにく今日は一段と冷え込みますので、まずはお召替えをお願いします」
「……うん」

 おずおずと受け取った佳蓮だが、次の瞬間ぎょっとした。

 リュリュが音もたてず、たった一人で天蓋付きのベッドを動かしたのだ。

 まるで空の段ボールを押すような軽々とした動きに、佳蓮は思わずあんぐりと口を開けてしまう。けれど驚くのはこれだけではなかった。

 リュリュは動かしたベッドの位置に膝を付くと、床に顔を近づけて何かを探したかと思えば、あっと小さく声を上げた。

 すぐにギィ……と、物音がしたと思えば、今度は暖炉の前の床の一部が盛り上がる。

 自分が生活していた場所に、こんな仕掛けがあったとは。次から次へと予期せぬことが起きて、佳蓮は頭が収拾がつかない程、真っ白になる。

 対してリュリュは、至って冷静だった。軽々とベッドを元の位置に戻すと、佳蓮に目を向けた。

「離宮は敵に囲まれてしまえば逃げることが不可能です。ですから、こういう隠し通路が用意されているんです。……と、いってもわたくしも昨日までは、この位置を見つけることはできませんでしたが」

 リュリュは申し訳なさそうに眉を下げたが、佳蓮は首を横に振る。

「ううん、そんな……探してくれてありがとう」
「とんでもございません」

 もじもじと指をこねながら佳蓮が感謝の気持ちを伝えると、リュリュは照れくさそうに笑ってくれた。でも、すぐに表情を引き締める。

「さ、カレンさま。急いでお着換えを」
「うん……!」

 状況を把握した佳蓮は、リュリュから受け取った包みを解いて着替えを始めた。
しおりを挟む
感想 534

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

期限付きの聖女

波間柏
恋愛
今日は、双子の妹六花の手術の為、私は病院の服に着替えていた。妹は長く病気で辛い思いをしてきた。周囲が姉の協力をえれば可能性があると言ってもなかなか縦にふらない、人を傷つけてまでとそんな優しい妹。そんな妹の容態は悪化していき、もう今を逃せば間に合わないという段階でやっと、手術を受ける気になってくれた。 本人も承知の上でのリスクの高い手術。私は、病院の服に着替えて荷物を持ちカーテンを開けた。その時、声がした。 『全て かける 片割れ 助かる』 それが本当なら、あげる。 私は、姿なきその声にすがった。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり
恋愛
平凡な女子高生、加賀深涼はハロウィンの夜に不思議な男の声を聴く。 疎遠だった幼馴染の真堂刃や、仮装しに集まっていた人たちとともに流星群の落下地点から異世界『エーデルラーム』に召喚された。 他の召喚者が召喚魔法師の才能を発現させる中、涼だけは魔力なしとして殺されかける。 そんな時、助けてくれたのは世界最強最悪の賞金首だった。 一般人生活を送ることになった涼だが、召喚時につけられた首輪と召喚主の青年を巡る争いに巻き込まれていく。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに掲載。 [お願い] 敵役へのヘイト感想含め、感想欄への書き込みは「不特定多数に見られるものである」とご理解の上、行ってください。 ご自身の人間性と言葉を大切にしてください。 言葉は人格に繋がります。 ご自分を大切にしてください。

気がつけば異世界

波間柏
恋愛
 芹沢 ゆら(27)は、いつものように事務仕事を終え帰宅してみれば、母に小さい段ボールの箱を渡される。  それは、つい最近亡くなった骨董屋を営んでいた叔父からの品だった。  その段ボールから最後に取り出した小さなオルゴールの箱の中には指輪が1つ。やっと合う小指にはめてみたら、部屋にいたはずが円柱のてっぺんにいた。 これは現実なのだろうか?  私は、まだ事の重大さに気づいていなかった。

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

処理中です...