1 / 26
イイ恋の前の薫る絶望
しおりを挟む
俺、神夏磯 梨樹人(かみがそ りきと)は今、地味な恥ずかしさと襲いくる脱力感、それと大きいのか小さいのか自分でも計量しかねる「もやもや」に近い怒りに苛まれている。
「りっくんがあんまり相手してくれなくて寂しくさせたり、不安にさせたのが悪いんだよ!?
そのせいでつい...でも、本当に大事なのはりっくんだけだから!
これからまた柚津のことちゃんと構ってくれたら元通りになれるから!」
そう騒いでる女は、夏海 柚津(なつみ ゆず)。
今まさに絶賛どういう別れの言葉を紡ごうか迷っている最中ではあるんだけど、まだ一応、かろうじて、ぎりぎり、俺の彼女ということになっている相手だ。
「はぁ~~~~~~~~~~~。もういいよ。何回目だ?しかもお前今回はさぁ...まぁもういいよ。いい加減疲れたわ。じゃあな」
そう言って駅に向かおうとする俺を、柚津の声が引き止める。
「待ってよ!え......?なんで?帰ろうとしてるの......?」
「いや、こんなところで喧嘩してるとか恥ずかしいから。って、俺がこんなとこで言い出したのが悪いんだけどさ」
なにせここは駅を出てすぐそこ、人通りの多い少し広めの鉄橋の上である。
楽しそうに行き交うカップルや親子連れ、その他大勢の人たちに見守られながら、鉄橋の下を行き交う車の音をBGMにして喧嘩をする2人がそこにいた。
「もう話す気力もないからさ。うん、じゃあ改めて、ばいばい」
何が悲しくてこんなとこで、見世物にされながら長々話に付き合わなさせられなければならないのか。
「待って待って待って!いつもならここで仲直りじゃない!いつものりっくんなら『今度からもうちょっと時間作るよ』って言ってくれてさ!それだけでいいんだよ?」
彼女は慌てて俺に駆け寄ってシャツの裾を掴みながら、梨樹人の行動が予想外とばかりに異を唱える。
しかし、その言葉が俺のモヤモヤした怒気をはっきりしたものへと変貌させる。
くっそ、本当に何でこいつは、悪びれもせずそういうこと言うとこが一番ムカつくってことがわからないんだ!?
とはいえ、寂しい思いさせてたのなら、俺も漢としてかっこ悪いし、あんまり強くは言えないよなぁ。
「いや、俺も悪いところがあったのは申し訳ないと思うよ?確かに研究が忙しくて、あんまり構えてなかったかもしれないしさ」
俺は今、大学院博士前期課程に属している。いわゆる修士課程というやつの1年生だ。
最近は特に、研究が楽しくて熱中するあまり週末もそちらにかかりきりになり、彼女と遊びに行くのは月に2回ほどなっており、そこに罪悪感を感じている部分もある。
「うん、ほったらかし気味になってたことはごめん。俺が悪かったわ。けどもう、まじで無理だから。じゃあな」
非を認める気持ちと謝りたくない気持ちのせめぎ合いの中、なんとか絞り出した謝罪と別れの言葉。
「ふざけないでよ!もう知らないんだから!あとで連絡してきてもしばらく口聞かないからね!」
そんな背後からの喚き声を聞き流して、いや、聞き流しきれなくて怒りのボルテージは上がっているんだけど、その声の主を置いて駅に向い、家路を急ぐ。
いやふざけんなよって、俺のセリフだから!
いやでも俺も悪いとこあるし。
てか、連絡なんて絶対しねぇよ。なんで俺から連絡する未来があるみたいに言ってんだよ。
そういうとこなんだよ!!!!
はぁ~。つれぇなぁ~。もう何がつらいのかもよくわからないけど、つらいなぁ。
あぁ、考えてたら気持ち悪くなってきた。
うぅ、はきそー。早く帰りてぇ。
===
俺は自宅に帰るなり手洗いに駆け込む。
「おぇっ。うっぷ!......はぁはぁはぁ......ふー」
俺は今何が辛くて吐いてんだー。
そういう取り留めもない疑問と、これまでの柚津との楽しかった思い出がフラッシュバックして、胃液を無限に押し出してくる。
「あぁ、やっぱ俺は柚津が好きだったんだよなぁ。すげぇもったいないことしたかもなぁ。けど俺も色々我慢したり頑張ってたのに、浮気しておいてあの態度はねぇだろ!」
そう、今回の喧嘩は柚津の浮気の発覚に端を発している。
「はぁ~あぁ~。初めて付き合ったころは可愛くて素直な良い子だと思ってたんだけどなぁぁぁ」
「りっくんがあんまり相手してくれなくて寂しくさせたり、不安にさせたのが悪いんだよ!?
そのせいでつい...でも、本当に大事なのはりっくんだけだから!
これからまた柚津のことちゃんと構ってくれたら元通りになれるから!」
そう騒いでる女は、夏海 柚津(なつみ ゆず)。
今まさに絶賛どういう別れの言葉を紡ごうか迷っている最中ではあるんだけど、まだ一応、かろうじて、ぎりぎり、俺の彼女ということになっている相手だ。
「はぁ~~~~~~~~~~~。もういいよ。何回目だ?しかもお前今回はさぁ...まぁもういいよ。いい加減疲れたわ。じゃあな」
そう言って駅に向かおうとする俺を、柚津の声が引き止める。
「待ってよ!え......?なんで?帰ろうとしてるの......?」
「いや、こんなところで喧嘩してるとか恥ずかしいから。って、俺がこんなとこで言い出したのが悪いんだけどさ」
なにせここは駅を出てすぐそこ、人通りの多い少し広めの鉄橋の上である。
楽しそうに行き交うカップルや親子連れ、その他大勢の人たちに見守られながら、鉄橋の下を行き交う車の音をBGMにして喧嘩をする2人がそこにいた。
「もう話す気力もないからさ。うん、じゃあ改めて、ばいばい」
何が悲しくてこんなとこで、見世物にされながら長々話に付き合わなさせられなければならないのか。
「待って待って待って!いつもならここで仲直りじゃない!いつものりっくんなら『今度からもうちょっと時間作るよ』って言ってくれてさ!それだけでいいんだよ?」
彼女は慌てて俺に駆け寄ってシャツの裾を掴みながら、梨樹人の行動が予想外とばかりに異を唱える。
しかし、その言葉が俺のモヤモヤした怒気をはっきりしたものへと変貌させる。
くっそ、本当に何でこいつは、悪びれもせずそういうこと言うとこが一番ムカつくってことがわからないんだ!?
とはいえ、寂しい思いさせてたのなら、俺も漢としてかっこ悪いし、あんまり強くは言えないよなぁ。
「いや、俺も悪いところがあったのは申し訳ないと思うよ?確かに研究が忙しくて、あんまり構えてなかったかもしれないしさ」
俺は今、大学院博士前期課程に属している。いわゆる修士課程というやつの1年生だ。
最近は特に、研究が楽しくて熱中するあまり週末もそちらにかかりきりになり、彼女と遊びに行くのは月に2回ほどなっており、そこに罪悪感を感じている部分もある。
「うん、ほったらかし気味になってたことはごめん。俺が悪かったわ。けどもう、まじで無理だから。じゃあな」
非を認める気持ちと謝りたくない気持ちのせめぎ合いの中、なんとか絞り出した謝罪と別れの言葉。
「ふざけないでよ!もう知らないんだから!あとで連絡してきてもしばらく口聞かないからね!」
そんな背後からの喚き声を聞き流して、いや、聞き流しきれなくて怒りのボルテージは上がっているんだけど、その声の主を置いて駅に向い、家路を急ぐ。
いやふざけんなよって、俺のセリフだから!
いやでも俺も悪いとこあるし。
てか、連絡なんて絶対しねぇよ。なんで俺から連絡する未来があるみたいに言ってんだよ。
そういうとこなんだよ!!!!
はぁ~。つれぇなぁ~。もう何がつらいのかもよくわからないけど、つらいなぁ。
あぁ、考えてたら気持ち悪くなってきた。
うぅ、はきそー。早く帰りてぇ。
===
俺は自宅に帰るなり手洗いに駆け込む。
「おぇっ。うっぷ!......はぁはぁはぁ......ふー」
俺は今何が辛くて吐いてんだー。
そういう取り留めもない疑問と、これまでの柚津との楽しかった思い出がフラッシュバックして、胃液を無限に押し出してくる。
「あぁ、やっぱ俺は柚津が好きだったんだよなぁ。すげぇもったいないことしたかもなぁ。けど俺も色々我慢したり頑張ってたのに、浮気しておいてあの態度はねぇだろ!」
そう、今回の喧嘩は柚津の浮気の発覚に端を発している。
「はぁ~あぁ~。初めて付き合ったころは可愛くて素直な良い子だと思ってたんだけどなぁぁぁ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
マドンナからの愛と恋
山田森湖
恋愛
水泳部のマドンナ、レナに片思いしていた高校生・コウジ。
卒業後、平凡でぐうたらな会社員生活を送る33歳の彼の前に、街コンで偶然、あのレナが現れる。
かつて声もかけられなかった彼女は、結婚や挫折を経て少し変わっていたけれど、笑顔や優しさは昔のまま。
大人になった二人の再会は、懐かしさとドキドキの入り混じる時間。
焼肉を囲んだ小さな食卓で、コウジの心に再び火が灯る——。
甘くほろ苦い青春の残り香と、今だからこそ芽生える大人の恋心を描いた、再会ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる