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イフリートの鎧編
天国と地獄
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蒼雲の空に黒々しい曇天が垂れ込む。
岩を砕くような雷鳴の轟きに大輔の意識は覚醒した。
「っ!」
起き上がると吐き気と頭痛に襲われた。昨日は飲みすぎたのだろうか、それで酔っぱらったままここで....
とにかく雨を凌げる場所を探さないと。今にも降りだしそうだ。
周りをキョロキョロと見渡すが、辺り一面草木が生い茂っているだけで雨宿りなんてできそうにない。
そうこうしているうちに雨が降りだした。
「参ったな.... 」
このままではずぶ濡れだ。
仕方ない。ここを突っ切ってコンビニでも探そう。
なに酔っぱらいの足取りだ。ここは公園の何処かなんだろう。
数分も歩けば道に出られる。
「あ.... そういえば今何時なんだ? もしかして昼過ぎとか」
サァーと血の気が引いていく。それは洒落にならない! 酔っぱらって会社に遅刻なんて笑い者にもならない。
大輔は慌ててポケットに手を突っ込み、昔ながらのガラケーを探す。
スーツのポケットにはない。ということはズボンのポケットか。
果たして固い感触がしそれを取り出す。しかしそれは携帯ではなく、四角の黒い箱だった。
頭が真っ白になった。雨音がやけに五月蝿く聞こえる。
自分でもわけがわからず呼吸が荒くなっていき、膝から崩れ落ちた。
空が光り雷鳴が轟く。
「そ、そうだ.... 俺は」
何が飲みすぎただ。何が会社に遅刻だ。そんなことよりもっと大事なことがあるだろ!
「蓮奈!!」
箱を痛いくらい握りしめ、大輔は走り出す。何処に向かえば辿り着くのかそれはわからない。それでも
「俺はアイツを待たせてるんだ! たまには高級なレストランで飲もうって。七時に予約だって取った」
己に叱咤するように大輔は叫ぶ。そうすることで四十の体力でも走り続けれそうな気がしたのだ。
「そこでこの箱をポケットから取り出しーー グゥゥ!」
ぬかるんだ道に足をとられ、転倒する。箱だけは守ろうと両手に被い、顔面ごと倒れ落ちた。
スーツが泥だらけになる。口に泥が入ってジャリジャリと不快な感触がする。顔面を強打して悶えそうなほど痛い。
しかし蓮奈を大事な人を待たせていることが何よりも不快で痛くて苦しかった。
「俺.... 何やってんだ」
あの時、線路に落ちようとしたワンピースの彼女を助けようとしなければこんなことには。
「そもそもここはどこなんだ」
彼女に引っ張られ、線路へと俺も落ちた。そして電車が迫って。
『一緒に逝きましょ』
「うっっ.... オェ!」
ねっとりと脳内にこびりつく声を思いだし、大輔はその場に吐瀉した。
一度吐いても楽になれず、二度目も吐く。原形をとどめない卵焼きにポテトサラダ。どれも昼に食べた弁当のおかずだった。
「はぁはぁ.... つまりここはあの世なのか」
だらしなく垂れる涎を手で拭い、泥にまみれた体を払いながら起きる。
ここは天国なのかそれとも地獄なのか。いや例え天国だとしても今は地獄と同じか。
「これからどうする」
一旦黒い箱を仕舞おうとポケットに入れようとすると、コツンと固い物に当たった。
「そうか携帯だ!」
焦る気持ちを押さえれず、慌てて防水機能をもつ携帯を取り出す。
「.... やっぱり駄目か」
何となく予感はしていたが、電波は圏外。ネットも電話もできない。
つかえるのは録音とカメラ機能だけだ。
落胆したまま他にも何かないかとポケットを探る。
出てきたのは懐にしまった所持金十万とキャッシュが入った財布。煙草のケースとライターのみ。
この中で蓮奈に連絡が取れそうな物は何一つとしてなかった。
もう全身濡れて泥だらけだ。躊躇うことなく大輔はその場に座り込む。
煙草のケースは先程の衝撃で潰れ湿っていたが、肝心の煙草は乾いていた。
大輔は煙草を口に加え、ライターを雨から守るように手傘で被い火をつける。
白い煙をふぅーと吐き、空を見上げれば、強い雨脚も弱まってきていた。じきに晴れるのだろう。
晴れたら神様を探そう閻魔さまでもいい。そして土下座でもなんでもして一度だけ甦らせてもらって。
「蓮奈に謝ろう」
どう謝ればいいのかわからない。彼女の事だからとても激怒するだろう。
それでも謝るしか道はない。
気づけば大輔の頬に熱い雨が流れていた。
雨が温かいなんて変わってる。自嘲気味に笑い大輔は手の甲で目元を拭った。
岩を砕くような雷鳴の轟きに大輔の意識は覚醒した。
「っ!」
起き上がると吐き気と頭痛に襲われた。昨日は飲みすぎたのだろうか、それで酔っぱらったままここで....
とにかく雨を凌げる場所を探さないと。今にも降りだしそうだ。
周りをキョロキョロと見渡すが、辺り一面草木が生い茂っているだけで雨宿りなんてできそうにない。
そうこうしているうちに雨が降りだした。
「参ったな.... 」
このままではずぶ濡れだ。
仕方ない。ここを突っ切ってコンビニでも探そう。
なに酔っぱらいの足取りだ。ここは公園の何処かなんだろう。
数分も歩けば道に出られる。
「あ.... そういえば今何時なんだ? もしかして昼過ぎとか」
サァーと血の気が引いていく。それは洒落にならない! 酔っぱらって会社に遅刻なんて笑い者にもならない。
大輔は慌ててポケットに手を突っ込み、昔ながらのガラケーを探す。
スーツのポケットにはない。ということはズボンのポケットか。
果たして固い感触がしそれを取り出す。しかしそれは携帯ではなく、四角の黒い箱だった。
頭が真っ白になった。雨音がやけに五月蝿く聞こえる。
自分でもわけがわからず呼吸が荒くなっていき、膝から崩れ落ちた。
空が光り雷鳴が轟く。
「そ、そうだ.... 俺は」
何が飲みすぎただ。何が会社に遅刻だ。そんなことよりもっと大事なことがあるだろ!
「蓮奈!!」
箱を痛いくらい握りしめ、大輔は走り出す。何処に向かえば辿り着くのかそれはわからない。それでも
「俺はアイツを待たせてるんだ! たまには高級なレストランで飲もうって。七時に予約だって取った」
己に叱咤するように大輔は叫ぶ。そうすることで四十の体力でも走り続けれそうな気がしたのだ。
「そこでこの箱をポケットから取り出しーー グゥゥ!」
ぬかるんだ道に足をとられ、転倒する。箱だけは守ろうと両手に被い、顔面ごと倒れ落ちた。
スーツが泥だらけになる。口に泥が入ってジャリジャリと不快な感触がする。顔面を強打して悶えそうなほど痛い。
しかし蓮奈を大事な人を待たせていることが何よりも不快で痛くて苦しかった。
「俺.... 何やってんだ」
あの時、線路に落ちようとしたワンピースの彼女を助けようとしなければこんなことには。
「そもそもここはどこなんだ」
彼女に引っ張られ、線路へと俺も落ちた。そして電車が迫って。
『一緒に逝きましょ』
「うっっ.... オェ!」
ねっとりと脳内にこびりつく声を思いだし、大輔はその場に吐瀉した。
一度吐いても楽になれず、二度目も吐く。原形をとどめない卵焼きにポテトサラダ。どれも昼に食べた弁当のおかずだった。
「はぁはぁ.... つまりここはあの世なのか」
だらしなく垂れる涎を手で拭い、泥にまみれた体を払いながら起きる。
ここは天国なのかそれとも地獄なのか。いや例え天国だとしても今は地獄と同じか。
「これからどうする」
一旦黒い箱を仕舞おうとポケットに入れようとすると、コツンと固い物に当たった。
「そうか携帯だ!」
焦る気持ちを押さえれず、慌てて防水機能をもつ携帯を取り出す。
「.... やっぱり駄目か」
何となく予感はしていたが、電波は圏外。ネットも電話もできない。
つかえるのは録音とカメラ機能だけだ。
落胆したまま他にも何かないかとポケットを探る。
出てきたのは懐にしまった所持金十万とキャッシュが入った財布。煙草のケースとライターのみ。
この中で蓮奈に連絡が取れそうな物は何一つとしてなかった。
もう全身濡れて泥だらけだ。躊躇うことなく大輔はその場に座り込む。
煙草のケースは先程の衝撃で潰れ湿っていたが、肝心の煙草は乾いていた。
大輔は煙草を口に加え、ライターを雨から守るように手傘で被い火をつける。
白い煙をふぅーと吐き、空を見上げれば、強い雨脚も弱まってきていた。じきに晴れるのだろう。
晴れたら神様を探そう閻魔さまでもいい。そして土下座でもなんでもして一度だけ甦らせてもらって。
「蓮奈に謝ろう」
どう謝ればいいのかわからない。彼女の事だからとても激怒するだろう。
それでも謝るしか道はない。
気づけば大輔の頬に熱い雨が流れていた。
雨が温かいなんて変わってる。自嘲気味に笑い大輔は手の甲で目元を拭った。
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