旅を知らない王様

楪巴 (ゆずりは)

文字の大きさ
上 下
1 / 1

旅を知らない王様

しおりを挟む
 あるところに、「旅」という言葉を知らない王様がいました。

 ある日、王様は家来たちが、


「旅って本当にいいものだなぁ」


 と、言っているのを聞きました。

 王様は、


「旅ってなにかな」


 と、考えました。


「食べたらおいしいのかな。それとも宝のことかな」


 王様は、どうしても知りたくなりました。

 そこで王様は、そっとお城をぬけだして、「旅」をさがしにいきました。


 * * *


 王様は何日も歩きつづけました。

 そしてつかれたので、しばらく岩にすわって、


「旅ってなにかな」


 と、考えていました。

 するとそこへ、ネコがやってきました。

 王様はネコに言いました。


「君、旅って知ってる?」


 ネコは、


「ニャオ」


 と言ってにげました。


 王様はまた歩きはじめました。

 そして今度は、イヌに会いました。

 王様は、


「君、旅って知ってる?」


 と、たずねました。

 イヌは、


「ワン」


 と言ってにげました。

 王様はまたどんどん歩いていきました。

 王様はのどがかわいてきました。

 氷を売っている人が通りかかったので、少し分けてもらいました。

 そして、口の中にいれてなめました。


「こんなにおいしい氷は、はじめてだ」


 と、王様は言いました。


「それはそうですよ。王様は、長い旅をしてらっしゃったのですから」


 氷売りは言いました。

 王様は目をまるくしました。


「なんだ。やっぱり旅っていうのは、おいしいものだったのか」


 そう言って、王様はおいしそうに、氷をガリガリとかじりました。


 ~おしまい~
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...