夢の欠片

朔雲みう (さくもみう)

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夢の欠片

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 小さい頃から、大抵のことは他人ひとより上手くこなせた。

 逆上がりは誰よりも早く出来るようになったし、駆けっこで同年代の子に負けたことはない。漢字テストはいつも一番だったし、作文を書けば将来は小説家で間違いなし、と言われた。

 何をしても完璧にこなせてしまう、それが、高校三年生になった今でも変わらない、僕という人間だ。そんな僕が、人生最大の壁に遭遇している。

「だめだ、何も思い浮かばない……」

 机の前でうなること一時間。進路希望調査票は白いままだった。

 * * *

「え、みなと、まだ出してないの?」

 目をぱちくりさせながらそう聞いてきたのは、幼なじみの響子きょうこだ。

 下校時刻を過ぎた教室。帰らずに机に突っ伏していたら、いつの間にか、僕と響子だけになっていた。

「……響子はもう出したのか?」

 言葉に詰まり質問で返すと、響子は満面の笑みで答えた。

「もちのろん」

「古っ……」

「古くない、一周回って新しいの!」

 なんだそれ。しかし、このポジティブ思考は正直羨ましい。

「響子は……何て書いたんだ?」

「湊が教えてくれたら、教えてあげる」

「……だから、まだ決まってないんだって」

 いつも完璧な湊君なら何を選んでも成功するよ、と周りは言う。だけど……

 「完璧なんて面白くないよ」

 ぽろっと本音がもれ、はっとなる。慌てて響子を見ると、聞こえていなかったのか、特に何も言わなかった。

 部活動の喧騒《けんそう》が窓越しに聞こえてくる。

 この中から、何人がプロになるのだろう。そんな事を考えていると、響子が「そうだ」と口を開いた。

 「湊、もうすぐ誕生日だよね」

 「え……? あ、うん」

 自分でも忘れていたから驚いた。覚えててくれたんだ……

 「プレゼント、期待してて」

 勝気な笑みで言われ、

 「おう」

 とだけ答える。

  なんだろう。こういう顔をする時は、何かを企んでいる時だ。

 そして、進路希望調査票がまっさらなまま、誕生日当日を迎えた――

 学校の帰り道、道路が二股に分かれるところまで来ると、はいっと響子から可愛くラッピングされた箱を渡された。

 「あ、ありがとう……」

 「ねぇ、開けてみて」

 「え」

 恥ずかしいから家でこっそり開けようと思っていたのに、響子は僕の反応を見たそうにしている。その無邪気な顔を見て、僕は箱にかかっているリボンをそっとほどいた。

 ラッピングがしわにならないように気をつけながら、箱を開ける。

 中に入っていたのは――

 「……パズル?」

 「そ、ジグソーパズル」

 「うん、それは分かるけど」

 小さな箱の中にちょこんと収まっているものを見つめる。突起とへこみのある平たいピースが……一、二、三。

 「何故に三枚?」

 不思議そうに聞くと、響子はじゃーんと発表するような口調で答えた。

 「毎年、湊の誕生日に何ピースかずつプレゼントする壮大なプロジェクト!!」

 「何年かかんだよ!?」

 響子はきゃらきゃらと笑う。

 「全部で何ピースの? 百? え、まさか千とかじゃないよな?」

 「えへへ、ひみつ。だって――」

 響子はそこで真面目な――凛とした顔をした。

 「いつ完成するか分かったら、面白くないでしょ?」

  ね、と、彼女が片目をパチリとさせた瞬間、すとんと腑に落ちた。

 ああ、完璧だなんて。僕は今までとんだ思い上がりだった。

 「――そうだな」

 僕はすっきりとした笑みを響子に向けた。

 そびえていた壁は音をたてて崩れ、まだ見ぬ未来へと飛び散った――

 【了】
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