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第4話 大好きだ......いや、そうじゃなくて!

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俺がシオに愛しさを感じてる?

き、気の所為だよな。俺はなんとしてもこの恐怖の大王から逃げて、少しでも生き延びるんだ。

「そ、それでシオ?今っていつなのかな?」

俺は一体どれくらい寝てたんだろうか。

「えっとぉ、りっくんはあれから1週間ずっと眠ってたよ~。全然起きなくて心配したんだからねっ」

そ、そんなに......。身体だけじゃなく、精神的にもやばかったからだろうか。
ってか、シオのおかげだろうがよ。なんで俺のせいみたいに言ってんだよ!

「心配かけちゃって、ごめんな。看病してくれてありがとう、シオ」

ふつふつと湧き上がる余計な感情は脇に置いておいて、ニッコリと微笑んで、痛みを感じない右腕でシオの頭を撫でる。

きゅっと表情を柔らかくするシオの頭をしばらく撫で続けていると、今まで感じたことのない幸せなぞくぞく感が背筋を伝う。

......どうしてもシオがほしい......って、いやいや!?俺は何を思ってんだ!?そんなわけあるか!?
いくらシオの見た目がいいからって、こんなやばすぎるやつと一生一緒にいるなんて......できたら嬉しすぎ......じゃなくているなんてできるわけないだろうが。

やばい、なんかわからないけど、今はこれ以上考えるのはやめておこう。

それより、この背中の痛み、シオに確認してみようか......。もしも地雷だったら嫌だけど。
せめて自分の身体に何が起こっているのかくらいは、知っておきたい。

「ねぇ、シオ?左腕はともかく、なんだか背中が刺すように痛いんだけど、この原因って何か知ってたりするかな?」

俺の質問にシオが、撫でられて嬉しそうに緩んだ表情をさらに破顔させて答えてくれた。

「あっ、それはねぇ、シオからりっくんへのプレゼントだよっ」

プレゼント......。痛みを与えることがだろうか......。

「えっと?どういうことかな?」

どういうことかわからないという態度を示すと、シオは無い胸をムンっと張って自信たっぷりな様子で教えてくれる。

「それはねー、りっくんの背中にぃ、シオとの永遠の愛、刻んじゃいましたっ!」

..................え?............どゆこと?

「だからね?シオにたくさん心配をかけちゃう悪いりっくんが、シオだけのものだってわかるように、その証を彫ってもらったのぉ!」

あ......?え?入れ墨、ってことか?俺の許可もなしに?


まぁ今更か......。

「そ、そっか。シオ、ありがとね」

もはや自分でも口元が引きつってるのがわかる笑顔で返す。

それにしても、いったいどんな彫り物を入れやがったのか......。

「ねぇねぇ、どんな柄を彫ってもらったのか、気になるぅ?」

「あ、あぁ、もちろん、すごく気になるな」

俺の返事を聞くと、「それじゃあ、自分の背中は見にくいだろうから、撮っておいた写真を見せてあげるねっ」と言って、手元の携帯端末に表示された写真を提示する。

そこに映された自分の背中を見た瞬間、正直、この街やシオから逃げる計画も諦めて、もう人生終わらせようかと、本当に一瞬だけ絶望に浸ってしまった。



そこには、背中全体に渡るくらいの大きなハートマークと、その中心に「汐波LOVE」と文字があしらわれていた。
たしかに、紛れもなく、俺が『シオだけのものだってわかる証』がそこには刻まれていた。

しばらく写真の内容を信じられなくて、信じたくなくて、写真に釘付けになっていたら、シオが口を開いた。

「ねっ!?これでシオともっと一緒になれた気がしない?」

シオの声を聞いても、呆然とする俺の思考はなお働かない。
正直シオが何を言ってるのか、音は聞こえてくるけどその意味を処理できないまま、恍惚とした彼女の表情を眺めるだけの時間が続く。

「......もぅ、りっくんったら。言葉も出ないくらい嬉しいのぉ?」

ハイライトが少し失われそうになっている瞳が目に入ってきたあたりで正気を取り戻した俺は、急いで取り繕う。

「あっ、あぁそうなんだ!あんまりにも素敵な彫り物を贈ってもらえた嬉しさで言葉を失っちゃったよ!あ、ありがとうね、シオ。大好きだよ」

「ふふふ、シオもりっくんのこと、大大大大大だ~い好きだよぉ!」

幸せそうなシオの表情を見てると、俺の心が満たされていくような気持ちになって......じゃない!ならない!そんなことになるわけないだろ!馬鹿か俺は!

ってか、さっきからこの思考。明らかに俺はおかしくなってる。
シオのことがどうしようもなく愛おしく感じる。

恐怖心と逃走欲求は依然として大きくなり続けているのに、その傍らでは尋常ではない愛情が膨らんでいくのもわかる。

これは......俺が倒れてる間に絶対なにかしやがったな。

恐い。俺の思考が、俺のものじゃなくなっていくようで、恐怖や怒りの気持ちが、不自然な愛で覆い隠されていく現状に、とめどない焦りを感じる。

そうやって俺を絶望に導くいろんな情報が一気に押し寄せたせいで混乱しているところに、シオが更になにかを言い出す。

「ねぇねぇ、りっくん。シオとりっくんのラブラブな気持ちがいままでで一番高まってる今だからさっ、これ、書いちゃおうね?」
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