30 / 148
一部 おいとまさせていただきますが......何か?
7
しおりを挟む
セリオスの口調は語尾が震えていて、保身を取るかどうかで葛藤しているのがありありとわかる。
佳蓮は、勇気を出してセリオスに一歩近づいた。
「デマカセ?ねえ、それって誰が証明してくれるの?」
「だ、誰がって……それは……」
セリオスはあからさまに狼狽えているが、リュリュの拘束を解いてはくれない。
(ちっ。しぶといな、この人)
心の中で舌打ちした佳蓮は、更にセリオスを追い込んでいく。
「いっそどっちの証言を信じてもらえるか試してみよっか?でもね、言っておくけど、ここには私とリュリュさんと、あんたの3人だけ。ぶっちゃけ2対1の証言で、どっちの証言が信用されるのかなぁ?私、どうやら結構な位置にいるらしいし……ねぇ、リュリュさん、皇帝陛下のお気に入りに手を出しちゃったら、どうなるの?」
「極刑でございます」
間髪入れずに、リュリュは佳蓮の欲しい言葉を紡いでくれた。瞬間、セリオスは屈辱で顔を歪めた。
(よし!あとちょっとで、この人は保身に走る)
確信を持った佳蓮は、セリオスを追い詰める。
「ねーえー、セリオスさぁーん。極刑って怖いよね?しかも冤罪で首を切られちゃうなんて、嫌だよねぇー」
「……っ」
「私さぁ、別にあなたが死ねばいいと思っているわけじゃないの。見逃して欲しいって言っているだけなんだけどなぁー」
「……あ、あなたという人は……」
飴と鞭の要領で、佳蓮は今度は柔らかい口調でセリオスを諭す。
「今の地位、大事なんでしょ?守りたいんでしょ?私、あなたのそれになんか興味ないの。そんなの奪ったところで何の得にもならないし。勘違いしないでほしいんだけど、こっちがお願いしてるのは一つだけ。見なかったことにして。それだけだよ。……ねぇ、お祈りしてたんでしょ?今すぐ神殿に戻って続けてよ」
佳蓮は膝を折り、セリオスと目を合わせた。でも彼は頷かなかった。
「……む、無理です。できません。どうか離宮にお戻りください」
苦渋の決断をしたセリオスの顔を、佳蓮はそのまま蹴り付けたい衝動に駆られた。だがそうしたところで、ほんの僅かな鬱憤が晴れるだけだ。
佳蓮は感情を押さえ込むために、あからさまにため息を吐く。
「そう。ウザいほど頑固者なんだね。あっそれとも、そうやって嬲られるのが好きなだけだったりして……このクソ変態、やっぱ極刑だわ」
その瞬間、ぷっとリュリュが噴き出した。
セリオスはというと、これ以上にないほど屈辱で歪んでいたけれど、絶対に意志は曲げないと強く瞳が訴えている。
佳蓮とて引くに引けない状況なのだ。なら、もうとことん突っ走るしかない。
「じゃあ、そうやって意地を張り続ければいいよ……できるかどうかは時間の問題だと思うけどさ」
軽い口調でそう言うと、佳蓮はすくっと立ち上がった。
次いで、身体に引っ掛かっているだけのドレスを脱ぎ捨てて、今度はアンダードレスに手を掛ける。
今度はさっきより慎重に背中のボタンを一つ飛ばし、二つ目のボタンに手をかけたその時──
「やめなさいっ」
今までとは違う切羽詰まった表情を浮かべて、セリオスが叫んだ。
それを聞いた佳蓮は、やっと観念する気になったかとほっと胸をなでおろす。けれど、セリオスの続く言葉で、それは大きなる間違いであったことを知る。
「今すぐ服を着てくださいっ。陛下が後ろにいるんです!!」
「っ……!?」
嘘かどうか真偽を確かめるよりも前に、セリオスが紡いだその名に体がびくりと反応してしまう。
だがすぐ、いやいやまさかと不安を打ち消そうとするが、リュリュは餌を与えてもらっていない肉食獣と同じ檻に入れられてしまったかのような表情を浮かべていた。
いやいやまさかが、一気に現実を帯びる。同時に、背筋に戦慄が走った。
──カツン。
たったそれだけの靴音が、背後からやけに大きく響いた。
振り返ったらいけないとわかりつつも、佳蓮はおずおずと振り返ってしまう。
その瞬間、黒目がちのその瞳が限界まで開かれた。
「……どうし……て」
──あなたが、こここにいるの?
佳蓮は最後まで言葉を紡ぐことができなかった。それほどに、怖かった。
そして全く理解ができなかった。北の領地に視察に行っている彼が、今ここにいるなんて。
飛行機も新幹線もないこの世界で、短時間で長距離を移動できるなんて魔法でも使わなければできっこないのに。
混乱と恐怖で、佳蓮は現状を受け止めきれず頭が真っ白になる。セリオスとリュリュも絶望の表情を浮かべている。
けれど、突如現れた彼だけは至極冷静だった。
眉間に皺を寄せてはいるけれど、激昂している様子はない。美麗な顔を動かすことはせず、視線だけでこの状況を把握していた。
そして長い間の後、佳蓮にこう言った。微笑みさえ浮かべて。
「ずいぶん騒がせてくれたな。これまでの意趣返しでもしたかったか?カレン……どうだ、これで満足したか?」
佳蓮は、勇気を出してセリオスに一歩近づいた。
「デマカセ?ねえ、それって誰が証明してくれるの?」
「だ、誰がって……それは……」
セリオスはあからさまに狼狽えているが、リュリュの拘束を解いてはくれない。
(ちっ。しぶといな、この人)
心の中で舌打ちした佳蓮は、更にセリオスを追い込んでいく。
「いっそどっちの証言を信じてもらえるか試してみよっか?でもね、言っておくけど、ここには私とリュリュさんと、あんたの3人だけ。ぶっちゃけ2対1の証言で、どっちの証言が信用されるのかなぁ?私、どうやら結構な位置にいるらしいし……ねぇ、リュリュさん、皇帝陛下のお気に入りに手を出しちゃったら、どうなるの?」
「極刑でございます」
間髪入れずに、リュリュは佳蓮の欲しい言葉を紡いでくれた。瞬間、セリオスは屈辱で顔を歪めた。
(よし!あとちょっとで、この人は保身に走る)
確信を持った佳蓮は、セリオスを追い詰める。
「ねーえー、セリオスさぁーん。極刑って怖いよね?しかも冤罪で首を切られちゃうなんて、嫌だよねぇー」
「……っ」
「私さぁ、別にあなたが死ねばいいと思っているわけじゃないの。見逃して欲しいって言っているだけなんだけどなぁー」
「……あ、あなたという人は……」
飴と鞭の要領で、佳蓮は今度は柔らかい口調でセリオスを諭す。
「今の地位、大事なんでしょ?守りたいんでしょ?私、あなたのそれになんか興味ないの。そんなの奪ったところで何の得にもならないし。勘違いしないでほしいんだけど、こっちがお願いしてるのは一つだけ。見なかったことにして。それだけだよ。……ねぇ、お祈りしてたんでしょ?今すぐ神殿に戻って続けてよ」
佳蓮は膝を折り、セリオスと目を合わせた。でも彼は頷かなかった。
「……む、無理です。できません。どうか離宮にお戻りください」
苦渋の決断をしたセリオスの顔を、佳蓮はそのまま蹴り付けたい衝動に駆られた。だがそうしたところで、ほんの僅かな鬱憤が晴れるだけだ。
佳蓮は感情を押さえ込むために、あからさまにため息を吐く。
「そう。ウザいほど頑固者なんだね。あっそれとも、そうやって嬲られるのが好きなだけだったりして……このクソ変態、やっぱ極刑だわ」
その瞬間、ぷっとリュリュが噴き出した。
セリオスはというと、これ以上にないほど屈辱で歪んでいたけれど、絶対に意志は曲げないと強く瞳が訴えている。
佳蓮とて引くに引けない状況なのだ。なら、もうとことん突っ走るしかない。
「じゃあ、そうやって意地を張り続ければいいよ……できるかどうかは時間の問題だと思うけどさ」
軽い口調でそう言うと、佳蓮はすくっと立ち上がった。
次いで、身体に引っ掛かっているだけのドレスを脱ぎ捨てて、今度はアンダードレスに手を掛ける。
今度はさっきより慎重に背中のボタンを一つ飛ばし、二つ目のボタンに手をかけたその時──
「やめなさいっ」
今までとは違う切羽詰まった表情を浮かべて、セリオスが叫んだ。
それを聞いた佳蓮は、やっと観念する気になったかとほっと胸をなでおろす。けれど、セリオスの続く言葉で、それは大きなる間違いであったことを知る。
「今すぐ服を着てくださいっ。陛下が後ろにいるんです!!」
「っ……!?」
嘘かどうか真偽を確かめるよりも前に、セリオスが紡いだその名に体がびくりと反応してしまう。
だがすぐ、いやいやまさかと不安を打ち消そうとするが、リュリュは餌を与えてもらっていない肉食獣と同じ檻に入れられてしまったかのような表情を浮かべていた。
いやいやまさかが、一気に現実を帯びる。同時に、背筋に戦慄が走った。
──カツン。
たったそれだけの靴音が、背後からやけに大きく響いた。
振り返ったらいけないとわかりつつも、佳蓮はおずおずと振り返ってしまう。
その瞬間、黒目がちのその瞳が限界まで開かれた。
「……どうし……て」
──あなたが、こここにいるの?
佳蓮は最後まで言葉を紡ぐことができなかった。それほどに、怖かった。
そして全く理解ができなかった。北の領地に視察に行っている彼が、今ここにいるなんて。
飛行機も新幹線もないこの世界で、短時間で長距離を移動できるなんて魔法でも使わなければできっこないのに。
混乱と恐怖で、佳蓮は現状を受け止めきれず頭が真っ白になる。セリオスとリュリュも絶望の表情を浮かべている。
けれど、突如現れた彼だけは至極冷静だった。
眉間に皺を寄せてはいるけれど、激昂している様子はない。美麗な顔を動かすことはせず、視線だけでこの状況を把握していた。
そして長い間の後、佳蓮にこう言った。微笑みさえ浮かべて。
「ずいぶん騒がせてくれたな。これまでの意趣返しでもしたかったか?カレン……どうだ、これで満足したか?」
65
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる