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第一章 神からの失墜
夜這い
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「ちょ、ちょっと待ってくれよ! ゴンザ。……こんな夜遅くに訪ねたって迷惑だって」
ゴンザはレンガイを無理やり引き連れて、プーアの家の前まで来ていた。レンガイは絶対に歩みを進めんと踏ん張っていたが、ゴンザの怪力の前にそれは叶わなかった。
「お前よお、今日なにをするか分かってるんだろうなあ、おい。誘拐だろ、誘拐。白昼堂々小娘を攫いに来るバカがどこにいるってんだ」
「でも……」
「でも、じゃねえんだよ。お前の気持ち悪い性格のことだ。プーアの家の構造も何もかも把握してんだろ? 俺はここで待ってるから、さっさと小娘を連れて来い。生死は問わん」
──生死は問わないだと?
「お前……いや、お前らは、プーアをどうするつもりなんだ!」
レンガイは夜だということを構わず声を荒げた。そんなことを言うヤツらに彼女を渡すわけにはいかない。
「教える義理はねえよ。さっさと行け。もし命令に従えないようだったら、俺がお前を殺す。あの小娘共々な。愛する女と一緒に死ねるなんて本望だろ」
「このゲス野郎!」
ゴンザはカカカと笑った。レンガイは彼のことが嫌で嫌で堪らなかったが、遂にはプーアの家の玄関へと向かい始めた。
「でも……君は優しいね」
そんな意味深な言葉を残して。
ゴンザはその言葉にピクリとだけ反応したが、すぐに険しい顔に戻った。
プーアの寝室は2階の1番奥だ。レンガイは重い足取りで、やっとのことでそこへ辿り着いた。
ドアを少しだけ開け、プーアがベッドで寝ているのを確認し、レンガイは彼女に近づいた。
「プーアちゃん……かわいい寝顔だ。……君が、ゴンザの手に渡ったら、一体どうなってしまうんだろうね。僕はバカだから、なぜ議会を追放された上に邪神になってしまうのか理解できない。そこまでした上に、君の身柄が狙われている理由も。僕と君との出会いはかなり幼い頃だったかな。あの時から僕はプーアちゃん、君に一目惚れしたよ。僕が君を守ってみせるって、いつだったか誓った気がするけどね。皮肉なものだ。愛する人を、守ることができずに、悪の手に渡してしまうなんて」
レンガイは寝ているプーアの頭を撫でた。このままひどいことをしてしまおうという考えが一瞬頭によぎったが、やめた。
レンガイはそのままプーアの前に立ち尽くしていた。プーアを外に連れて行くことは、やはり彼にはどうしてもできなかった。
その内、いつの間にか目を覚ましたらしいプーアが呟いた。
「やっぱり気持ち悪いわね……アンタ」
彼女は目を瞑ったまま、ブツブツと口を紡いだ。
「うわあ! プーアちゃん、いつから起きてたの!」
「『あの時からプーアちゃん、君に……なんとか』のあたりからかしら」
プーアはあまり似ていないレンガイの声真似をしてみせた。レンガイはため息をついた。
「それって、結構前だよね。もっと早くに声をかけてくれればこんな変な雰囲気にならなかったのに」
若干ポエミーな気分に浸っていた彼は、全身に嫌な汗をかきながら、顔を真っ赤にした。
「夜這いなんてほんっとうに最低最悪なことをしてきたのによくそんなこと言えるわね……。すぐに人を呼ぶことだってできたのよ? それをしなかったのはアタシの優しさね。まあ、頭を撫でてきた時は殺してやろうと思ってたけど」
レンガイは力なく笑った。倒れ込んでしまいたくなった。
「それで、何しに来たのよ。悪の手に渡してしまうって何? アンタは何者なの」
「ああ……そのことか。……ごめん、落ち着いて話を聞いてくれるかな」
「つまりゴンザとかがアタシの身体を狙ってるってこと? へえ、そんな話、アタシが信じると思って?」
「ホントなんだって。だから僕が来てるんじゃないか、君を攫いにさ」
「それ、本人に言う? ついて行く訳がないでしょ。わざわざ殺されに行く程バカじゃないわ」
そりゃそうだ、とレンガイは思った。
──僕だって嫌なんだ、プーアはもっと嫌に決まっているさ。
だが、その気持ちを素直に伝えるわけにはいかなかった。
「殺されると決まったわけじゃない。でも、これだけは言えるんだ。君が来なかったら、たぶん僕らは殺される」
ひと呼吸おいて、レンガイは付け足した。
「……ゴンザによって、かな」
だが、プーアはそれがどうしたと言った様子でニヤニヤしながら言った。
「へえ、それは大変ね。でもアンタ言ったじゃない。その……」
彼女が顔を近づけてきたので、レンガイはドキッとした。
「その?」
「言わせないでよ。守ってくれるんじゃなかったのかしら?」
「それは……その」
レンガイは自分の発言が恥ずかしくなった。また、無責任な言動を少し悔やんだ。レンガイが屈強な悪魔とも言えるゴンザには勝てるはずがないからだ。
「あーあ、アタシはこんなナヨナヨした男は嫌いだなあ。もっと強くてイケメンで常識的な人がいいなー」
「……絶対からかってるよね。命の危機なのに。僕はマジメに――――」
ゴンザはレンガイを無理やり引き連れて、プーアの家の前まで来ていた。レンガイは絶対に歩みを進めんと踏ん張っていたが、ゴンザの怪力の前にそれは叶わなかった。
「お前よお、今日なにをするか分かってるんだろうなあ、おい。誘拐だろ、誘拐。白昼堂々小娘を攫いに来るバカがどこにいるってんだ」
「でも……」
「でも、じゃねえんだよ。お前の気持ち悪い性格のことだ。プーアの家の構造も何もかも把握してんだろ? 俺はここで待ってるから、さっさと小娘を連れて来い。生死は問わん」
──生死は問わないだと?
「お前……いや、お前らは、プーアをどうするつもりなんだ!」
レンガイは夜だということを構わず声を荒げた。そんなことを言うヤツらに彼女を渡すわけにはいかない。
「教える義理はねえよ。さっさと行け。もし命令に従えないようだったら、俺がお前を殺す。あの小娘共々な。愛する女と一緒に死ねるなんて本望だろ」
「このゲス野郎!」
ゴンザはカカカと笑った。レンガイは彼のことが嫌で嫌で堪らなかったが、遂にはプーアの家の玄関へと向かい始めた。
「でも……君は優しいね」
そんな意味深な言葉を残して。
ゴンザはその言葉にピクリとだけ反応したが、すぐに険しい顔に戻った。
プーアの寝室は2階の1番奥だ。レンガイは重い足取りで、やっとのことでそこへ辿り着いた。
ドアを少しだけ開け、プーアがベッドで寝ているのを確認し、レンガイは彼女に近づいた。
「プーアちゃん……かわいい寝顔だ。……君が、ゴンザの手に渡ったら、一体どうなってしまうんだろうね。僕はバカだから、なぜ議会を追放された上に邪神になってしまうのか理解できない。そこまでした上に、君の身柄が狙われている理由も。僕と君との出会いはかなり幼い頃だったかな。あの時から僕はプーアちゃん、君に一目惚れしたよ。僕が君を守ってみせるって、いつだったか誓った気がするけどね。皮肉なものだ。愛する人を、守ることができずに、悪の手に渡してしまうなんて」
レンガイは寝ているプーアの頭を撫でた。このままひどいことをしてしまおうという考えが一瞬頭によぎったが、やめた。
レンガイはそのままプーアの前に立ち尽くしていた。プーアを外に連れて行くことは、やはり彼にはどうしてもできなかった。
その内、いつの間にか目を覚ましたらしいプーアが呟いた。
「やっぱり気持ち悪いわね……アンタ」
彼女は目を瞑ったまま、ブツブツと口を紡いだ。
「うわあ! プーアちゃん、いつから起きてたの!」
「『あの時からプーアちゃん、君に……なんとか』のあたりからかしら」
プーアはあまり似ていないレンガイの声真似をしてみせた。レンガイはため息をついた。
「それって、結構前だよね。もっと早くに声をかけてくれればこんな変な雰囲気にならなかったのに」
若干ポエミーな気分に浸っていた彼は、全身に嫌な汗をかきながら、顔を真っ赤にした。
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レンガイは力なく笑った。倒れ込んでしまいたくなった。
「それで、何しに来たのよ。悪の手に渡してしまうって何? アンタは何者なの」
「ああ……そのことか。……ごめん、落ち着いて話を聞いてくれるかな」
「つまりゴンザとかがアタシの身体を狙ってるってこと? へえ、そんな話、アタシが信じると思って?」
「ホントなんだって。だから僕が来てるんじゃないか、君を攫いにさ」
「それ、本人に言う? ついて行く訳がないでしょ。わざわざ殺されに行く程バカじゃないわ」
そりゃそうだ、とレンガイは思った。
──僕だって嫌なんだ、プーアはもっと嫌に決まっているさ。
だが、その気持ちを素直に伝えるわけにはいかなかった。
「殺されると決まったわけじゃない。でも、これだけは言えるんだ。君が来なかったら、たぶん僕らは殺される」
ひと呼吸おいて、レンガイは付け足した。
「……ゴンザによって、かな」
だが、プーアはそれがどうしたと言った様子でニヤニヤしながら言った。
「へえ、それは大変ね。でもアンタ言ったじゃない。その……」
彼女が顔を近づけてきたので、レンガイはドキッとした。
「その?」
「言わせないでよ。守ってくれるんじゃなかったのかしら?」
「それは……その」
レンガイは自分の発言が恥ずかしくなった。また、無責任な言動を少し悔やんだ。レンガイが屈強な悪魔とも言えるゴンザには勝てるはずがないからだ。
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