16 / 17
第16話 マーベルス侯爵
しおりを挟む
昨日の夕方、マーベルス町に到着して、使いを侯爵邸の領主館へと出してあった。
なんでも今朝朝食後から会いたいとさっそく連絡があった。
ここまで乗ってきた馬車に再び乗って、町の中心にある領主館まで向かう。
通りは広く、また石畳が整備されていて綺麗に整えてある。
かなりの財力があるようだった。
俺の前世と比べてもかなり栄えているようだ。
堀を橋で超えて、領主館の敷地へと入っていく。
その門のところで一度、顔を確認される。
「ゴブリン……ですね、はい。通っていいですよ」
話はちゃんと通っているらしい。
馬車の窓から顔を出して、ニコニコしておく。
ゴブリンも笑えば笑顔になる。ちょっと怖いけど。
そうして控室へと通してもらい、すぐに謁見になった。
謁見とはいっても、いわゆる玉座による対面式ではなく、応接室で行われることになっていた。
先に部屋に通されて待つ。
「マーベルス侯爵がお会いになります」
執事が入ってきて定番の台詞を言う。
俺たちは立ち上がって、部屋に入ってくるのをじっと待つ。
すぐに足音が聞こえてきて、部屋へと入ってくる。
「ようこそ、マーベルスへ。わざわざすまないね」
「あ、どうもどうも」
「ゴブリン、なんだね。本当に」
「あ、はい」
「えっと辺境の村シャーリア村のさらに先に住んでいるとか?」
「そうです。エルヘレス森の中腹にある崖の洞窟に住んでおります」
「なるほど。やっぱり原住民みたいな生活を?」
「それが、最近、交易をはじめたので、ちょっと人間臭くなってきました」
「あははは、人間臭いとは、ゴブリンなのだろう?」
「もちろんです」
「申し遅れました。エルヘレス森ルフガル洞窟のベダの息子、長のドルと申します」
「アーノルド・マーベルス侯爵という」
とまあ雑談は進んでいく。
「お土産をお持ちしています」
「確認を」
「はい」
執事さんが回収していく。
「製塩を一袋。スパイダーシルク一着分相当ですかな。それから宝石、あと魔石ですね」
「ふむ。高価な物ばかりだが」
「はい。せっかくのお土産なので」
「それは有難いが」
「ゴブリンの生活にはほとんど使わないものばかりなので」
「なるほど」
「魔石はオークの魔石がひとつございます」
「オークは中級の魔物だが、ゴブリンが?」
「はい。手負いでしたので仕留めたと聞いております」
「そうか。しかしゴブリンがオークを倒すのか、ふむ」
戦力として見ているのだろうか。
それとも俺たちが人間を襲うとしたらという考えだろうか。
少し緊張するが、顔は笑っているので、大丈夫だろう。
ただ好奇心が強いという話は本当のようだ。
「オークは一匹だったそうで、そこを複数のゴブリンの集団で倒せば、犠牲は出ますが、倒せないことはないかと」
「そうか」
「それに加え、今は人間製の防具、槍などを装備しており、当時よりみな強くなっています」
「そうかそうか」
領主様はちょっと嬉しそうに笑う。
「街道を通ってきたと思うが、実は途中でオークの被害はたびたび起きていてな」
「そうなのですか」
「そうだ。ゴブリンでも倒せるというのは、人間にとってはいい話だ」
「私たちの共通の敵ですからね」
「そうだな」
なぜかオークも豚人族という亜人にカウントされるものの、人間を特に嫌っている。
そういう宗教観というかそういうものとしかいいようがない。
人間と一緒に暮らせるビジョンが浮かばないのがオークというものだった。
一方、ゴブリンは奴隷ではあるものの、人間と共存しているともいえる。
「実は、ゴブリン村の戦士が五名、最近も謎の死を迎えていて、どうもオークの犠牲になったのではと考えています」
「そうか、やはり」
「はい。オークは強暴ですし、私たちの敵です。お肉は美味しいんですけどね」
「そうだな」
そういえば人間やゴブリンはオークを食べる。
そりゃ嫌われても当然かもしれない。
食べ物と共存は難しい話だ。
一方、ゴブリンは不味いらしい。
ゴブリン自身もオークも人間も、ゴブリンは食べない。
オオカミはゴブリンも食べるようだが、何が違うのかは分からない。
「お土産はいただいた。よくきてくれた」
「ははっ」
「ルフガル洞窟のベダの息子、ドル。そなたをナイトに任命する。ゴブリン村の長として今後も励むように」
「有難き、幸せでございます」
「ゴブリンがオーラル王国の騎士爵以上に任命された例はこれがはじめてのはずだ」
「さようですか」
「ああ。我々はルフガルのゴブリンと同盟を組む。お互い良い関係を築こうじゃないか」
「はい、そうしたいです」
「規則があってややこしいのだが、税金はお土産の代金で賄うので今年は免除とする」
「はい」
「それで申し訳ないのだが、五名ほど戦士を戦力として出す必要がある。勤務地はデデム町だな」
「わかりました」
「五名でも出費だが、よろしく頼む」
そうか徴兵ではないけれど、常備軍の戦力としてカウントされるのね。
まあ国の一部に組み込まれるということはそういうことなのだろう。
五名ならなんとか出せない規模ではない。
こうして俺たちは国の一部として認められ、その傘下に入ることになった。
ゴブリンの奴隷狩りからも名目上だけど保護されることになった。
これにて俺たちに討伐隊が出るということはなくなったのだ。
また来た道を戻ってゴブリン村まで帰って行った。
ちなみに騎士爵のナイトだけは各領主の権限で与えることができる。
しかし騎士爵という名前には反して爵位にカウントされない。
男子伯侯公爵の五爵は国王の専任事項となっている。
いつかはゴブリンの貴族なんてなってみたいかもしれない、などと思っていたが、実際に村長レベルのナイトになると、何だか複雑な思いだ。
辺境も辺境の男爵とかもやってみたい。
「ゴブリン男爵」
その語感が何だか面白くて、何回か反芻してみる。
今はナイトで世襲もない。
正式な貴族「ゴブリン男爵」そういうのも、悪くはないかもしれない。
なんでも今朝朝食後から会いたいとさっそく連絡があった。
ここまで乗ってきた馬車に再び乗って、町の中心にある領主館まで向かう。
通りは広く、また石畳が整備されていて綺麗に整えてある。
かなりの財力があるようだった。
俺の前世と比べてもかなり栄えているようだ。
堀を橋で超えて、領主館の敷地へと入っていく。
その門のところで一度、顔を確認される。
「ゴブリン……ですね、はい。通っていいですよ」
話はちゃんと通っているらしい。
馬車の窓から顔を出して、ニコニコしておく。
ゴブリンも笑えば笑顔になる。ちょっと怖いけど。
そうして控室へと通してもらい、すぐに謁見になった。
謁見とはいっても、いわゆる玉座による対面式ではなく、応接室で行われることになっていた。
先に部屋に通されて待つ。
「マーベルス侯爵がお会いになります」
執事が入ってきて定番の台詞を言う。
俺たちは立ち上がって、部屋に入ってくるのをじっと待つ。
すぐに足音が聞こえてきて、部屋へと入ってくる。
「ようこそ、マーベルスへ。わざわざすまないね」
「あ、どうもどうも」
「ゴブリン、なんだね。本当に」
「あ、はい」
「えっと辺境の村シャーリア村のさらに先に住んでいるとか?」
「そうです。エルヘレス森の中腹にある崖の洞窟に住んでおります」
「なるほど。やっぱり原住民みたいな生活を?」
「それが、最近、交易をはじめたので、ちょっと人間臭くなってきました」
「あははは、人間臭いとは、ゴブリンなのだろう?」
「もちろんです」
「申し遅れました。エルヘレス森ルフガル洞窟のベダの息子、長のドルと申します」
「アーノルド・マーベルス侯爵という」
とまあ雑談は進んでいく。
「お土産をお持ちしています」
「確認を」
「はい」
執事さんが回収していく。
「製塩を一袋。スパイダーシルク一着分相当ですかな。それから宝石、あと魔石ですね」
「ふむ。高価な物ばかりだが」
「はい。せっかくのお土産なので」
「それは有難いが」
「ゴブリンの生活にはほとんど使わないものばかりなので」
「なるほど」
「魔石はオークの魔石がひとつございます」
「オークは中級の魔物だが、ゴブリンが?」
「はい。手負いでしたので仕留めたと聞いております」
「そうか。しかしゴブリンがオークを倒すのか、ふむ」
戦力として見ているのだろうか。
それとも俺たちが人間を襲うとしたらという考えだろうか。
少し緊張するが、顔は笑っているので、大丈夫だろう。
ただ好奇心が強いという話は本当のようだ。
「オークは一匹だったそうで、そこを複数のゴブリンの集団で倒せば、犠牲は出ますが、倒せないことはないかと」
「そうか」
「それに加え、今は人間製の防具、槍などを装備しており、当時よりみな強くなっています」
「そうかそうか」
領主様はちょっと嬉しそうに笑う。
「街道を通ってきたと思うが、実は途中でオークの被害はたびたび起きていてな」
「そうなのですか」
「そうだ。ゴブリンでも倒せるというのは、人間にとってはいい話だ」
「私たちの共通の敵ですからね」
「そうだな」
なぜかオークも豚人族という亜人にカウントされるものの、人間を特に嫌っている。
そういう宗教観というかそういうものとしかいいようがない。
人間と一緒に暮らせるビジョンが浮かばないのがオークというものだった。
一方、ゴブリンは奴隷ではあるものの、人間と共存しているともいえる。
「実は、ゴブリン村の戦士が五名、最近も謎の死を迎えていて、どうもオークの犠牲になったのではと考えています」
「そうか、やはり」
「はい。オークは強暴ですし、私たちの敵です。お肉は美味しいんですけどね」
「そうだな」
そういえば人間やゴブリンはオークを食べる。
そりゃ嫌われても当然かもしれない。
食べ物と共存は難しい話だ。
一方、ゴブリンは不味いらしい。
ゴブリン自身もオークも人間も、ゴブリンは食べない。
オオカミはゴブリンも食べるようだが、何が違うのかは分からない。
「お土産はいただいた。よくきてくれた」
「ははっ」
「ルフガル洞窟のベダの息子、ドル。そなたをナイトに任命する。ゴブリン村の長として今後も励むように」
「有難き、幸せでございます」
「ゴブリンがオーラル王国の騎士爵以上に任命された例はこれがはじめてのはずだ」
「さようですか」
「ああ。我々はルフガルのゴブリンと同盟を組む。お互い良い関係を築こうじゃないか」
「はい、そうしたいです」
「規則があってややこしいのだが、税金はお土産の代金で賄うので今年は免除とする」
「はい」
「それで申し訳ないのだが、五名ほど戦士を戦力として出す必要がある。勤務地はデデム町だな」
「わかりました」
「五名でも出費だが、よろしく頼む」
そうか徴兵ではないけれど、常備軍の戦力としてカウントされるのね。
まあ国の一部に組み込まれるということはそういうことなのだろう。
五名ならなんとか出せない規模ではない。
こうして俺たちは国の一部として認められ、その傘下に入ることになった。
ゴブリンの奴隷狩りからも名目上だけど保護されることになった。
これにて俺たちに討伐隊が出るということはなくなったのだ。
また来た道を戻ってゴブリン村まで帰って行った。
ちなみに騎士爵のナイトだけは各領主の権限で与えることができる。
しかし騎士爵という名前には反して爵位にカウントされない。
男子伯侯公爵の五爵は国王の専任事項となっている。
いつかはゴブリンの貴族なんてなってみたいかもしれない、などと思っていたが、実際に村長レベルのナイトになると、何だか複雑な思いだ。
辺境も辺境の男爵とかもやってみたい。
「ゴブリン男爵」
その語感が何だか面白くて、何回か反芻してみる。
今はナイトで世襲もない。
正式な貴族「ゴブリン男爵」そういうのも、悪くはないかもしれない。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる