皇帝陛下の寵愛なんていりませんが……何か?

当麻月菜

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一部 おいとまさせていただきますが......何か?

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 剣を手にしたリュリュは、びっくりするほど強かった。だがしかし、セリオスはリュリュの強さを遥かに上回っていた。 

 力強く踏み込んだリュリュを、セリオスは立ち位置を変えることなくひらりと避けた。そしてあっという間にリュリュから剣を奪ってしまった。

 逃げるタイミングを窺っていた佳蓮が息を呑んだ時には、リュリュは床に腹ばいになっていた。その背には、セリオスの膝が置かれている。

 しかもリュリュの腕はセリオスによって締め上げられていて、警察官が犯罪者を取り押さえたときのような光景だ。リュリュは悪いことなんかしていないのに。

「離せっ、このクズ!」
「本当にまぁ……あなたは口だけは元気ですね。あと女性に無体なことはしたくないので、これ以上暴れないでくださいよ」

 そう言いながらもセリオスはギチギチと音がしそうなほど、リュリュの腕を締め上げる。

 あまりに酷い仕打ちに、佳蓮は悲鳴に似た声を上げた。 

「ちょっとっ、やめて!やめてったら!!」
「カレンさま、逃げてくださいっ」
「いやいや逃げないでください。カレン様、この際だから、あなたに言いたいことがあるんです」

 リュリュとセリオスの言葉が被さるように、隠し通路に響く。

 出口方向にはセリオスがいて、逃げるのは不可能だ。それでも佳蓮はせめてもの抵抗で、じりじりと後退する。

 リュリュには申し訳ないが、捕まることだけは避けたい。本当に申し訳ないが、我が身が一番可愛い。

 そんな佳蓮の心情を察したのか、セリオスは引き留めるように声を張り上げる。

「あのですねカレンさま、この生活にご不満があるなら直接陛下に物申せばいいでしょう?あなたはそれが唯一できる存在なのですから。リュリュさんを巻き込まないでください。このお嬢さんはあなたと違って、ただの使用人でしかないんです。罰を受けるのは、あなたではなく彼女なんですよ」
「カレンさまに、無礼なことを言うんじゃないわよっ。このクソジジイっ。私が勝手にやっただけなのっ──カレンさま!この馬鹿の言葉に耳を貸してはいけませんっ」
「えー……ジジイって……こう見えても、あなたのお兄さんより年下なんですよ」
「黙りなさい!」
 
 キャンキャンと喚くリュリュと、セリオスの不快な小言を聞いて、佳蓮はこんな時なのに嬉しさが込み上げてきて、目の奥がじんと熱くなる。

(もういいや。これが全部茶番だとしてもリュリュさんを信じよう)

 佳蓮はリュリュを救うと決めた。そしてリュリュと二人でこの場から逃げ切る方法を必死に考え──妙案とは言えないけれど、辛うじて望みを持てるやり方を見つけた。

 それは脅しという名の説得で、佳蓮にしかできなくて、男性からしたらかなりえげつないもの。ただし、上手くいくかどうかは神頼みの領域だ。
 
 佳蓮は深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。どうか声が震えませんようにと必死に祈りながら、頬に張り付いた髪を耳にかけセリオスに問いかけた。

「ねぇ、あなたにとって、今の地位って大事?」

 佳蓮の問いかけは何の脈絡もないように感じるが、こんな状態で意味のないことはしない。

 それに気づいたセリオスは、佳蓮の真意を探ろうと目を細めるが、どれだけ目を凝らしても佳蓮はただただふてぶてしいだけだった。

「……まぁ……そりゃあ、大事ですよ」

 少し悩んでからセリオスは、リュリュを取り押さえる手を緩めずに答えた。

「本当に?守りたい?なくしたくない?」

 食い気味に問いかける佳蓮に、セリオスは面倒くさそうに答える。

「ええ」
「なら、見逃してよ」
「は?駄目ですよ。この流れて、なんていうお願いをするんですかあなたは」

 唖然とするセリオスに、佳蓮も心の中で同意する。

(……まぁ、そうだろうね)

 こんなお願いの仕方で是と頷いてくれるなら、リュリュを乱暴に取り押さえたりなんかしない。

 もちろん佳蓮だって、セリオスがあっさり見逃してくれるなんて思っていない。この先に続く言質が欲しかっただけだ。

「そっか、わかった。じゃあ、後でどうなっても私を恨まないでね」
「はぁ?……ちょっと何してるんですか!?」

 物騒な言葉を吐いた佳蓮は、ドレスの胸元に手を掛け力任せにそれを引き裂いた。 

 ビリッ、ビリビリビリリリッっと、侍女のお仕着せが悲鳴を上げながら、ただの布切れと化す。布切れは、アンダードレス姿になった佳蓮の身体にかろうじて引っ掛かっている状態だ。

 あまりの出来事にセリオスはぎょっとしたが、慌てて目を逸らす。リュリュは床に押さえつけられながらも、あわあわと狼狽している。

 正直、佳蓮もここまで派手にやるつもりではなかった。やりすぎてしまったこの現状に困惑している。

 だが、そんなことはおくびにも出さない。出したら終わりだ。

「カ、カレン様!なんてことをするんですかっ」

 セリオスのその声は、もはや悲鳴であった。狼狽する聖職者の姿を見て、佳蓮はとても小気味いい。

「何って?見てわからないの?」
「そんな破廉恥な姿、見てませんっ。とにかくこんな馬鹿な真似はやめなさい!」
「馬鹿?はっ、馬鹿はあなたよ。あのね、これ、あなたにされたの」
「は?」

 セリオスは間の抜けた声があまりに可笑しくて、佳蓮はクスクスと笑いながら言葉を続ける。

「セリオスさん、私ね、あなたに呼び出されたの。元の世界に戻してあげるから、内緒で隠し通路を使ってここに来いって」
「ちょ、何を言って……」
「そうしたらね、あなたはとんだロリコン野郎で私に乱暴しようとしたの。で、不審に思ったリュリュさんがこっそり後を付けてくれていたんだけど、現場を見られたあなたはリュリュを床に押さえつけて、このことを喋ったら殺すと脅したんだ。そして私にも、リュリュを殺されたくなければ、言うことを聞けって、あなたに脅されながら服を破かれたんだ……ひどいなぁ、セリオスさん。マジ鬼畜。聖職者のくせに最低だね」
「なっ」

 セリオスもここで佳蓮の意図がわかった。信じられないと言った感じで目を大きく見開く。

 どうやらこの世界では、こういう類の冤罪はあまり例を見ないようで、セリオスの表情が悔し気なものに変わった。

「……お、お待ちください。そ、そんな……デマカセが通用するなど」

 唸るようにそう言ったセリオスだけれど、ついさっきまでの余裕はどこにもなかった。
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