10 / 132
第1章
第10話 まぁ別に、どうでもいいですけどね
しおりを挟む
アルデたちはランチを食べた後、再び街へと繰り出した。
ちなみにランチだが……めちゃくちゃ美味しかったんだが量が足りなかった。
とはいえ、あんなバカ高い食事をお代わりするのも気が引けたのでオレはグッと我慢する。
まぁ街に出ることだし、適当な露店で買い食いでもすればいいか。あのカフェのランチに比べたら味は劣る……というよりも別種の味だが、あれはあれで上手いしな。何しろボリュームあるし。
と思っていたのだが、ティスリはメインストリートから出ていく気配がない。
さすがにお貴族様御用達の街中では、露店なんてあるわけなかった。
だがオレは、露店の代わりに路面店を見つける。
「ティスリ、ちょっとここで待っててくれないか?」
「構いませんが、どうしたんです?」
「いやほら、あそこにクレープ屋があるから、ちょっと買ってくるわ」
「……は?」
なぜかティスリが首を傾げるが、オレはとくに気に留めずクレープ屋に向かった。店の前では若い女の子たちが数組いたが、みんなクレープを受け取った後のようで、オレは待つことなく注文することができた。
本当はしょっぱいものが食べたい気分だが、まぁいいや。甘いものでも腹は膨れるからな。
クレープを二つ受け取ると、オレはティスリの元に戻る。
「ほい。美味しいぞ」
「えっと……この皮とクリームはなんですか?」
「ん? クレープを知らんのか? ここ最近有名になったお菓子だよ。若い女性に人気らしい」
「お菓子ですか……っていうかあなた、よくあんな女の子しかいないお店で買い物が出来ましたね?」
「別にいいだろ。腹減ってたし」
「え? あのランチでまだ足りなかったんですか?」
「まぁなぁ。あの量ならあと三食分はいける」
「アルデのお腹には、穴でも空いているんじゃないですか?」
「育ち盛りなんだ。っていうか早くクレープ受け取れって」
オレはクレープを手渡すが、ティスリは不思議そうに聞いてきた。
「どこで食べるつもりですか?」
「……え? どこって、歩きながらだけど?」
そう言ってから、オレはクレープをかじる。メッタメタな甘さが口の中いっぱいに広がった。
しかしティスリは、クレープをかじろうとしない。
「屋外で食事だなんて……アルデじゃないんですから、そんなはしたないこと出来ません……!」
「はしたないって……お前、さっき屋外テラスでメシ食べてたじゃんか。それと何が違うんだよ」
「それとこれとは話が違いますッ。そもそも歩きながらだなんて……」
「上流階級の人間は、変なところにこだわるんだなぁ……」
オレはあたりを見回すと、街路樹の脇にベンチを見つけたので指差した。
「ならあそこに座って食べようぜ」
ベンチまで歩いて行き、オレはいちおうベンチを手で払う。ティスリの洋服は高そうだし、汚れでもしたら大変だからな。
それからオレが座ってみせると、ティスリも渋々といった感じで腰を下ろした。そしてなぜか、頬を赤らめつつもクレープをかじる。
「どうだ? 上手いか?」
「………………甘過ぎです。砂糖の味しかしません」
「そこがいいんだろ」
何しろ砂糖だって高級品だ。普段なら、こんなお高いモノを買い食いしたりしないんだが、ティスリのおかげで、オレの給金は爆上がりだからな。
このくらい贅沢をしてもバチは当たらないだろう。クレープが高いと言ったって、オレの昼食弁当の二倍くらいだから、さっきのランチよりはよっぽど安いし。
文句を言うわりに、ティスリはクレープを無心でモグモグ食べていた。食べられないほどではないらしい。
「そうそう、アルデ。魔動車を買う前に、あなたの服を買いに行きますからね」
「オレの服? これじゃまずいのか?」
オレの服装は、衛士追放されたときのままだからラフな格好だ。ティスリはドレスを着ているし、服装だけ見ると、ちょっと奇妙な二人組に見えなくもない。護衛役に見られるには、もうちょっと武装が必要だろうし。
「買い物はまだしも、今日は旅館に泊まるのですから、その服では入れてくれませんよ」
「ああ……そういうことか」
宿屋にはいくつかグレードがあるが、旅館と銘打つ宿屋は最高グレードだ。だからドレスコードがあって、ちゃんとした身なり──最低でもインフォーマルくらいの服を着ていないと門前払いになる。
衛士の制服を着ていれば問題ないのだが、もちろん追放の際に取り上げられている。だからオレはぼやいた。
「オレは、正装より武装が欲しいんだが……」
「必要ありませんよ。っていうよりこの王都で、軍人以外の武器所持は禁止です」
「ああ、そうだったっけ」
言われてみればそうだった。例えば、荒くれ者が多い冒険者とかも、王都に入る前の詰所で武器を預けるんだったな。まぁ荒くれているからこその処置だとも言えるが。
「あなた、衛士になるとき法律系の試験も受けたんですよね?」
「合格したら、大半は忘れたなぁ」
「はぁ……貴族に追い出されなくても、衛士追放になるのは時間の問題だったでしょうね」
「う……」
ちなみに武器以外──例えば鎧などは、他者を害するものではないし、脱ぐのも手間だし保管もかさばるしで、身につけたままでもよかったはずだ。だがフルプレートでこの辺を歩いている人間はさすがにいない。
「思い出したけど、でもまぁ、もういらない知識だし」
「アルデは、衛士に戻るつもりはないのですか?」
「まぁなぁ……どうせ試験を受け直して戻ったところで、また追放になるだろうし」
「……制度が変わったとしても?」
「すでに制度が変わって、平民でもなれるって聞いたからがんばったのに、オレは追い出されたんだぞ?」
「まぁ確かに……そうですが……」
「それに今後は、ティスリが高給だしてくれるんだろ? オレは稼げるなら職種にはこだわらないぞ」
「そうですか……まぁ別に、どうでもいいですけどね」
「お前が話を振ってきたんじゃん……」
どうでもいいと言いながらも、いつもご立腹のティスリだというのに、なんとなく嬉しそうな顔つきになっていた……気がするのだった。
ちなみにランチだが……めちゃくちゃ美味しかったんだが量が足りなかった。
とはいえ、あんなバカ高い食事をお代わりするのも気が引けたのでオレはグッと我慢する。
まぁ街に出ることだし、適当な露店で買い食いでもすればいいか。あのカフェのランチに比べたら味は劣る……というよりも別種の味だが、あれはあれで上手いしな。何しろボリュームあるし。
と思っていたのだが、ティスリはメインストリートから出ていく気配がない。
さすがにお貴族様御用達の街中では、露店なんてあるわけなかった。
だがオレは、露店の代わりに路面店を見つける。
「ティスリ、ちょっとここで待っててくれないか?」
「構いませんが、どうしたんです?」
「いやほら、あそこにクレープ屋があるから、ちょっと買ってくるわ」
「……は?」
なぜかティスリが首を傾げるが、オレはとくに気に留めずクレープ屋に向かった。店の前では若い女の子たちが数組いたが、みんなクレープを受け取った後のようで、オレは待つことなく注文することができた。
本当はしょっぱいものが食べたい気分だが、まぁいいや。甘いものでも腹は膨れるからな。
クレープを二つ受け取ると、オレはティスリの元に戻る。
「ほい。美味しいぞ」
「えっと……この皮とクリームはなんですか?」
「ん? クレープを知らんのか? ここ最近有名になったお菓子だよ。若い女性に人気らしい」
「お菓子ですか……っていうかあなた、よくあんな女の子しかいないお店で買い物が出来ましたね?」
「別にいいだろ。腹減ってたし」
「え? あのランチでまだ足りなかったんですか?」
「まぁなぁ。あの量ならあと三食分はいける」
「アルデのお腹には、穴でも空いているんじゃないですか?」
「育ち盛りなんだ。っていうか早くクレープ受け取れって」
オレはクレープを手渡すが、ティスリは不思議そうに聞いてきた。
「どこで食べるつもりですか?」
「……え? どこって、歩きながらだけど?」
そう言ってから、オレはクレープをかじる。メッタメタな甘さが口の中いっぱいに広がった。
しかしティスリは、クレープをかじろうとしない。
「屋外で食事だなんて……アルデじゃないんですから、そんなはしたないこと出来ません……!」
「はしたないって……お前、さっき屋外テラスでメシ食べてたじゃんか。それと何が違うんだよ」
「それとこれとは話が違いますッ。そもそも歩きながらだなんて……」
「上流階級の人間は、変なところにこだわるんだなぁ……」
オレはあたりを見回すと、街路樹の脇にベンチを見つけたので指差した。
「ならあそこに座って食べようぜ」
ベンチまで歩いて行き、オレはいちおうベンチを手で払う。ティスリの洋服は高そうだし、汚れでもしたら大変だからな。
それからオレが座ってみせると、ティスリも渋々といった感じで腰を下ろした。そしてなぜか、頬を赤らめつつもクレープをかじる。
「どうだ? 上手いか?」
「………………甘過ぎです。砂糖の味しかしません」
「そこがいいんだろ」
何しろ砂糖だって高級品だ。普段なら、こんなお高いモノを買い食いしたりしないんだが、ティスリのおかげで、オレの給金は爆上がりだからな。
このくらい贅沢をしてもバチは当たらないだろう。クレープが高いと言ったって、オレの昼食弁当の二倍くらいだから、さっきのランチよりはよっぽど安いし。
文句を言うわりに、ティスリはクレープを無心でモグモグ食べていた。食べられないほどではないらしい。
「そうそう、アルデ。魔動車を買う前に、あなたの服を買いに行きますからね」
「オレの服? これじゃまずいのか?」
オレの服装は、衛士追放されたときのままだからラフな格好だ。ティスリはドレスを着ているし、服装だけ見ると、ちょっと奇妙な二人組に見えなくもない。護衛役に見られるには、もうちょっと武装が必要だろうし。
「買い物はまだしも、今日は旅館に泊まるのですから、その服では入れてくれませんよ」
「ああ……そういうことか」
宿屋にはいくつかグレードがあるが、旅館と銘打つ宿屋は最高グレードだ。だからドレスコードがあって、ちゃんとした身なり──最低でもインフォーマルくらいの服を着ていないと門前払いになる。
衛士の制服を着ていれば問題ないのだが、もちろん追放の際に取り上げられている。だからオレはぼやいた。
「オレは、正装より武装が欲しいんだが……」
「必要ありませんよ。っていうよりこの王都で、軍人以外の武器所持は禁止です」
「ああ、そうだったっけ」
言われてみればそうだった。例えば、荒くれ者が多い冒険者とかも、王都に入る前の詰所で武器を預けるんだったな。まぁ荒くれているからこその処置だとも言えるが。
「あなた、衛士になるとき法律系の試験も受けたんですよね?」
「合格したら、大半は忘れたなぁ」
「はぁ……貴族に追い出されなくても、衛士追放になるのは時間の問題だったでしょうね」
「う……」
ちなみに武器以外──例えば鎧などは、他者を害するものではないし、脱ぐのも手間だし保管もかさばるしで、身につけたままでもよかったはずだ。だがフルプレートでこの辺を歩いている人間はさすがにいない。
「思い出したけど、でもまぁ、もういらない知識だし」
「アルデは、衛士に戻るつもりはないのですか?」
「まぁなぁ……どうせ試験を受け直して戻ったところで、また追放になるだろうし」
「……制度が変わったとしても?」
「すでに制度が変わって、平民でもなれるって聞いたからがんばったのに、オレは追い出されたんだぞ?」
「まぁ確かに……そうですが……」
「それに今後は、ティスリが高給だしてくれるんだろ? オレは稼げるなら職種にはこだわらないぞ」
「そうですか……まぁ別に、どうでもいいですけどね」
「お前が話を振ってきたんじゃん……」
どうでもいいと言いながらも、いつもご立腹のティスリだというのに、なんとなく嬉しそうな顔つきになっていた……気がするのだった。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
378
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる