強がりな邪神ちゃんのストーカーは僕

おかだしゅうた。

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最終章 伝えたい言葉

神殺しの罪

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 殴る。蹴る。ただただ圧倒的な力をもって。
 神ゴンザの持つ『破壊』のスキルは、そんな単純なものだった。
 しかし、単純な暴力こそ強い。
 その暴力に蹂躙される青年が、今夜も1人、そこにはいた。


 ――もう、何回目なんだろう。
 洗脳によって殺戮マシーンと化したゴンザに、文字通り吹っ飛ばされながら、青年は思う。
 ――僕には勝てるわけないなあ……。
 それでも立ち上がった青年は、口から流れ出る血を袖で拭きながら、力なく笑った。
 青年は自身の血によって真っ赤に染まっていた。例え神であろうと死んでしまう程に。
 しかし、ロボットの如き動きを続けるゴンザは――再び、青年を全力で突き飛ばした。

「なあ、ゴンザ……いい加減、目を……覚ましてくれよ」
 その言葉が届かないと分かっていながら、青年は話す。一瞬ピクリと動きが止まった気もするが、攻撃の手はすぐに再開された。青年は苦痛の叫びを上げながら、惨めに転がる。今度の青年は、立ち上がることはせず、仰向けの状態で、夜空に映る満開の星々を眺める。あまりの痛みで、もう立ち上がることすらできない……誰が見ても、そんな様子な青年は、何故かと笑った。
「君は心優しいね……。ゴンザ、君、
 問いかけには答えてもらえず、寝た状態の青年はフルスイングのキックを喰らう。
「分かるよ。……君ほどの腕力のある男なら……本気になれば、僕なんて一撃で殺せるはずだから」
「でも……洗脳されたはずの君が、全力を出すことを躊躇っているってことは……まだ完全には乗っ取られていない……アンナプルナのスキルに……抗ってるのかな」
 口を動かすだけで微かな痛みが身体中を走るが、青年は気にすることなく続ける。
「辛かっただろうね……今、僕が……楽にしてあげるから」

「……というか……そうしないと、プーアちゃんを助けられないんだよね……」
 満身創痍の青年――神レンガイは、気を確かに持ちながら――再び、立ち上がった。


 何度も攻撃を受けている間、レンガイには不思議な声が聴こえてきた。
 レンガイには、その声に聞き覚えがあった。その声は――ゴンザのものだった。
 しかし、今のゴンザは洗脳によって、「レンガイを殺せ」というアンナプルナの命令をただ淡々とこなすだけの機械のような状態になっているため、声を出すことなど絶対にない。
 そこでレンガイにはある考えが頭を過ぎっていた。
 ――あの声は、ゴンザの心の声だ。

 レンガイは直前に、後天的スキルを覚醒させていた。
 そのスキルは、『心眼』。ヒナノの説明によると、『目に見えない本質を見抜く力』らしいが、実際、あまり使い方が分かっていない。唯一具体的な使用方法が分かっているものは、「相手の心を読む」こと。
 今回も、その「相手の心を読む」で、ゴンザの声が聴こえたのだろう。その時の声を聞いて、レンガイは震え上がった。
 ――ゴンザも闘ってるんだ。 

 レンガイは考えた。
 もう一度、ゴンザの心の奥まで入り込めば、洗脳を解く手掛かりが掴めるかもしれない。
 そう思い、決死の思いでゴンザの太い腕を掴み、意識を集中させる。しかし
「やめろ」
「――へ?」
 レンガイは驚きのあまり声を洩らした。今聞こえてきたゴンザの声は、スキルによって精神に直接語りかけてくるようなものではなかった。恐る恐る、レンガイは彼の顔を見た。
 すると――洗脳のせいで感情を失っていた先程までとは違い、はっきりと、明確な怒りを込めた顔が、そこにはあった。
「何してるのかわかんねえが……とにかく、俺から離れろ」
「ゴンザ! 洗脳が解けたのか!?」
 話が微妙に噛み合っていないことに苛立ちを覚えたのか、ゴンザの顔に血管が浮かび上がる。
「……無理やり、な。だが、あのオッサンの力が予想以上に強い。少しでも気を抜いたら、元通りになっちまう」
「元通りになっちゃ困るから、僕が君の洗脳を解こうとしてるんだよ」
 ゴンザはキョトンとした表情で聞いた。レンガイは頷く。
「ノエルの野郎の予言で聞いてはいたが……お前、本当に『心眼』のスキルを覚醒させたのか? だとしたら――」

「だとしたら、オレの洗脳をどうにかしようとしてる場合じゃねえだろ」

「……どうしてそんなこと言うんだ」
 ゴンザは舌打ちをし、自分の腕にまとわりつく手を強引に振り払う。
「お前よお、『本質を見抜く』スキルとかいうのを持っているクセに、自分のことは全く分かってねえんだな。いいか? お前が本当にやりたいことはなんなんだ?」

 ――本当にやりたいこと?

「そりゃ、プーアを助けることだよ」
 なんの恥ずかしさを見せることもなく、レンガイは言った。
「なら、さっさとオレから逃げて、上界に行け」
「…………」
 思わず沈黙してしまうレンガイ。何も言うことができないレンガイの様子を見て、ゴンザはため息をつく。
 彼は少し身を引いて――僅かな助走を付けながら、レンガイを張り手で。レンガイは空中を舞い、地面に背中から叩きつけられる。その衝撃で、また口から血を吐き出した。
「こ、殺す気か!」
 レンガイは思わず叫ぶ。今回の攻撃は、明らかにゴンザ本人の意思によるものだった。彼は苛立ちを顔に滲ませながら言う。
「だから、早く行けって」
「ゴンザ……」
 痛みに必死に耐えながら、なんとか立ち上がるレンガイ。
 あと一撃でも加えれば永遠の眠りについてしまいそうな彼を可哀想に思ったのか、ゴンザは思い出したかのようにポケットに手を突っ込み、何か細長いモノをレンガイに向かって軽く投げた。

「……これは?」
 レンガイは投げ渡されたモノをまじまじと見る。その投げ渡された細長いモノとは――非常に鋭利で、血で真っ赤に染まった――禍々しい、短刀だった。
「そいつは、『神殺し』。名前の通りだ。神ですら切り裂いてしまうほどの切れ味を持つ一級品。上界を含めて、世界に1つしかないらしい」
「どうして、僕にこれを?」
 そう尋ねるレンガイを、ゴンザは声を出して笑う。

「そいつはな、使んだよ」

「……?」
「自慢じゃないが、オレは、単純な殴り合いなら、誰にも負けねえ。だから、『邪神殺し』の処刑人を任されていたんだろうな」
 ゴンザは続ける。
「オレは――今回も、その刃物で、プーアの野郎を殺してやろうと思ってたんだよ」
「でも……プーアは邪神ですらなくなった。だから、君が持つ意味が無くなったということ? もう一度聞くけど……どうして、僕にこれを?」
 レンガイは、月の明かりに照らされて不気味に光る『神殺し』に目を落とす。

 ――何か……呑み込まれてしまいそうな……嫌な予感がする。

 彼は試しに、刃先に軽く指を置き、スライドさせてみた。ほぼ力を加えていないのに、想像よりもあっさりと、指から血が流れ出る。どうやら、『神殺し』の名に偽りはないようだ。

「お前が、プーアを救うのに、そいつがどうしても必要だと思ったからだよ」
 ゴンザは言った。
「……つまり、これで――アンナプルナを倒せってことか」
 その問いに、元の持ち主は頷く。レンガイは短刀を持っている手とは逆の手を、強く握りしめた。
 ゴンザは、固い決意を持ったレンガイを満足げに見て、「あばよ」と言った。
 レンガイとは別方向に、ノシノシと歩いていったと思われたが――

 

「ゴンザ!?」
 間一髪、攻撃を回避したレンガイは叫ぶ。彼は、何かの間違いではないかと、ゴンザの顔を見る。ゴンザは、また感情をなくしたロボットのような顔に豹変していた。
「まさか……もう、限界だったのか」
 ゴンザは、今度は完全に洗脳状態に陥ってしまったようだ。どうも、攻撃の手に、先程までは見られていた躊躇いが見られない。
 レンガイは考えた。自分が今やるべきことは、プーアをアンナプルナの手から救出することではあるが、暴走状態のゴンザの強大な暴力から逃げながらそれを果たすことはできそうにない。
 かといって、ゴンザに勝てるかというと、それはそれで、難しい問題だった。

 紙一重で攻撃を躱していくレンガイ。今はなんとか生き延びることができているが、これ以上の長期戦になればそうはいかないだろう。彼は歯軋りをしながら、無意識的に、『神殺し』を強く握り締めた。

 ――チカラがホシイカ?

 その声が、誰のものなのかは分からない。
 ただ、それは自分のものでも、ゴンザのものでもないことは確かだった。
 1つ、可能性があるとすれば――自身が握り締めた、『神殺し』。
 レンガイは、問いかけをする『神殺し』を、訝しげに見る。

 ――ククク……オレサマのコエがキコエルなんて、ヒサシブリ、ダナ。

「誰だ……お前は!」
 レンガイは堪らず、口に出して叫んだ。この間も、ゴンザの攻撃が休まることはない。

 ――『心眼』のスキルをモツモノよ。オマエが、ココロのナカをヨンデイル、『神殺し』ソノモノ、ダヨ。

 ――イイカ? オレの、チカラを、ツカエ。

 ――ソウスレバ、オマエのモクテキ、ゼンブカナエラレル。

「……」
 悪魔の囁きにも聞こえるその声に、戸惑いを見せるレンガイ。その隙を狙われたのだろう。ゴンザの拳が、脇腹に直撃する。レンガイは苦痛の叫びを上げた。

 ――オイオイ、ヨワイナア。タダ、コノカラダにシミコマレタ――タタカイのキオクを、オマエにワケテヤルだけ、ダヨ。

「そ……その誘いに乗れば……僕は……ほんっとうに……プーアを救えるのか!?」
 レンガイは必死に声を絞り上げ、問う。『神殺し』は、レンガイの期待通りの答えを返す。
 そして彼は。



 そして彼は、罪を犯した。
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