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第1章

第13話 戸惑うわたしのことなんてまったく気にせず、ほんっきで気にせず、気にするフリすらせずに(!)

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 アルデって……意外にもフォーマル系の衣服が似合いますね……

 ティスリわたしはついそんなことを思ってしまい、だから首をブンブン振って、その思考を掻き消します。

 ですが元々……アルデは、とてもサマになる体格をしているのです。

 平民から衛士になれただけあり、体は引き締まっていますし、身長も高くて180センチはあるでしょうか。そういう体格ですから、それはちゃんとした格好をさせれば似合ってしまうのは致し方ないのです。

 はっきり言って、ロクな鍛錬もしていない今どきの貴族より、ずっとインフォーマルが似合います。正装させれば立派な騎士に見えることでしょう。

 などと考えていたら、わたしの内心にはまったく気づいていないアルデが声を掛けてきました。

「おーいティスリ、御者が行き先を聞きたいみたいだけど」

「え? あ、はい……なんですか……!?」

「だから行き先を教えてやれよ、御者に」

 ハッとすると、馬車の出入口付近で御者がニコニコしながら、わたしの回答を待っていました。

「ああ……えっと……三番街の魔動車商会まで行って頂けますか?」

「かしこまりました」

 そして御者は馬車の扉を閉めて、御者台へと移動します。

 わたしは洋服店で、馬車の手配をしてもらったのでした。徒歩で行くにはいささか距離がありましたから。

 そして馬車に乗り込んでアルデの顔を見たとき、インフォーマルを着込んだ彼の姿を思い出してしまった……ということですか。

 ……アルデのくせに、このわたしの記憶に残るなんて……なんとも生意気な……!

 しかしアルデは、戸惑うわたしのことなんてまったく気にせず、ほんっきで気にせず、気にするフリすらせずに(!)、馬車の窓から外を眺めていました。

「おお……こんな高級馬車に乗るのも、市中で馬車に乗るのも始めてだ……揺れているのに尻が痛くないとは……! しかも窓から外を見下ろしていると、なんだか偉くなった気分だ!」

「子供ですか、あなたは……」

 貴族の子供が馬車に乗ったときと同じような反応に、わたしは呆れるしかありません。

 まぁ……実際に彼の精神年齢はまだ子供なのでしょうね。

 そんな子供に、繊細なわたしの心情を察して発言しろ、などと言っても無理なのは当然でしょう。

 だからわたしは諦めて、アルデに言いました。

「馬車程度でハシャいでいては、魔動車に乗ったら興奮しすぎて倒れてしまうかもしれませんよ?」

「おいおい、大げさだな。この馬車に、馬が付いていないだけだろ? その程度で興奮するかよ」

「だといいのですが」

 ふふ……この男、お馬鹿さんだとは思っていましたが、やはりまるで分かっていませんね? 魔動車が、これから世界を大きく変えていくほどの魔具だということを。

(わたしをインフォーマルで戸惑わせたこと、後悔させてやりますからね)

 わたしは内心だけでほくそ笑むのでした。
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