悪役令嬢と呼ばれた彼女の本音は、婚約者だけが知っている

当麻月菜

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本音で語る思い出話①

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 これはもう想定外の想定外。あまりにも突拍子もない出来事に、ルシータの胸の痛みなどどこかに吹っ飛んでしまった。

 でも疑い深いルシータは、自分があまりの出来事に気絶して夢でも見ているのかとすら思ってしまう。

 俯いてパチパチと瞬きを7回繰り返す。
 でも今の現状は変わらない。ルシータは、意を決して顔を上げて再びレオナードの顔を食い入るように見つめてしまう。

 レオナードは、背が高いはずなのに今回もまた背伸びをしないで目を合わすことができた。
 そのことに、ルシータはずっと考えないでいようとしていた自分にとって都合の良いことを素直に受け入れることにする。

 そして気持ちを固めて、もっと強く覗き込んだ翡翠色の瞳には、これまでとはちょっと違う自分の姿が写っていた。

「......君から目を会わせてくれたのは、随分久しぶりだね」

 場違いなほど嬉しそうなレオナードの声が降ってくる。

 ああ、そうだったと、ルシータは唐突に思い出した。
 学園に入学するもっともっと前、身分差のことなど全然考えなくてもよかったあの頃、ルシータは無邪気に無遠慮にレオナードの瞳を覗き込んでいた。

 お日様に反射する翡翠色の瞳がとても綺麗で。特上のキャンディのように美味しそうで。

 懐かしい。でも、どうしてこんな大切なことを忘れていたのだろう。
 いや、違う。忘れていた訳じゃない。無理矢理記憶の箱に蓋をしてしまったのだ。

 入学早々、学園内で顔を会わせたレオナードがあまりに眩しくて。
 たくさんの女性に囲まれて、そつなく対応する彼が、ものすごく遠い世界の人間なのだと気付かされたから。

 つまりずっと天邪鬼な態度しか取れなかったのは、全部全部、レオナードのせいなのだ。

 そんなふうに誰がどう見ても責任転嫁するような結論を下したルシータは、正直言ってもうアスティリアのことなんて、どうでも良かった。

 ま、……まぁ、ズルいとは思うけれど、過去に恋人がいたことについては、今は考えないことにする。だって過去の事だから。なにせ過去の事だから。

 けれど現実は、そうもいかない。
 現在ルシータは、レオナードに抱きしめられているのだ。ぎゅっと太い腕がルシータの背中に回されていて、二人は身体を密着させている状態。

 つまりそれは端から見たら、アスティリア自ら公開処刑をしたはずなのに、それが失敗に終わったということ。
 しかも頼んでもいないのにイチャイチャを見せつけられたということで。

 殺気に近いギャラリーからの視線がルシータに遠慮なく向けられる。もちろんその中にはアスティリアからのも含まれていたりする。

 もちろんレオナードはそれをちゃんとわかっている。
 わかっている上で、ルシータを自分の腕に抱き込んでいる。そして再びこんな言葉を優しく囁いた。

「ねぇルシータ、僕が代わりに言っても良いかな?だって僕は君の婚約者なんだから。君を護る権利がある」
 いや、むしろ言わせてくれ。
 
 そんなニュアンスをしっかりと受け取ったルシータは、レオナードに向けてゆっくりと首を横に振った。

 ルシータはもともと引っ込み思案な性格だったわけではない。
 幼い頃、大人が目を離せば破天荒なことばかりするお転婆で、雲の上のような存在の高貴な少年の腕を掴んで探検に向かうことができるほど物おじしない性格だったのだ。

 そして、ちょっとばかし人間不信で自分の殻に閉じこもっていただけで、本来の性格は何も変わっていない。

「大丈夫です。でも、傍で聞いていて下さい」

 ルシータはここでようやく笑みを浮かべた。

「……了解。でも、ちょっと残念」
 
 本気で不満そうな顔をするレオナードの腕をルシータは軽くたたく。それが合図となり、ようやっとルシータは、正面に身体を向けた。

 背中にレオナードを感じながら視線を真っすぐに向ければ、意地の悪い笑みから、険しい表情に変わったアスティリアがいた。

 でも口を開いたのは、間一髪でルシータのほうが早かった。

「アスティリア、一つ聞いても良いかしら?」
「え、ええ……どうぞ」

 出鼻を挫かれたアスティリアは、若干どもりながら、でも顎を突きだしてルシータに発言の許可を与えた。

「あなたからの招待状に『昔のことは許してあげる』と書いてあったけれど、私、あなたに許しを乞わないといけないことをしたかしら?」
「なっ」

 謝罪もしなければ、言い訳の一つも無い尊大なルシータの物言いにアスティリアは絶句した。

 まさかそんなことを聞かれるなど露ほどにも思っていなかったのだろう。わなわなと唇を震わせ、こめかみがピクピク踊っている。

 おやまあ、顔中大騒ぎだ。
 そんなことを冷静に思いながら、ルシータは言葉を続ける。

「ねえ、私あなたに何を謝れば良いのかしら?」

 ルシータがアスティリアに問いを重ねた途端、背に暖かい何かが触れた。レオナードの手だった。

 その大きな手は、ルシータの背を肩甲骨から、腰骨までゆっくりと上下する。まるでルシータの行動を肯定してくれているように。

 ─── ああ、本当にレオナードは私の味方でいてくれるんだ。

 ルシータは胸が熱くなった。

 言っておくが、引きこもりだって、社交界からつまはじきにされていたって、好きな人にほんの少し優しくされただけで、きゅんとしてしまうものなのだ。

 そして好きな人が味方でいてくれるなら、世界中の人間を敵に回したって怖くはない。
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