ソナタを奏でるには、

アキノナツ

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終】ソナタを奏でるには、想いだけではダメなようです。※

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コレ止まらない。
キスを繰り返し、彼の唇と髪、身体の感触にうっとりしていた。

キス覚えたてのチュウボウかよ。
男としたのは、初めてですけどね。
いつまでもできる自信あるね。

カウンター前で抱きしめていると、背に回ってた手の力が緩んで、急にぐっと重くなった。
慌てて抱き直す。
寝るかもとは思ってはいたが、このタイミングって……。

立ち往生である。

奥に倉庫兼どうしようもない酔っぱらいを放り込む休憩室があるから、そこに運ぶか…。
うちの店で無様に酔い潰れる客は、滅多に出ないのでここ暫く使っているのは、俺だけ。
仮眠室扱いだ。

ヨイショっと。

……思ったより重かった。
筋肉質なのね。
眠ってるからなのか?

チェロって弾くのに体力要りそうだと思ってたけど、筋トレとかしてるんだろうか。
見た目の雰囲気と触った感覚から楽勝と思って横抱きにして、危うく腰をやるところだったよ。
甘くみちゃたね。
ーーー割としっかりした体格してるんだな。

こんな身体で男と?
もう分かったというか、認めた事なのに、まだ半信半疑の俺がいた。

どう見ても男だ。
色気もあるけど。
艶もあるけど。
めっちゃ唆られるけど。
ーーーー性的にクルよ。認めます。

泣いてたからな。
目元が赤い。色っぽいなぁ。
冷やしてやった方が良いか。

そっと上掛けを掛けた。


店を片付けて、戻ってきてもスヤスヤ寝ていた。
目の上に乗せて置いたタオルもズレてない。
ぐっすりか。
俺も眠い。
タオルを取る。もう必要ないか。
片付け、横に潜り込んで、彼を抱き枕にして眠った。


◇◇◇


腕の中で何かが動く。
俺はもう少し寝てたいんだよ。動くな。
ぎゅっと抱き込んだら、もっと動き出した。
鬱陶しな。
動くなって。
足を絡めて更にぎゅっ。
腕に何かが当たってる……叩かれてる?

開かない目を無理やり開ける。
頭?
髪の毛。……柔らかそうだ。
そうそう、コレ柔らかくて触り心地がいいんだ。
手が自然とそれを撫でてた。
「苦しい……」
小さな声が胸元でする。
人?

あ! しまった!

ガバッと手を離して起き上がった。
絡んだ身体も離す。

「お、おはよう」
とりあえず、挨拶。
「おはよう。苦しかったよぉ」
ぷぅっと膨れている。
とんがってる唇が誘ってる。

あー、キスしたい。

イカン!

恋人でもないんだ。線引きしないと。えーと、細かいことは後で考えよう。
内心大嵐だが、なんとか外面だけは静かに対応しようと努めた。

野獣になりかけそうなのを、なんとか紳士的に抑え込む。

「ココどこ?」
キョロキョロしてる。
「仮眠室。と言っても、倉庫も兼ねてるから。あんまり見ないでくれる?」
「店か……あのまま寝ちゃったのか」
「そう」
ベッドから降りると、身支度を整える。
ふと彼を見ると、簡易ベッドの上に座り込んで、寝癖の付いた髪のまま小首を傾げてこっちを見てた。
抑え込んだモノが動きそうになる。どうどう。ステイ!

「なに? 電車動いてるから帰れるぞ」

「なんか、服越しだけど、肩甲骨辺りの動きがエロいなと思って」
「はぁあ?」
ヤバかった。欲望が突破してくる。
押し倒しそうだよ。
なんとか押し留めた。
苦しい! 眉間に皺寄ってるな。

片手で顔を覆ってなんとか落ち着く。

「セフレになってくれるって話、夢じゃないよね?」
あー、コレって、キスして良いよな?
チャンスだよな?
誰に聞いてる?!

クッと彼の顎に指をかけると、唇をそっと重ね離れた。

「夢じゃない。約束する」

コレって顎クイってヤツか?! 演り切れたか?

「やったぁ。いつ呼んでもいい?」
花が咲いたようとはこういう事をいうのかと思う笑顔。

うっとりしつつ、呟くように告げる。
「ああ、いいよ。いつでも…」
あの舌を味わいたい……。
吸い込まれるように、唇を寄せていく。
と、ガシッと肩を掴まれて、それを支えに彼が立ち上がった。
視界がぐるんと揺れる。
入れ替わりに俺がベッドに座ってた。

あれ? 避けられた?
ーーー天然?

「じゃあ、今度連絡入れれるように電話番号教えてぇ」
ゴソゴソ何か探してる。
尻がゆらゆら……。

あらぬ衝動にドギマギする。
俺、重症です。

彼がスッとスマホを、頭を抱えてた俺の目の前に差し出す。
電話のキーパッド画面が表示されていた。
覗き込んできてニッコリ。

鼻血出てないよな。思わず片手で覆った。

口元を覆ったまま、自分の番号をプッシュ。
受話器を上げる。

俺の上着から振動音がーーースンと止まる。

彼がスマホを操作しながら「今のが、オレのだから。登録よろしく」と言った。

「あ、ああ、分かった」
「あと、ショートでいいから、メーアドとか送っといて」
「分かった」
ほぼ上の空で返事をしてる。
「じゃあ、帰るねぇ。ありがとう」
「分かった」
サクサク作業を終えると、上着と鞄を掴むとツカツカ出ていった。

コロロン
ドアベルの音で我に返った。

帰った?!
いやいや、帰って当然だ。
普通帰るだろ。

それより、俺、これからどうする?
……ノープラン!ノープランだよ!!!



とりあえず、考えよう。
今日は店休みたい気分だが、仕事は仕事だ。
一旦家に帰ろう。

帰る道すがら、考え続ける。

恋人じゃないのは、確かだ。
セフレって、セックスフレンドって事は、身体だけの関係って事だよな。
なんか勢いだけで言ってしまったが、恋人での方が良かったのでは?
いやぁ、彼の様子から恋人は作らない方針とみた。これでいい。良かった筈だ。

あとは、俺の態度というか対応の仕方だな。

玄関を開けながら、兎に角考え続けた。

気持ちは横に置いといて。
事実だけを確認、認識していこう。

鍵とスマホを所定の位置に置き、シャワーを浴びて、部屋着に着替えて、ソファに落ち着いた。

あ、登録。

スマホの着歴から『チェロさん』で登録。
今度名前聞こうか。
ーーーーやめよう。線引きが怪しくなりそうだ。

メーアドとかメッセージのIDとかショートで送った。送り過ぎたか?ーーーー送ってしまったものを考えても無駄だ。好きに選んでもらえばいいだろ。

ノートパソコンを立ち上げる。





世の男色の方々申し訳ない!

ーーーー気持ち悪いです……。
どうしよう……。

男同士のセックスがどういうものか調べてみようとして、安易にAVに流れてきてしまった。

俺出来るか自信無くなってきたよ……。

パソコン画面に男同士の絡みが映っている。

ーーーコーヒー淹れよう。

瓶から直接、適当にマグに振り入れる。
電気ケトルから湯気が上がる。
注ぎながら、ハタと気づいた。

彼となら出来る気がする!
大丈夫。
要はやり方か。そこ勉強しよう。
カクテル覚える時の要領でやれば、手順だけは頭に入る。

あとはーーーーノリ???
いいのか?!
それでいいのか、俺???!


頭には入った。
注意事項も大丈夫。
店に向かう途中、コンビニで軽食買うついで・・・にコンドームも入れた。


足早に店に入る。

勝手口にいつもの酒と乾き物と果物が届いていた。走り書きのメモが添えてある。

都合でいつもより早く来て、置いて行く事になったと謝罪があった。
長い付き合いだが、このパターンは初めてだな。
俺が遅かったかな。気遣わせて悪かった。

そろそろおしぼりが届く頃だな。


さて、問題が一つ。
届いた氷を割りながら、悶々としてた。
よし! 今日も綺麗です。
丸く仕上がった氷を愛でる。

キスを止めれる自信がない。
あの唇が罪だ。
誘われるんだよ。
ーーー相手は悪くない。俺が悪いよな。

セックスの最中はいいのとして、終わった後だ。
そのまま帰れるか?
居座りそうだな。
いつまでもしてそうな気がする。
なんとか終わったらすぐ帰れるようにーーーーなんかキッカケみたいなのが欲しいな。

氷の準備も終了。

ちょっと休憩。
乾き物の整理をしながら、中にあったチョコを口に放り込む。

そうだ。金平糖みたいなのもあっても良いかもな。

ふとストック瓶の横に置いてる籠に目がいく。
ああ、コレがあったか。
忘れ物とか店のロゴに入ったライターとか入ってる籠に目的に合致しそうなのがあった。
もうコレは廃棄だから良いか。
いつも使ってる感が出るだろう。
ポケットに突っ込む。


◇◇◇◇


あれから随分間が空いた。
店にも来てないから会ってもいない。

大した間でもないんだが、空いてる気がする。ーーー連絡来ないなぁ。

シェイカーを振りながら、そんな事を考えてた。
味に妥協はしてないよ。仕事はキチンとしてます。
今日もキレ良く仕上げました。ーーーどうぞ。





寝てた。
夜の仕事してたら、寝てて当然の時間だ。

スマホがコール音と振動音を賑やかにたてている。
いつ連絡があるか分からないから、家ではマナーモードを切るようにした。

俺って……こんな尽くすタイプだったか?

『チェロさん』と表示されてた。
「はい」
寝起きなので、この対応ですまん。
ガラガラ声だった。

『オレ』
オドオドしてる?ーーードスでも効いてますか?
「うん。寝起きだ。すまん」

『なんだー。会えるぅ?』
途端、いつものふわふわした感じに。
「ああ、何処で? 今から?」
『そうだなぁ。すぐな気分なんだけど。今日ってお店休みだよね。夜会える?』

なんか面倒臭くなってきた。
「今から支度するから、何処かで会おうか?」
『じゃあ、ウチ来てよ。ーーーー住所送るねぇ。待ってるぅ』
プツンと切れた。
ぼんやり画面見てると、メールが届いた。
開くと地図付きだった。




来た。
手順は頭に入ってるけど、ぶっつけ本番だ。マジに本番なんだな。
あと小物もポケットに入ってる。
足りないものはコンビニで仕入れた。
便利だな、コンビニ。

オートロックか。
部屋番号をスマホで確認して押す。
開いた。
本人確認は?ーーーあ、カメラ付いてるのか。

部屋の前。
ドアホンを押す。

勢いよくドアが開いた。
「いらっしゃい」

彼だ。目の前に彼がいる!
抱きしめそうになってなんとか踏み留まった。

「よぉ」
軽く言えてるだろうか。


玄関のドアの鍵が落ちたところからスタートだった。
手順?
そんなものどっか行った。

抱きつかれて、貪るようにキスされて、靴を投げるように脱ぐ。

寝室まで、絡み合いながら移動する。
リードされっぱなしだ。

寝室らしき扉を潜ったところで、上着を脱がされて、シャツのボタンを外されていく。
キスをしながら、器用なもんだ。
俺はカチャカチャとベルトを外すと、スラックスを脱ぎ捨てた。
脱がされたシャツもその辺に落とされた。

ベッドに押し倒す。
くふふと笑ってる。
上の下着と靴下を脱ぎ捨てると彼のシャツに手をかけて止まった。
ダボっとした太腿が隠れるロング丈のトレーナーのようなモノを着ていて下はーーーー履いてなかった。

太腿から腰まで手に何も引っ掛からない。

「すぐしたかったから……」
頬を赤らめて、モジっと恥じらいを含み目を伏せる。
「分かった」
ベッド近くに落ちてた上着を引っ掴むとコンドームの箱を出す。
パウチの封が指が滑って切れなくて、口に咥えて開けた。

女とした時だって、こんなに焦った事はなかった。

彼はヘッドボードの引き出しから、ボトルを出してた。

「中に入れてるけど、コレ使って」
ローションか。
半勃ちしてた分身をトランクスから取り出すと勃たせる。
トランクスも投げて、全裸だ。
スルッと彼の指が絡む。
一気に勃った。マジか…!

「すっご」
呟く彼の声に更に痛くなる。
落ち着け、俺!
真面目に息子に言い聞かせた。
ゴムを這わせる。
ここでイったら、カッコ悪すぎる。

中でイきたい。
味わってから、いや、味わせて、俺が良いて思わせたい。


ローションを手に温めながら、彼の後ろに手を這わせる。
えっと、解して……柔らかい。
2本入る?
ゆるゆる動かしながら、彼の様子を見たら、感じてるみたいだけど、余裕だ。
悔しいな。

キスをしながら、さっさと3本に増やす。
舌を絡めて吸って堪能してた。
角度を変えて、もっと奥……。
指も動かし、孔を広げる。
くぱっと広がってる感覚がある。
ここに至るまで、彼を脱がして無かったことに気づいた。
下から手を差し入れて、胸を撫でる。
平ら……ちょっと胸筋があって柔らかい。
掌、指先に突起が触る。乳首か。
捏ねて触ってると固くなってきた。

ムフンと明らかに違う息遣い。
感じてる?

舐めたい。
思い切って服をたくし上げると彼の身体の首から下が晒された。
全然萎えない。
欲望の赴くまま突起を口に含んだ。

「あふぅん…!」
密やかな声を発した。
早く挿れたい。

後ろから指を抜くと、乳首を吸って甘噛みする。
喘ぎ出した。
名残り惜しいが、尖りを舐めて離れる。

腰を太腿に持ち上げ脚を折り曲げる潰す。
大きく開いた間に俺と同じものが揺れていた。
コレも舐めたいが、あとだ。

「早くぅ」
ほら、急かされる。

後孔を再び広げてみた。中が赤く蠢いて誘ってた。
先端を押し当てると、孔がヒクヒクと咥え込もうとしてる。

挿し込むと、ズルズルと咥え込まれていく。
途中ローションを足して、出したり挿れたりをくる返しながら中へ中へと進む。
先端を包み込まれる感触で、行き止まった。
全体が隈なく包み込まれて、蠕動運動にもうイキそうで、眉間に力が入ってるのが分かる。
耐える。
「全部、入った」
「う…ふぅん、動いてぇ……」
艶めくお強請りがきた。

服が邪魔だ。
中に馴染む間に服を脱がせる。
全身を上から隈なく視姦する。

中で俺が持ち上がった。まだ大きくなるらしい。
彼が腹を撫でながら微笑んでる。合格点を貰えたようだ。

脚を掴んで、ゆっくり回すように動かす。
中が絡みつく。病みつきになりそうな快感に正気を保つのが難しくなってきた。

「あ、うぅ、うきゅうぅぅ」
中の締まり具合と喘ぎが連動してる。
面白い。
今まで味わった事のない、緩くない力強いダイレクトな感覚。
中が包み込んで、俺の形になっている。
俺だけ……。
フッと怒りのようなモノが湧いてきた。
今だけは俺だけの……。

抱き込むと唇を合わせて、ズルズルと引き出し、再び突き入れた。
口の中で声が響く。
もっと、もっと、啼け!

突き当たりまで押し込み、引き出す。
絡みついて、行かないでと、動きを留められるのが刺激になって、腰が止まらない。

肉が打ちつけられる音と後孔を出入りする水音が響く。

気づいた。
カリが同じところを通過する時、舌の動きが止まって、呻く。
ここか?
目的のところで角度を変えて、腰を前後させて抉る。

甲高い響きが口の中に広がる。

唐突に肩に手を突かれて、口が離れてしまった。
吸い取れなかった唾液が垂れていくつも糸を引く。

「そこ、ばっかり、イっちゃ、うから、ダメぇ」
息をつきながら、切れ切れに訴えてくる。

誰が止めるかよ!

腰を掴むとゴリゴリ擦るつけて、抉った。
彼が啼きながら、悶えてる。
コレ、クルな!
柔らかく抱きしめて扱いてくる肉筒。

「うきゅ! あ、あぁ、あーーー! はぁぁん、あふぅん。うふぅん。んーーーー!」
ほらほら! もっと!
俺イキそう。
「イっていいか?!」

「あぁぁ? イって、イってぇぇ!」
許可も出たことだし、イこうか。
彼にもイってほしいな。
前を見たら、ダラダラ先走りでベタベタだ。
ココもう少し抉ったら、イくな。

よし!

大きいストロークで抉りながら、奥まで行って、擦り付けるように引き出しながら、あそこを抉るように擦り上げて突き進む。繰り返すと甲高く啼きだした。

最後だ。
抉って奥にぶっつけて根元まで押し込んだ。
ブルっと震って、イった。
長い射精感を味わってると、腹がヌメるのを感じた。
彼もイってくれたようだ。

汗だくだ。
荒い息を飲み込む。なかなか治らない。
彼の身体も激しく息をついていた。

ずるりと抜き取ると、たっぷり白い物が入ったゴムを始末する。

お互い精液に塗れた前をゆるゆると擦り付けてみた。
イったばかりで、ジリジリと痺れる。

「うふふふ、エロいね。男との経験あったんだ」
「初めて。出来てびっくり。上手く出来た?」
「そうなんだ。全然そんな感じしなかった。とっても良かった」
合格貰いました!

2回戦いいかな?
ガッツいたら次が無いかも?
「もう1回する?」
いや、ココは次に繋げるか。
「んー」
そばにタオルが置いてあった。
使っていいのかな?
手を伸ばしたら、良かったようだ。
お互いを拭くと、唇を合わせた。
しっかり口内を堪能して、糸を引きながら離れた。唇を舐めると、名残惜しく糸が切れた。
もっと……。
ダメだ。やっぱ止まらない。
あ!

上着を引き寄せて、3点セットを出す。
振り出すと、一本咥え、久々の煙草に火を点けた。
酒の繊細な味が判らなくなるからと辞めてから随分なる。
深く吸い込むのは危険だ。咽せる。
素早く吐き出す。

登る紫煙を彼が眺めてる。
口の中に苦味が広がる。
思った通り、止めれそうだ。

コンビニで仕入れた携帯灰皿に押し込む。

「帰るわ」

チュっとキスすると、思った通り渋い顔をする。
コレで彼からもキスされる事は無い。
店で喫煙席から離れてたから、多分嫌いなんだろうと思ってたが。

前に客に喫煙は喫煙席でと言ったら、いい機会だから辞めると、懐の煙草の処分を依頼されたのだ。
そうは言っても、やっぱ辞めるのを辞めるとなって、あれどうなった?って聞かれる事もあるので暫く保管してあるが、引き取りがないまま保管期間が過ぎたのを今日使わせて貰った。

「また連絡くれよ」
脱ぎ散らかった服を拾いながら、身に着けていく。
肩甲骨の動きがと前言ってたから、見てるのだろう。視線を感じる。

シェイカーを振り続けてた結果がこの筋肉だ。
気に入って貰って嬉しい。

手櫛で髪を整えると振り返る。
縋るように見られて、帰りにくい。

「連絡するから、絶対来てよ」
「分かった」
「絶対だよ」
「うん。絶対」

思いっきり後ろ髪を引かれながらなんとか帰った。

絶対……。
縛ってくるな。
逃げれないか。上等じゃないか。逃げる気なんて更々ない。なんなら逃げれないように縛りたい。


◇◇◇◇


あれから、付き合いは続いているのだが、男漁りは止まらないようだ。
頻度は減ったのか?
ま、危ないのは変わらないが。

その男漁りを俺が知ってるこの状況は、彼が起こしてる事で何が目的なのか分からん。

店を閉めようかという頃合いにふらっと現れる時は、男たちのあれこれを聞かされる。
酒を作りながら、片付けながら、話を延々と聞かされる。
恋人じゃない。
セフレだしな。
止める権利はない。無いのだが……。

コレを聞かされて俺はどうしたらいいんだ。
嫉妬と怒りでどうにかなりそうだ。
それをセックスにぶつけられてるって分かってるんだろうか?

俺は基本甘やかしてやりたいんだよ。

もしかして、意地の悪い焦らしやアレコレを期待して聞かせにくるのか?
分からん!

もう! ハッキリ自覚してるんだよ、俺は!
俺は、お前が好き過ぎて、どうしようもないところにいる。

事後だけに吸う煙草も、もう辞めたい。
なのに、「煙草辞めない?」って簡単に言ってくれるなよ。
俺の覚悟が揺らぐ。


◇◇◇


ココ暫く、連絡がない。
こんな開いたのは初めてか?

また他の男とどっかにしけ込んでるのか?
それで、あいつの気が抑えられるならいいのだが、変な奴に捕まってないか?




閉店の準備をしてると、コロロンとドアベルが鳴った。

見ると、彼だった。
大変お疲れの様だ。

「どうした?」
ぶっきら棒な物言いになってしまった。
もう何もかもが心と裏腹だよ。

closeの札を出す。

「えー、そこはお久しぶりとか、会いたかったよとかないの?」
そうだよな。
なんなら、抱きしめたいぞ。

「で?」
「あー、もう! 引越したの! 大変だったよ。どこで足つくか分かんないから、一旦、ビジネスホテルとか点々としちゃった」
ん???
また、なんなんだ????

「足?」
「やばい奴に当たってさ。知り合いだったから。家知ってるし。逃げた方がいいなって、引っ越そうと思って、近所の不動産回ってたら、居たんだわ。
貼り出してるの見てたら、後ろ立っててさ。『引越しするの? またしたいから先教えてね』って、怖すぎるだろ?」

「それは怖いな……」
ほぼ上の空で、相槌を打つながら、頭の中を整理していた。

どうやら知り合いと致して、不味い相手だった。
そいつから逃げるつもりで、物件探ししてたら、そいつがなんの伝手かで、嗅ぎつけてきたと。
ーーーんん??!
そいつ不味い通り越してないか?!

「オレも繋がりそこそこある訳よ。それは壊したく無いから。あっちこっち根回しして、物件はネットで探して、なるべく自宅には帰らないで」

フレーバーウォーターを出すと、一気に飲んだ。
グッとグラスを出して、おかわり要求。

「でも、物件見るには外出るじゃん。もう疲れた。荷物も一旦トランクルームとかに入れて移動させてさ。基本、オレは相棒と楽譜が有れば、あとはどうでもいいから。処分したり」
グビっと飲むと、やっと落ち着いたといった感じで、ほっとした表情が出てきた。
「今の新居シンプル過ぎて笑えるんだわ。ーーーボニーちゃん作って」

反省はしないのかーーーッ!

黙ってカクテルを作る。

スッと『ボニー・スコット』を出す。

「やっと、飲めるぅ」
嬉しそうに飲んでる。
作り手としては、嬉しいのだが。

だが……。

テーブル席の椅子を片付けて回りながら、ふと思いついた事が口をついて出た。

「俺のとこに来ても良かったのに」
思わずだ。
口が滑った。

前に一緒に住まないか?みたいな話があったが、俺は自分を自制できる自信がなくて答えられなかったのに。

「えー、早く言ってよぉ~」
「連絡切って、引越ししてるのお前だろ?」
「あ~、そっだねー」
反省無いな。欠片も無い。
どうしたものか……。

「疲れすぎたから、マスターに癒されたいんだけど」
「疲れたんなら、帰って寝ろ」
カウンターテーブルを拭く。
もう片付けは粗方終わった。
「ぶぅー」
口を尖らせて、不貞腐れてる
「あんたとのキス好きなんだけど、ーーーして?」
小首を傾げてニッコリ。

『呼んだら絶対来て』か……。

そばに立つ。
ちょっと屈んで唇を合わせる。
初めは、上と下をと交互に喰みながら、チュチュと戯れなキスをする。
徐々に中へ侵入していく。
久しぶりに口内を堪能する。
キスだけは、めちゃくちゃ甘やかしてる、つもり。
実は俺自身が甘やかされてるだけどね。

ん? 舌が積極的に絡んでくる。
待て待て! 腰にクル。
舌裏擦り上げんな。根元突くな。

ああ、もう!

角度を変えて、上顎を撫でながら、奥から舌を絡めてこちらに吸い上げるように引き込む。
甘噛みして舌を合わせて互いの感触を感じてから、ゆるゆると押し返して、チュとリップ音をさせて離れた。

やば、勃ったかも。
手の甲で口を拭く。

呆けっと見てる。

「どうした?」

「癒された」

「それは良かったな」

カクテルグラスを摘むと、残ったカクテルを飲み干した。

グラスを片付けるか。

カクテルグラスを洗ってると、横からの視線が痛い。
カウンターで肘をついて組んだ手の上に顎を乗せて、じっと見てくる。
どうしたんだ?

「ねぇ、オレさ、マスターの事、好きかもって言ったらどうする?」

何を言った?!

首が取れるかって勢いで振り向いた。

歓喜の鐘の音が聞こえる。

「どうも、こうも……」

鐘じゃないな。俺の心臓の音だ!

こめかみが波打つぐらいドクドクと打ってる。

カウンターを出て、彼のそばに立つまで、言葉が溢れて、詰まって、何もかも出てこない。
無言で引き寄せると唇を塞いだ。

長く、長く唇だけを合わせて、唇の感触だけを味わった。
離れて、目を見つめて、やっと、絞り出して、言った。

「好きだ。俺だけの人になってくれ」

じっと見つめ返してる瞳が、店の暗い灯りに光ってる。
「うん」
ぽすんと彼が胸に顔を埋めてきた。

優しく想いを込めて抱きしめる。
服が湿ってきた。
また泣いてるのか。

俺も泣きそう……。


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