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4-2.冬の嵐(後編)
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本日、なぜリックがモニカの自宅にいるかといえば─── クラウディオがどうしても外せない政務があり、モニカの送り迎えをリックが買って出たからだ。
もちろんクラウディオもモニカも、遠回しに断った。
しかし相手は王族だ。アクゥ砦に行くついでだと言われてしまえば、嫌だと強く訴えることはできない。
ちなみにクラウディオは、何とか政務を調整しようとした。だが、モニカがそれを止めた。
モニカとしたら、リックがヘソを曲げて砦の調査を放棄されたらたまったもんではないし、長雨のせいで馬車を出してもらうことを遠慮していた為、そろそろ自宅の様子を確認したかったのもある。
とはいえ、こんな状況になっているなら、少々強引な手段を使ってでも一人で自宅に戻れば良かったと思ってしまう。
「お嬢様、このようなことになってしまい、申し訳ありませんっ」
「大切なお屋敷をこのような姿にさせてしまい、お詫びの言葉も見つかりませんっ」
でくの坊のように突っ立っているモニカに、私服姿のクラウディオの部下二人が駆け寄って来た。
と思ったら、ものすごい勢いで頭を下げられてしまった。
ドン引きするほど丁寧な謝罪を受けて、モニカは後退りしながらも顔を上げてもらうよう身振り手振りで訴える。
「あ、いえいえ。気にしないでください。それよりお二方は、お怪我とか無いですか?」
「はい。私共は大丈夫です。ですが……」
部下の一人がチラッと花壇を見つめ、悔しそうに顔を歪ませた。
「裏庭を警護している隙をつかれました。すぐに異変に気付いて犯人を追いかけたのですが」
「つまり君たちは、どんな人がこれをやったのか知ってるってことなんだよね?」
モニカにせっせと事情を説明していた部下達は、割って入って来た人物がリックだと気付いた途端、大きく仰け反った。
「どんな人だった?教えてくれるかな?」
「はっ。報告します。お嬢様のお屋敷を荒らしたのは───」
「村の子供たちです」
部下の報告を遮ったのはモニカだった。
モニカは、我が家をこんな有様にした犯人は誰かはわからないが、どうしてこんなことをされたのかはわかっている。
これは、村長交代を恨んでの犯行なのだ。
こう言ってはアレだが、元の村長は大して役に立つ人材ではなかったし、お節介が過ぎる性格だった為、頼りたいと思ったことは無かった。
しかも揉め事を極端に嫌い、アクゥ砦の件を揉み消そうとしたどうしようもないご老人だった。
けれど、辺境の村では変化を何より嫌う。
モニカの家族が移り住んだだけで、村は厳戒態勢だった。
警戒心剥き出しにする村人を見て、モニカの父親は「まるで罪人にでもなってしまったようだなぁ」とボソッと呟いたのを覚えている。
滅多なことでは人を悪く言うことも無く、愚痴も零さない父が苦い顔をしていたのは、大変珍しいことだったので、モニカは強い衝撃を覚えてしまった。
そんな余所者のせいで村長が変わってしまった。
これだけで十分恨まれる理由になるのだろう。けれど、リックに村の考え方を伝えたところで彼は到底理解できないこと。
だからモニカは事情を説明することより、我が家を元通りにすることを優先した。
綺麗にして何事もなかったようにすれば、それで良い。そして村人たちに「こんなもん、全然気にしないわっ」という態度を貫けばいい。
なぜならモニカは後ろ指を刺されるような事は何一つしていないのだから。
……と思いながら、モニカはやんちゃな村の子供の悪戯に「あーもぅ、参った参った」という大人の顔をして、散らばっている石を拾い始める。
けれど、石を拾う指先は震えていた。
そんなモニカを見て、リックはこれ以上の追及することを諦め、肩を竦めた。しかし、すぐに腕まくりをして、モニカの隣に膝を付く。
「うん。じゃあ僕も手伝うね」
「はい?!」
にこっと笑ってそう言ったリックに、モニカは無礼を承知で素っ頓狂な声を上げてしまった。
もちろんクラウディオもモニカも、遠回しに断った。
しかし相手は王族だ。アクゥ砦に行くついでだと言われてしまえば、嫌だと強く訴えることはできない。
ちなみにクラウディオは、何とか政務を調整しようとした。だが、モニカがそれを止めた。
モニカとしたら、リックがヘソを曲げて砦の調査を放棄されたらたまったもんではないし、長雨のせいで馬車を出してもらうことを遠慮していた為、そろそろ自宅の様子を確認したかったのもある。
とはいえ、こんな状況になっているなら、少々強引な手段を使ってでも一人で自宅に戻れば良かったと思ってしまう。
「お嬢様、このようなことになってしまい、申し訳ありませんっ」
「大切なお屋敷をこのような姿にさせてしまい、お詫びの言葉も見つかりませんっ」
でくの坊のように突っ立っているモニカに、私服姿のクラウディオの部下二人が駆け寄って来た。
と思ったら、ものすごい勢いで頭を下げられてしまった。
ドン引きするほど丁寧な謝罪を受けて、モニカは後退りしながらも顔を上げてもらうよう身振り手振りで訴える。
「あ、いえいえ。気にしないでください。それよりお二方は、お怪我とか無いですか?」
「はい。私共は大丈夫です。ですが……」
部下の一人がチラッと花壇を見つめ、悔しそうに顔を歪ませた。
「裏庭を警護している隙をつかれました。すぐに異変に気付いて犯人を追いかけたのですが」
「つまり君たちは、どんな人がこれをやったのか知ってるってことなんだよね?」
モニカにせっせと事情を説明していた部下達は、割って入って来た人物がリックだと気付いた途端、大きく仰け反った。
「どんな人だった?教えてくれるかな?」
「はっ。報告します。お嬢様のお屋敷を荒らしたのは───」
「村の子供たちです」
部下の報告を遮ったのはモニカだった。
モニカは、我が家をこんな有様にした犯人は誰かはわからないが、どうしてこんなことをされたのかはわかっている。
これは、村長交代を恨んでの犯行なのだ。
こう言ってはアレだが、元の村長は大して役に立つ人材ではなかったし、お節介が過ぎる性格だった為、頼りたいと思ったことは無かった。
しかも揉め事を極端に嫌い、アクゥ砦の件を揉み消そうとしたどうしようもないご老人だった。
けれど、辺境の村では変化を何より嫌う。
モニカの家族が移り住んだだけで、村は厳戒態勢だった。
警戒心剥き出しにする村人を見て、モニカの父親は「まるで罪人にでもなってしまったようだなぁ」とボソッと呟いたのを覚えている。
滅多なことでは人を悪く言うことも無く、愚痴も零さない父が苦い顔をしていたのは、大変珍しいことだったので、モニカは強い衝撃を覚えてしまった。
そんな余所者のせいで村長が変わってしまった。
これだけで十分恨まれる理由になるのだろう。けれど、リックに村の考え方を伝えたところで彼は到底理解できないこと。
だからモニカは事情を説明することより、我が家を元通りにすることを優先した。
綺麗にして何事もなかったようにすれば、それで良い。そして村人たちに「こんなもん、全然気にしないわっ」という態度を貫けばいい。
なぜならモニカは後ろ指を刺されるような事は何一つしていないのだから。
……と思いながら、モニカはやんちゃな村の子供の悪戯に「あーもぅ、参った参った」という大人の顔をして、散らばっている石を拾い始める。
けれど、石を拾う指先は震えていた。
そんなモニカを見て、リックはこれ以上の追及することを諦め、肩を竦めた。しかし、すぐに腕まくりをして、モニカの隣に膝を付く。
「うん。じゃあ僕も手伝うね」
「はい?!」
にこっと笑ってそう言ったリックに、モニカは無礼を承知で素っ頓狂な声を上げてしまった。
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