盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜

文字の大きさ
57 / 105
お仕事のはずなのに、そんな顔であんなことをするのは少し狡いと思う

19

しおりを挟む
 大声でアシェルが叫んだあと、ノアを取り巻く世界はしんと静まり返った。

 ついさっきまで聞こえていた木々のざわめきも、遠くで鳴いていたフクロウっぽい鳥の声も、どこかにかき消えてしまった。

 でも、そうじゃなかった。

 自分がアシェルに抱き締められているから、外の音が遮断されていることにノアは気づいた。

「へ?......え? で、殿下......どうしたんですか?」

 フレシアの代わりのように突然ここに突っ走ってきたアシェルは、自分を掻き抱いてから何も言わない。ぎゅっと力任せに抱き締めている腕もピクリとも動かない。

 つまりノアは、とても苦しい。息すら困難な状態だ。

 そんなわけで微動だにしないアシェルを動かすことを諦めたノアは、自分が動くことを選んだ。

 といっても、ガチガチに拘束されているから、せめて呼吸ができるようにちょっとだけ首を横に動かすことしかできなかったけれど。

 でも、それすらアシェルはご不満なようで、更にノアを抱き締める腕に力を込める。

「......ノア、どこにも行かないで。......頼む、私を置いていかないで......お願いだ」

 悲痛な声をノアの耳に落とすアシェルは、今にも泣きそうな顔だった。

 でもノアは、それどころじゃない。窒息寸前で生きるか死ぬかの瀬戸際だった。

 しかもアシェルは勢い余って前のめりになっていく。

 自分より遥かにガタイの良い人間の全体重が己に乗っかってくるのだ。とてもじゃないけれど自分の力じゃ支えきれなくなったノアは、とうとう後ろにひっくり返ってしまった。

 押し倒される形となって、なんだか際どい状態になっているけれど、唯一の救いはさっきよりは息ができるようになったこと。それに、ノアはホッとする。

 女性という立場では、決して安心できない状況であるが。命が繋がったのでノアはとりあえず良しとする。

 そして、やっと盲目王子に目を向けた。

「……あ、あのですね、殿下。どうして───」
「お願いだ、ノア。なにも言わないでくれ。どうか傍にいてくれ」
「......は?」

 地面に仰向けになったまま間抜けな声を出すノアの背にアシェルは手を入れるとそっと起こす。

 そしてまた、ぎゅーっと抱き締める。

 さすがに先程よりは手加減してくれているので、苦しくはないけれど、夜闇でもアシェルの表情はひどく辛そうだった。

 まかり間違っても、夜中に日帰で里帰りをする仮初めの婚約者を見送りに来た表情ではない。

(これはもう、完璧に勘違いしてるのでは?いや、勘違いしているよね、きっと) 

 ようやっと脳に酸素が送られ、まともに考えられるようになったノアは、ここでやっとアシェルがなにか盛大に誤解をしていることに気づいた。

(えっと......グレイアス先生は......殿下にどんな伝え方をしたの??)  

 ノアはアシェルに里帰りの件を直接伝えてはいない。

 珍しくグレイアス先生が「殿下には、私が上手に伝えておきますから」と言って、伝言係を引き受けてくれたのだ。

 しかし、アシェルのこの尋常じゃない取り乱し方を見て、ノアは自分で言えば良かったと心底後悔した。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

これが運命ではなかったとしても

gacchi(がっち)
恋愛
アントシュ王国に生まれたルーチェ王女は精霊付きのため、他人と関わらないように隔離されていたが、家族には愛され不自由でも幸せに育っていた。そんなある日、父と兄が叔父に毒を盛られ捕縛される事件が起こり、精霊に守られ無事だったルーチェは塔へと閉じ込められる。半年後、ルーチェを助けてくれたのは隣国の国王の命令で派遣されてきた王弟アルフレッド。保護されたルーチェは隣国へと連れて行かれるが、そこでは生き別れの双子の妹シンディが王女として育てられていた。

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

異世界から帰ってきたら、大好きだった幼馴染みのことがそんなに好きではなくなっていた

リコピン
恋愛
高校三年生の夏休み直前、勇者として異世界に召喚された明莉(あかり)。無事に魔王討伐を終えて戻ってきたのは良いけれど、召喚される前とは色んなことが違っていて。 ずっと大好きだったイケメン幼馴染みへの恋心(片想い)も、気づけばすっかり消えていた。 思い描いていた未来とは違うけれど、こちらの世界へついてきてくれた―異世界で苦楽を共にした―友達(女)もいる。残りわずかの高校生活を、思いきり楽しもう! そう決めた矢先の新たな出会いが、知らなかった世界を連れてきた。 ―あれ?私の勇者の力は、異世界限定だったはずなのに??

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。 そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。 幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。 そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――? 「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」 鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。 精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。

崖っぷち令嬢の生き残り術

甘寧
恋愛
「婚約破棄ですか…構いませんよ?子種だけ頂けたらね」 主人公であるリディアは両親亡き後、子爵家当主としてある日、いわく付きの土地を引き継いだ。 その土地に住まう精霊、レウルェに契約という名の呪いをかけられ、三年の内に子供を成さねばならなくなった。 ある満月の夜、契約印の力で発情状態のリディアの前に、不審な男が飛び込んできた。背に腹はかえられないと、リディアは目の前の男に縋りついた。 知らぬ男と一夜を共にしたが、反省はしても後悔はない。 清々しい気持ちで朝を迎えたリディアだったが……契約印が消えてない!? 困惑するリディア。更に困惑する事態が訪れて……

処理中です...