35 / 148
一部 おいとまさせていただきますが......何か?
12★
しおりを挟む
ロダ・ポロチェ城内の執務室にいるアルビスは、窓際に立つと腕を組んで、ガラス越しに広がる景色を眺めている。
今の時刻は朝といっても、まだ早朝だ。官職も騎士達も業務に就くには早く、朝独特の澄んだ空気がガラスを通して伝わってくる。
昨日の同じ時刻、アルビスは北の最果てにいた。
既に雪が積もっていて、光彩が視界に入る全てを純白に染め上げていた。枝の梢には白銀の雪の花が咲いていて、とても美しかった。
そんなふうに感じる自分に、アルビスはとても驚いた。そして佳蓮と一緒に見たら、もっと美しいく見えるだろうとも思った。
けれど肩を並べて同じ光景を見る機会は、もう一生望めない。いや望むことさえ罪なことをアルビスはしてしまった。
どれほど後悔しても、アルビスはあの時、飢えが止まらなかった。一度知ってしまった佳蓮の身体は麻薬のようで、幾らでも欲しくなる。
だからアルビスは佳蓮を遠い地に移し、距離を取ることにした。
しかし贖罪のために佳蓮の願いを叶えるというのは、都合のいい言い訳だ。そうでもしないと同じ過ちを繰り返してしまうことを自覚している。
そして今度こそ、生身の体の佳蓮を滅茶苦茶に抱いてしまうだろう。
アルビスは、それがとてつもなく怖かった。
「──あ、陛下、こっちにいらしてたんですか」
扉が乱暴に開いたと同時に、護衛騎士の声が部屋に響いた。
アルビスは首だけを動かして、護衛騎士の一人であるヴァーリに視線を向ける。
「あのお嬢さん今は離宮で大人しくしていますよ。騒ぐ声も聞こえませんし、もしかして昨日は相当厳しくお叱りに?まぁ、気持ちはわからなくもないですが……あんまり間近で説教すると、痛い目をみますよ」
もぞっと内股になったヴァーリだったけれど、アルビスはその仕草を見て見ぬふりをする。
ヴァーリは昨日、佳蓮がアルビスから何をされたのか知らない。ただ逃亡しかけて、堪忍袋の緒が切れたアルビスに厳しく怒られただけだと思い込んでいる。
(……そのまま誤解させておくか)
保身の為ではなく、佳蓮が知られたくないだろう。
そんなアルビスの心情を知らないヴァーリは、まだまだ喋りたそうでいる。それを遮るためにアルビスは、強い口調でこう言った。
「ヴァーリ、カレンの護衛の任を解く」
「へ?え、俺、なんかしましたか?……あー、まぁ……そうですか……はい」
きょとんと眼を丸くするヴァーリだが、どうやら思い当たることがあるのだろう。わざとらしく視線を彷徨わせた。
そんな挙動不審な彼にアルビスは引っ掛かりを覚えたが、深く追及せずにこの後の指示を伝える。
「西のルニンへ行け」
「へ?なんでまた」
「あれの新しい住まいになるからだ。あそこら辺は過去に山賊が出没したと報告を受けた場所だ。状況を確認してこい」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!!」
淡々と指示を下すアルビスに、ヴァーリは慌てた様子で詰め寄った。
「な、な、な、な、なんでまた……」
アルビスの傍まで行ってみたものの、ヴァーリはその後の言葉が見つからず右往左往する。そんな彼に、アルビスは感情を殺してこう言った。
「あれがそこに行きたかったようだからな」
2度目の行為に耐え切れず佳蓮が意識を失ってしまったあと、アルビスは印が付けられた地図を見つけてしまったのだ。
そこは初代の聖皇后が現れたと伝えられている地で、晩年聖皇后が余生を過ごした城がある。今でも管理者が常駐しているので、居城として使えるはずだ。
でも詳細を伝えるわけにはいかないアルビスは「とにかく行け」と命じる。当然ヴァーリは納得しない。
「行きたいだけなら住まわせる必要なんてないっすよね!?宮殿内の騎士を引き連れて行って帰ってくればいいじゃないっすか。それに陛下と距離を取ればそれだけあのお嬢さんにだって危険が──」
「それは問題ない」
「なぜですか?」
突っかかるように問いを重ねるヴァーリに、アルビスは煩わしさを覚えてしまう。
(ったく、これだから武闘派は……)
シダナだったらある程度は察してくれて、それ以上踏み込まないだろう。
とはいえ長い付き合いであるこの側近騎士に、今だけ都合よく察しろと求める方が間違いである。
「あれには”護り”を与えた。だから、何かあればすぐにわかる」
アルビスが端的に伝えた一拍後、ヴァーリは絶叫した。
今の時刻は朝といっても、まだ早朝だ。官職も騎士達も業務に就くには早く、朝独特の澄んだ空気がガラスを通して伝わってくる。
昨日の同じ時刻、アルビスは北の最果てにいた。
既に雪が積もっていて、光彩が視界に入る全てを純白に染め上げていた。枝の梢には白銀の雪の花が咲いていて、とても美しかった。
そんなふうに感じる自分に、アルビスはとても驚いた。そして佳蓮と一緒に見たら、もっと美しいく見えるだろうとも思った。
けれど肩を並べて同じ光景を見る機会は、もう一生望めない。いや望むことさえ罪なことをアルビスはしてしまった。
どれほど後悔しても、アルビスはあの時、飢えが止まらなかった。一度知ってしまった佳蓮の身体は麻薬のようで、幾らでも欲しくなる。
だからアルビスは佳蓮を遠い地に移し、距離を取ることにした。
しかし贖罪のために佳蓮の願いを叶えるというのは、都合のいい言い訳だ。そうでもしないと同じ過ちを繰り返してしまうことを自覚している。
そして今度こそ、生身の体の佳蓮を滅茶苦茶に抱いてしまうだろう。
アルビスは、それがとてつもなく怖かった。
「──あ、陛下、こっちにいらしてたんですか」
扉が乱暴に開いたと同時に、護衛騎士の声が部屋に響いた。
アルビスは首だけを動かして、護衛騎士の一人であるヴァーリに視線を向ける。
「あのお嬢さん今は離宮で大人しくしていますよ。騒ぐ声も聞こえませんし、もしかして昨日は相当厳しくお叱りに?まぁ、気持ちはわからなくもないですが……あんまり間近で説教すると、痛い目をみますよ」
もぞっと内股になったヴァーリだったけれど、アルビスはその仕草を見て見ぬふりをする。
ヴァーリは昨日、佳蓮がアルビスから何をされたのか知らない。ただ逃亡しかけて、堪忍袋の緒が切れたアルビスに厳しく怒られただけだと思い込んでいる。
(……そのまま誤解させておくか)
保身の為ではなく、佳蓮が知られたくないだろう。
そんなアルビスの心情を知らないヴァーリは、まだまだ喋りたそうでいる。それを遮るためにアルビスは、強い口調でこう言った。
「ヴァーリ、カレンの護衛の任を解く」
「へ?え、俺、なんかしましたか?……あー、まぁ……そうですか……はい」
きょとんと眼を丸くするヴァーリだが、どうやら思い当たることがあるのだろう。わざとらしく視線を彷徨わせた。
そんな挙動不審な彼にアルビスは引っ掛かりを覚えたが、深く追及せずにこの後の指示を伝える。
「西のルニンへ行け」
「へ?なんでまた」
「あれの新しい住まいになるからだ。あそこら辺は過去に山賊が出没したと報告を受けた場所だ。状況を確認してこい」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!!」
淡々と指示を下すアルビスに、ヴァーリは慌てた様子で詰め寄った。
「な、な、な、な、なんでまた……」
アルビスの傍まで行ってみたものの、ヴァーリはその後の言葉が見つからず右往左往する。そんな彼に、アルビスは感情を殺してこう言った。
「あれがそこに行きたかったようだからな」
2度目の行為に耐え切れず佳蓮が意識を失ってしまったあと、アルビスは印が付けられた地図を見つけてしまったのだ。
そこは初代の聖皇后が現れたと伝えられている地で、晩年聖皇后が余生を過ごした城がある。今でも管理者が常駐しているので、居城として使えるはずだ。
でも詳細を伝えるわけにはいかないアルビスは「とにかく行け」と命じる。当然ヴァーリは納得しない。
「行きたいだけなら住まわせる必要なんてないっすよね!?宮殿内の騎士を引き連れて行って帰ってくればいいじゃないっすか。それに陛下と距離を取ればそれだけあのお嬢さんにだって危険が──」
「それは問題ない」
「なぜですか?」
突っかかるように問いを重ねるヴァーリに、アルビスは煩わしさを覚えてしまう。
(ったく、これだから武闘派は……)
シダナだったらある程度は察してくれて、それ以上踏み込まないだろう。
とはいえ長い付き合いであるこの側近騎士に、今だけ都合よく察しろと求める方が間違いである。
「あれには”護り”を与えた。だから、何かあればすぐにわかる」
アルビスが端的に伝えた一拍後、ヴァーリは絶叫した。
56
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
期限付きの聖女
波間柏
恋愛
今日は、双子の妹六花の手術の為、私は病院の服に着替えていた。妹は長く病気で辛い思いをしてきた。周囲が姉の協力をえれば可能性があると言ってもなかなか縦にふらない、人を傷つけてまでとそんな優しい妹。そんな妹の容態は悪化していき、もう今を逃せば間に合わないという段階でやっと、手術を受ける気になってくれた。
本人も承知の上でのリスクの高い手術。私は、病院の服に着替えて荷物を持ちカーテンを開けた。その時、声がした。
『全て かける 片割れ 助かる』
それが本当なら、あげる。
私は、姿なきその声にすがった。
流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜
古森きり
恋愛
平凡な女子高生、加賀深涼はハロウィンの夜に不思議な男の声を聴く。
疎遠だった幼馴染の真堂刃や、仮装しに集まっていた人たちとともに流星群の落下地点から異世界『エーデルラーム』に召喚された。
他の召喚者が召喚魔法師の才能を発現させる中、涼だけは魔力なしとして殺されかける。
そんな時、助けてくれたのは世界最強最悪の賞金首だった。
一般人生活を送ることになった涼だが、召喚時につけられた首輪と召喚主の青年を巡る争いに巻き込まれていく。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに掲載。
[お願い]
敵役へのヘイト感想含め、感想欄への書き込みは「不特定多数に見られるものである」とご理解の上、行ってください。
ご自身の人間性と言葉を大切にしてください。
言葉は人格に繋がります。
ご自分を大切にしてください。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる