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最終章 伝えたい言葉
『予言』の嘘の場合
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凶器を手に持ったレンガイは、思わず息を呑む。
「これ……本当に……僕がやったのか……?」
彼の下に転がるのは、先程まで精神を乗っ取られ、ただひたすらに攻撃の手を加え続けていた、ゴンザ。
死んでしまったのか? それは、分からない。
生死を確認することなど、レンガイにはどうしてもできなかった。
時は数分前に遡る。
ゴンザによって投げ渡された短刀『神殺し』の提案に乗ったレンガイ。
――ククク……よくヤッタ。ソレじゃあサッソク、オレサマのツカイカタをオシエテヤロウ。
レンガイの頭の中に直接、『神殺し』は語りかける。レンガイは静かに、その声に意識を集中させた。
――ナニ、カンタンなコトダ。イイカ、ツヨイキモチをコメテ、オレサマをニギリシメロ。
――オマエの『心眼』がアレバ、オレサマはスゴイコトにナル。ククク……
その言葉の通りに、短刀を強く握りしめる。その感触を確認したのか、『神殺し』はボソボソと呟いた。
――イイゾ。コレ、コレダ。コノカンジ! オレサマがモトメテイタモノダヨ。
「……いいから……早く、次の指示をくれ」
苛立ち気味に口を開くレンガイは、自分が満身創痍の身体であることを思い出した。レンガイはゴンザからの暴力で、体中から血が大量に出ているだけでなく、何本も骨が折れていた。体力の限界が近いのか、どうも視界もボヤけている。それでも、彼は気を確かに保って立ち続けていた。
――アトハ、ヒタスラに、オマエがタオシタイアイテにムカッテイケバイイ。タダシ、ワスレルナヨ。ツヨイキモチを、ニギリシメテオクコトを、ナ。
それからのことを、本人はよく覚えていない。
ただ彼は、「プーアを助けたい」その一心だけを胸に、強大な敵に立ち向かっていた。
彼が我を取り戻した時は――ゴンザが倒れ、自分が立っているという、先程とは真逆の状況だった。
レンガイが状況を掴めずに動揺している時、『神殺し』は言った。
――コレホドとは、ナ。ソシツがアル、オマエには。ククク……。
――コレが……オマエのオクフカクにネムル、センザイノウリョクだ。
「分からない」
――ナニがダ。イイジャナイカ。モクテキはハタシタンダ。
「なぜ……君を握ると、こんなにも……自分でも理解できない感情が湧き出て来るんだ?」
その問いかけに、『神殺し』は笑う。尤も、その笑い声は『心眼』スキルで声が聴こえているレンガイにしか理解できないものだったが。
――『深層心理』ってヤツサ。オレサマをツカウトナ、ソレがヒョウメンカして――『感情』ってヤツにナルンだヨ。オレサマはソノ『感情』をエネルギーにシテ、アラユるノウリョクを、100%ヒキダスんダ。
少しの間を置いて、その不気味に輝く、血塗りの短刀はまた口を開く。
――オモシロイものダナ。『本質を見抜く』ハズの『心眼』のモチヌシハ、ジブンのキモチはリカイできてナイんダカラ。
恐ろしくなったレンガイは、乱暴に『神殺し』を懐に入れる。一旦深呼吸をして、彼はゴンザと闘っていた時に湧き出てきた感情を、冷静に分析しようと試みる。しかし、それを把握することは叶わなかった。舌打ちをしながら、自身の血だらけの拳を握り締める。
そして彼は逃げ出した。
ゴンザは死んでしまったのか? それは分からない。
生死を確認することなど、レンガイにはどうしてもできなかった。
漆黒の闇と同化しているレンガイの隠れ家は、ヒュウガと神たちの乱闘で騒がしかった。その中で、二人の女性は静かに話をする。
「――私も、アンナプルナへの復讐の計画は幾度となく立ててきたし、機会があれば何時だって実行に移してたわ。でも……何回やっても、失敗に終わってしまう」
未だに縄で縛り付けられているノエルは、余所見をせずに目を見てくるヒナノから、目を逸らしながら言った。
「……だと、しても――」
「アナタに何が分かるっていうの……? あの男の狡猾さは、元部下だったアナタだからこそ身を持って実感しているはず。また反逆をしようとしたら、今度は何をされるか。そもそも、アナタたちを殺すっていう指令すら達成できなかったから、それの処分も……」
「……だからこそ、お前は、『予言』の、スキルを、覚醒させたんじゃ、ないのか」
その言葉に、ノエルははっとする。
「……お前の、スキルは、予言、というより、予知の、特性が、強い。なぜそのスキルを、使おうと思ったのか、それを、忘れるな」
そう言い終えて、ヒナノはノエルの胸ぐらを掴むのを止め、縄を解き始める。ようやく解放されたノエルは、少し伸びをしてから答えを話し始めた。
「さっきも言ったでしょ。私はイレギュラーが嫌いだって。だから、スキルで――事前に全部知ってしまえば、対策のしようもあるじゃないの」
「……そう、だ。いいか、アンナプルナの、復讐の前に、お前の、スキルを使う。そこで、相手の出方を、全て知る。そうすれば――」
「それはどうかしらね」
ヒナノの提案を遮るように、ノエルは早口で喋る。
「私の『予言』はイレギュラーへの対策を講じる為の策にはなるかもしれない。でも……皮肉なことだけど、この『予言』は完璧じゃない」
「……どういうこと、だ」
向こうでは、ドンちゃん騒ぎしているヒュウガ達の物音が凄い。
「簡単に言えば、間違いもあるってこと。さっきのがいい例よ。『神ヒュウガと神ヒナノが私の手で殺される』こういう未来が視えたの。でも……アナタ達は、その未来を覆した。それどころか、今となっては形勢が逆転されて、私はいつ殺されてもおかしくない状況にある。これって、スキルが失敗に終わった証拠でしょ」
「つまり、私のスキルを当てにしちゃ、イレギュラーに振り回されるのはアナタ達かもしれないってこと」
「……それは――」
ノエルの意見を受けて、沈黙するヒナノ。だがその沈黙は、乱闘を制したらしいヒュウガによって打ち破られた。
「へへ! なんだお前ら。神だっていうのに情けないぞ! オイラ的には、『くまくま園』の熊のほうが強かったぜ! よーし、終わったぜ、姉ちゃん――って、アレ? なんか2人共暗いなあ。どうしたんだよ」
ヒュウガの足元には、気絶していて身動きをとることができない神たちが大量に散らばっていた。
ヒュウガに助けを求めるように、ノエルは彼に向かって言う。
「ヒュウガくん。アナタのお姉さんが、復讐に協力しろってうるさいんだけど」
「? すればいいじゃん。アンタだって、オッサンには不満が溜まってるだろ」
ヒュウガの何も考えていないような主張にうんざりしたのか、ノエルは深いため息をつく。彼女は重い足取りで、今度はヒナノに近づき、耳打ちをした。
「ねえ……こんっの出来の悪い弟くんにしっかり説明してやってよ」
ヒナノはヒュウガにこれまでの話を簡単に、順序よく説明をした。
「――ふむふむ、なるほどなー。つまりアンタ、失敗が怖いだけじゃねえか」
話を聞き終えて、ヒュウガは簡単に言い放った。それが頭に来たのか、ノエルが物凄い剣幕で喋り始める。
「いい? 相手はあのアンナプルナ! 失敗が怖い? 当たり前よ! これまで何度も反逆に失敗してきた私が、あの男に、どんなことをさせられてきたか! あんな思いはもうごめん。それに……今回ばかりは、殺される可能性だってある!」
「死ぬのが嫌だったら成功させりゃいいんだって! うるさいな!」
反論を受けて、身を乗り出して口を動かし始めるヒュウガ。ヒナノが間に入って止めに入るが、二人とも聞く耳を持たない。ヒナノは困った顔をした。
「――アナタ達は簡単に復讐だ、反逆だって言うけれど……どうせ、最後になったら逃げ出すんでしょ!」
そう言って、ピタリと動きを止めてしまったノエル。彼女の目には、僅かながら涙が溜まっていた。さすがのヒュウガも喧嘩腰で話すことを止め、心配そうに彼女のことを見つめる。
「……それらしいこと、を、さっきも、言っていた、な」
「私は他人なんて信じない。人は誰だって自分のことしか考えてないから」
何を言うかヒナノが迷っている時、ヒュウガが小さな声で呟いた。
「なんか……面倒くさいメンヘラ女だな」
「えっ」
眉をひそめながら声を洩らすノエルの目を、しっかりと見てヒュウガは語り始める。
「何があったのか、オイラはよく分かんないけどさ。アンタの中だけの話でみんなを巻き込むなって。さっき、『人は誰だって自分のことしか考えてない』って言ってたけど、オイラはそうは思わないな。最後まで誰かの為に戦っている人を――オイラは、2人知ってるぜ」
恥ずかしがる素振りを全く見せずに、ヒュウガは言う。2人のうちの1人はもちろん、今まで自身のことを支え続けてくれたヒナノのことを指していた。
「アンタは今まで関わってきた人たちが悪かったんだって! そりゃ、アンタの言うとおり、自己中心的な考え方のヤツはたくさんいると思うけど、他人の為に命を削ってくれる人だって、それと同じくらいいる」
「……何が言いたいの……?」
堪らず、ノエルは聞いた。
「その……オイラが、アンタのことも守ってやるから……その、うん、なんだ、えっと」
最後の最後で言葉に詰まって、上手く話せなくなってしまったヒュウガ。そんな彼の様子を見て、ノエルは僅かに微笑む。
「そうは言っても、アンタは信じてくれないだろうなあ。だから……行動で示す! そのためには、まずはオイラのことを信用して――アレ?」
「堂々巡りじゃない」
ノエルは、顔を赤らめながら話すヒュウガをおかしく思ったのか、いつもの調子で笑う。ヒュウガも誘われて笑っている隅で、良い雰囲気になっていることを面白く思ってないらしいヒナノがムッとした。会話の軌道を無理矢理にでも修正する為に、ヒナノは話の脈絡を無視して声を上げる。
「……協力して、くれるのか?」
「そうね。アナタ達はほんっとうにムカつくし、ヒュウガくんにはメンヘラ女だとか言われたけど。……ここまで真剣に向き合ってくれる人と話せたのは久しぶり。みーんな私を恐れて適当な事しか言わないからね」
「それに――復讐に失敗したとしても、ヒュウガくんが何とかしてくれるみたいだし……ねえ?」
ノエルは余裕のある笑顔をしながら、ヒュウガの頭を撫でた。弟を取られる予感がしたのだろう、ヒナノが静かに嫉妬の炎を燃やしている。修羅場になりそうなことを肌で感じ取ったヒュウガは何とも言えない気持ちになった。彼は思い出したかのように叫ぶ。
「そ、そうだ! じゃあ、さっそく『予言』してくれよ! そうだな、まずはレンガイの兄ちゃんのことが知りたい!」
「レンガイ? ああ、あのちょいイケメンね。……ちょっとだけ時間をくれる?」
そう言って、ノエルはヒナノとヒュウガから離れた。十分な距離を取ったところで、彼女は目を閉じて静かに深呼吸を繰り返す。
「な、なあ、姉ちゃん。『予言』って、いっつもあんな感じなのか?」
ヒュウガはノエルの集中を乱さないように、小さな声でヒナノに問う。
「……私も、実際には、初めて見る。ただ、確かに、時間がかかる、らしい。戦闘には、不向きな、よう、だ。……それに、邪神ノエルの、話によると、正確さも、危うい、らしい」
「嘘の場合もあるってことか」
2人は静かに、『予言』のスキルを発動させようとしているノエルを見守った。とは言っても、何か派手なエフェクトが出るわけでもないので、ヒュウガは途中、「やってることの割に退屈で地味なスキルだな」とボソッと呟いてしまった。その声を聞き逃さなかったノエルにかなり怖い目で見つめられてしまって、ヒュウガは萎縮する。
「終わった」
数分後、ノエルはそう言って、二人のもとに帰ってきた。
「それで? レンガイの兄ちゃんは、どうなるんだ?」
ゴクリ、とノエルは息を呑んだ。そして、言いづらそうに、彼女は言う。
「神殺し。42人。死」
ぶつ切りに、3つの単語を言い終えたノエルは、静かに床へ目を落とす。
何かの聞き間違いではないかと、ヒュウガは聞き返した。
「嘘だろ?」
「これ……本当に……僕がやったのか……?」
彼の下に転がるのは、先程まで精神を乗っ取られ、ただひたすらに攻撃の手を加え続けていた、ゴンザ。
死んでしまったのか? それは、分からない。
生死を確認することなど、レンガイにはどうしてもできなかった。
時は数分前に遡る。
ゴンザによって投げ渡された短刀『神殺し』の提案に乗ったレンガイ。
――ククク……よくヤッタ。ソレじゃあサッソク、オレサマのツカイカタをオシエテヤロウ。
レンガイの頭の中に直接、『神殺し』は語りかける。レンガイは静かに、その声に意識を集中させた。
――ナニ、カンタンなコトダ。イイカ、ツヨイキモチをコメテ、オレサマをニギリシメロ。
――オマエの『心眼』がアレバ、オレサマはスゴイコトにナル。ククク……
その言葉の通りに、短刀を強く握りしめる。その感触を確認したのか、『神殺し』はボソボソと呟いた。
――イイゾ。コレ、コレダ。コノカンジ! オレサマがモトメテイタモノダヨ。
「……いいから……早く、次の指示をくれ」
苛立ち気味に口を開くレンガイは、自分が満身創痍の身体であることを思い出した。レンガイはゴンザからの暴力で、体中から血が大量に出ているだけでなく、何本も骨が折れていた。体力の限界が近いのか、どうも視界もボヤけている。それでも、彼は気を確かに保って立ち続けていた。
――アトハ、ヒタスラに、オマエがタオシタイアイテにムカッテイケバイイ。タダシ、ワスレルナヨ。ツヨイキモチを、ニギリシメテオクコトを、ナ。
それからのことを、本人はよく覚えていない。
ただ彼は、「プーアを助けたい」その一心だけを胸に、強大な敵に立ち向かっていた。
彼が我を取り戻した時は――ゴンザが倒れ、自分が立っているという、先程とは真逆の状況だった。
レンガイが状況を掴めずに動揺している時、『神殺し』は言った。
――コレホドとは、ナ。ソシツがアル、オマエには。ククク……。
――コレが……オマエのオクフカクにネムル、センザイノウリョクだ。
「分からない」
――ナニがダ。イイジャナイカ。モクテキはハタシタンダ。
「なぜ……君を握ると、こんなにも……自分でも理解できない感情が湧き出て来るんだ?」
その問いかけに、『神殺し』は笑う。尤も、その笑い声は『心眼』スキルで声が聴こえているレンガイにしか理解できないものだったが。
――『深層心理』ってヤツサ。オレサマをツカウトナ、ソレがヒョウメンカして――『感情』ってヤツにナルンだヨ。オレサマはソノ『感情』をエネルギーにシテ、アラユるノウリョクを、100%ヒキダスんダ。
少しの間を置いて、その不気味に輝く、血塗りの短刀はまた口を開く。
――オモシロイものダナ。『本質を見抜く』ハズの『心眼』のモチヌシハ、ジブンのキモチはリカイできてナイんダカラ。
恐ろしくなったレンガイは、乱暴に『神殺し』を懐に入れる。一旦深呼吸をして、彼はゴンザと闘っていた時に湧き出てきた感情を、冷静に分析しようと試みる。しかし、それを把握することは叶わなかった。舌打ちをしながら、自身の血だらけの拳を握り締める。
そして彼は逃げ出した。
ゴンザは死んでしまったのか? それは分からない。
生死を確認することなど、レンガイにはどうしてもできなかった。
漆黒の闇と同化しているレンガイの隠れ家は、ヒュウガと神たちの乱闘で騒がしかった。その中で、二人の女性は静かに話をする。
「――私も、アンナプルナへの復讐の計画は幾度となく立ててきたし、機会があれば何時だって実行に移してたわ。でも……何回やっても、失敗に終わってしまう」
未だに縄で縛り付けられているノエルは、余所見をせずに目を見てくるヒナノから、目を逸らしながら言った。
「……だと、しても――」
「アナタに何が分かるっていうの……? あの男の狡猾さは、元部下だったアナタだからこそ身を持って実感しているはず。また反逆をしようとしたら、今度は何をされるか。そもそも、アナタたちを殺すっていう指令すら達成できなかったから、それの処分も……」
「……だからこそ、お前は、『予言』の、スキルを、覚醒させたんじゃ、ないのか」
その言葉に、ノエルははっとする。
「……お前の、スキルは、予言、というより、予知の、特性が、強い。なぜそのスキルを、使おうと思ったのか、それを、忘れるな」
そう言い終えて、ヒナノはノエルの胸ぐらを掴むのを止め、縄を解き始める。ようやく解放されたノエルは、少し伸びをしてから答えを話し始めた。
「さっきも言ったでしょ。私はイレギュラーが嫌いだって。だから、スキルで――事前に全部知ってしまえば、対策のしようもあるじゃないの」
「……そう、だ。いいか、アンナプルナの、復讐の前に、お前の、スキルを使う。そこで、相手の出方を、全て知る。そうすれば――」
「それはどうかしらね」
ヒナノの提案を遮るように、ノエルは早口で喋る。
「私の『予言』はイレギュラーへの対策を講じる為の策にはなるかもしれない。でも……皮肉なことだけど、この『予言』は完璧じゃない」
「……どういうこと、だ」
向こうでは、ドンちゃん騒ぎしているヒュウガ達の物音が凄い。
「簡単に言えば、間違いもあるってこと。さっきのがいい例よ。『神ヒュウガと神ヒナノが私の手で殺される』こういう未来が視えたの。でも……アナタ達は、その未来を覆した。それどころか、今となっては形勢が逆転されて、私はいつ殺されてもおかしくない状況にある。これって、スキルが失敗に終わった証拠でしょ」
「つまり、私のスキルを当てにしちゃ、イレギュラーに振り回されるのはアナタ達かもしれないってこと」
「……それは――」
ノエルの意見を受けて、沈黙するヒナノ。だがその沈黙は、乱闘を制したらしいヒュウガによって打ち破られた。
「へへ! なんだお前ら。神だっていうのに情けないぞ! オイラ的には、『くまくま園』の熊のほうが強かったぜ! よーし、終わったぜ、姉ちゃん――って、アレ? なんか2人共暗いなあ。どうしたんだよ」
ヒュウガの足元には、気絶していて身動きをとることができない神たちが大量に散らばっていた。
ヒュウガに助けを求めるように、ノエルは彼に向かって言う。
「ヒュウガくん。アナタのお姉さんが、復讐に協力しろってうるさいんだけど」
「? すればいいじゃん。アンタだって、オッサンには不満が溜まってるだろ」
ヒュウガの何も考えていないような主張にうんざりしたのか、ノエルは深いため息をつく。彼女は重い足取りで、今度はヒナノに近づき、耳打ちをした。
「ねえ……こんっの出来の悪い弟くんにしっかり説明してやってよ」
ヒナノはヒュウガにこれまでの話を簡単に、順序よく説明をした。
「――ふむふむ、なるほどなー。つまりアンタ、失敗が怖いだけじゃねえか」
話を聞き終えて、ヒュウガは簡単に言い放った。それが頭に来たのか、ノエルが物凄い剣幕で喋り始める。
「いい? 相手はあのアンナプルナ! 失敗が怖い? 当たり前よ! これまで何度も反逆に失敗してきた私が、あの男に、どんなことをさせられてきたか! あんな思いはもうごめん。それに……今回ばかりは、殺される可能性だってある!」
「死ぬのが嫌だったら成功させりゃいいんだって! うるさいな!」
反論を受けて、身を乗り出して口を動かし始めるヒュウガ。ヒナノが間に入って止めに入るが、二人とも聞く耳を持たない。ヒナノは困った顔をした。
「――アナタ達は簡単に復讐だ、反逆だって言うけれど……どうせ、最後になったら逃げ出すんでしょ!」
そう言って、ピタリと動きを止めてしまったノエル。彼女の目には、僅かながら涙が溜まっていた。さすがのヒュウガも喧嘩腰で話すことを止め、心配そうに彼女のことを見つめる。
「……それらしいこと、を、さっきも、言っていた、な」
「私は他人なんて信じない。人は誰だって自分のことしか考えてないから」
何を言うかヒナノが迷っている時、ヒュウガが小さな声で呟いた。
「なんか……面倒くさいメンヘラ女だな」
「えっ」
眉をひそめながら声を洩らすノエルの目を、しっかりと見てヒュウガは語り始める。
「何があったのか、オイラはよく分かんないけどさ。アンタの中だけの話でみんなを巻き込むなって。さっき、『人は誰だって自分のことしか考えてない』って言ってたけど、オイラはそうは思わないな。最後まで誰かの為に戦っている人を――オイラは、2人知ってるぜ」
恥ずかしがる素振りを全く見せずに、ヒュウガは言う。2人のうちの1人はもちろん、今まで自身のことを支え続けてくれたヒナノのことを指していた。
「アンタは今まで関わってきた人たちが悪かったんだって! そりゃ、アンタの言うとおり、自己中心的な考え方のヤツはたくさんいると思うけど、他人の為に命を削ってくれる人だって、それと同じくらいいる」
「……何が言いたいの……?」
堪らず、ノエルは聞いた。
「その……オイラが、アンタのことも守ってやるから……その、うん、なんだ、えっと」
最後の最後で言葉に詰まって、上手く話せなくなってしまったヒュウガ。そんな彼の様子を見て、ノエルは僅かに微笑む。
「そうは言っても、アンタは信じてくれないだろうなあ。だから……行動で示す! そのためには、まずはオイラのことを信用して――アレ?」
「堂々巡りじゃない」
ノエルは、顔を赤らめながら話すヒュウガをおかしく思ったのか、いつもの調子で笑う。ヒュウガも誘われて笑っている隅で、良い雰囲気になっていることを面白く思ってないらしいヒナノがムッとした。会話の軌道を無理矢理にでも修正する為に、ヒナノは話の脈絡を無視して声を上げる。
「……協力して、くれるのか?」
「そうね。アナタ達はほんっとうにムカつくし、ヒュウガくんにはメンヘラ女だとか言われたけど。……ここまで真剣に向き合ってくれる人と話せたのは久しぶり。みーんな私を恐れて適当な事しか言わないからね」
「それに――復讐に失敗したとしても、ヒュウガくんが何とかしてくれるみたいだし……ねえ?」
ノエルは余裕のある笑顔をしながら、ヒュウガの頭を撫でた。弟を取られる予感がしたのだろう、ヒナノが静かに嫉妬の炎を燃やしている。修羅場になりそうなことを肌で感じ取ったヒュウガは何とも言えない気持ちになった。彼は思い出したかのように叫ぶ。
「そ、そうだ! じゃあ、さっそく『予言』してくれよ! そうだな、まずはレンガイの兄ちゃんのことが知りたい!」
「レンガイ? ああ、あのちょいイケメンね。……ちょっとだけ時間をくれる?」
そう言って、ノエルはヒナノとヒュウガから離れた。十分な距離を取ったところで、彼女は目を閉じて静かに深呼吸を繰り返す。
「な、なあ、姉ちゃん。『予言』って、いっつもあんな感じなのか?」
ヒュウガはノエルの集中を乱さないように、小さな声でヒナノに問う。
「……私も、実際には、初めて見る。ただ、確かに、時間がかかる、らしい。戦闘には、不向きな、よう、だ。……それに、邪神ノエルの、話によると、正確さも、危うい、らしい」
「嘘の場合もあるってことか」
2人は静かに、『予言』のスキルを発動させようとしているノエルを見守った。とは言っても、何か派手なエフェクトが出るわけでもないので、ヒュウガは途中、「やってることの割に退屈で地味なスキルだな」とボソッと呟いてしまった。その声を聞き逃さなかったノエルにかなり怖い目で見つめられてしまって、ヒュウガは萎縮する。
「終わった」
数分後、ノエルはそう言って、二人のもとに帰ってきた。
「それで? レンガイの兄ちゃんは、どうなるんだ?」
ゴクリ、とノエルは息を呑んだ。そして、言いづらそうに、彼女は言う。
「神殺し。42人。死」
ぶつ切りに、3つの単語を言い終えたノエルは、静かに床へ目を落とす。
何かの聞き間違いではないかと、ヒュウガは聞き返した。
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桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
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