銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 僕は目を見開いて、どんよりと暗い空を眺めた。
 今、それを言うの?僕のことを思い出したわけじゃないんでしょ?
 嬉しい言葉のはずなのに、僕の胸の中はあの空のように暗くて重い。

「愛してる」

 僕の耳に唇を寄せて、リアムがもう一度言った。 
 僕は目を閉じた。目尻から涙がこぼれ落ちる。

「フィル?」

 フィルじゃない。フィーと呼んでほしい。今のリアムも好きだけど、僕が愛したのは全てを知ってくれているリアムだ。

「僕は、愛していない」

 僕は声を絞り出してベルトに差した剣を掴む。
 素早くリアムが離れると同時に、僕は剣を引き抜いた。
 リアムが僕に手のひらを向けて「やめろっ」と叫ぶ。

「バイロン国の第二王子リアム、僕と勝負をしよう」
「なぜ?俺は戦いたくない。おまえが第一王子に殺されないように、先に拘束したかっただけだ」
「第一王子であろうが第二王子であろうが、僕は捕まるわけにはいかない。ここであなたを倒して国に戻る」
「戻ってどうする?一介の貴族のフィルが戻ったところで、どうなるというのだ」

 僕は両手で剣を握り、正面で構えた。
 リアムも渋々と剣を抜く。
 ついに雨が降り出した。大粒の雫が落ちてきて、全てのものを濡らしていく。

「僕は貴族ではないよ」
「貴族ではない?平民か?しかしおまえは平民には見えない。品がある」
「そうだね。僕はとても厳しく育てられたから」

 雨が僕の全身を濡らす。きっともう髪の染料も流れてしまってるだろう。でもちょうどいい。もう隠すのは嫌だ。
 リアムが僕を見て「おまえ…」と呟いた。
 僕は濡れた顔を手の甲で拭う。そして一度剣を下ろすと、まっすぐにリアムの目を見つめた。

「リアム王子、あなたは僕のことをよく知っている。だけど今は忘れているようだから、教えてあげる」
「なにを…」
「僕は、イヴァル帝国の王だ」
「…は?嘘を言うな!」
「どうして嘘だと思うの?僕は嘘は言わないよ」
「イヴァル帝国の王は女しかなれないと聞いている…。おまえは男じゃないか」
「そうだよ、僕は男だ。本当は僕の姉上が王になるはずだった。だけど前王に続いて姉上も病で亡くなってしまったんだ。だから双子の弟である僕が、姉上の代わりとして、女のフリをして王となった」
「イヴァルに双子の弟がいたのか?」
「双子でしかも男は忌まわしい存在だから…隠されていたんだ。でもわかるでしょ?あなたの金髪と同じで、この銀髪は王族の証…」
「…わかった。おまえの言うことを信じる。だが王であるならば、ますます逃がすことはできない」
「僕も同じ。イヴァル帝国の秘密を知られたからには、あなたをこのまま帰せない」

 僕とリアムは、しばらく見つめ合った。
 そしてお互いゆっくりと剣を持ち上げて構えた。
 

 
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