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episode.7

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「えっと、総監様?これは一体……」
「黙ってろ」
「はい……」

シルヴィは引きずられながらやって来たのは執務室。
アルベールはシルヴィの襟首を離すと黙ったまま机に向かい溜まった書類に目を通し始めたのだ。
戸惑ったシルヴィは意を決して問いかけてきたがギロッと睨まれ逃げ場を完全に失い、小さく体を縮めて長椅子に座った。

チラッと横を見れば真剣な表情で書類に目を通すイケメンインテリ眼鏡様。
そこで気づいてしまった。

逆に言えばこの状況は好機じゃない!?
文句を言われず推しの姿を拝めるだけではなく、この部屋には私と総監様の二人きり………………ん?

(二人きり!!!!???)

更に気づいてしまった。

さて、問題です。世間一般の女子の場合ではこういう場合どうするか。
大半は顔を染め困った感じを装いながら内心歓喜しつつ、ここぞとばかりに自分を意識してもらうとアプローチ仕掛けるだろう。

一方、一般女子枠では無いシルヴィの場合。

「総~~監~~様~~~~」
「ん?──うわぁぁぁ!!」

机の端からゆっくりと顔を覗かせたシルヴィに驚いたアルベールはガタガタッ!!と大きな音を立てて椅子から飛び上がった。

「な、なんだ!?」

バクバクと波打つ心臓を落ち着かせつつ問いかけるが、普段からは想像もつかない神妙な顔をして自分を見つめてくるシルヴィに只事ではないと感じていた。

「どうした?何かあったのか?」
「ええ…………ちょっと気づいてしまったんです。この状況はまずいんではないかと」

まさかシルヴィの口から自分を拒否させるような言葉を聞くとは思いもせずアルベールは漠然とした。

いや、本人の意思も確認せず連れ込んだ私の責任だ。なぜ大丈夫だと思ったのだろう。自意識過剰にもほどがある……

今更になって自分の行動に後悔した。……が、そんな気持ちもすぐに吹き飛ぶ。

「あの、この状況はお金を払った方がいいですか!?流石に私一人で総監様を拝むなんてタダでは申し訳ないですし……持ち合わせで足りればいいんですが……なにせ我が家は貧乏でして……」
「なに?」
「えっ!?足りませんか!?」

シルヴィがポケットから今持っているだけの小銭を取り出し、机の上に広ろげた。

まさかこの状況を言及するのではなく金を払うと言いだすとは……

不意を突かれたアルベールがシルヴィの顔を改めて見ると、至って真剣な顔付きで金が足りなくてどうしようか悩んでいる様だった。

そんなシルヴィにアルベールは堪らず噴き出した。

「……くっ……くくく……あはははははは!!本当に変わっているな君は!!」

腹を抱えて笑うアルベールに、貴重なものが見れたと歓喜するシルヴィ。

しばらく笑ったところでアルベールがフーと息を吐いた。

「金は必要ない」
「えっ!?タダでこんな特別ご褒美みたいな空間に居ていいんですか!?」
「ああ、連れてきたのは私だ。君がそんなに気にするのなら、この紙の束の整理でも頼もうか?」
「喜んで!!」

満面の笑みを浮かべたシルヴィは早速、机の上の書類整理を始めた。
テキパキと手際よく捌いていくシルヴィをアルベールは暖かい目で見つめているが、その視線に当のシルヴィは気づかない。

シルヴィ・ベルナールは初対面の時から変わった女だったな……



◈◈◈



アルベールは綺麗な面持ちとは裏腹に感情が出にくく口調もきつい為、周囲から恐れられていると言うことは自身でも知っていた。
別にそれは気にしていないし、自分が変わるつもりもない。
余計な邪魔は入らないし調合や研究に没頭できるので、むしろ好都合だと思っていた。

そんな時やって来たのがシルヴィだ。

「インテリ眼鏡とかここは天国か?」

初対面でそんな訳の分からない事を呟き、夜勤明けの自分には誰も声を掛けることはおろか、傍に寄ってくることもなかったのに初対面のシルヴィはアルベールが引くほど食い付いてきた。

(何だこの女は!?)

第一印象はまさにそれ。

そしてこの日を境にアルベールの日常は一変した。

「総監様~!!」
「今日も尊いですね!!」
「はぁぁ~……総監様のお顔を見てればご飯三杯はいけます!!」

何度冷たくあしらっても堪えることなく、すぐに傍に寄ってくるシルヴィをアルベールはうんざりしていた。
眼鏡を外せば済むことなのだろうが、眼鏡がなければ仕事にならない。

溜息を吐く回数が増える一方で、軍医部の雰囲気が変わっている事にも気づいていた。

それは奇しくもシルヴィが来てからだ。
暗かった施設の中は照明を変えていないのに、明るく感じる様になり、今まで笑い声などなかったのに扉を開ければ大きな笑い声に包まれる。

「あっ!!総監様!!」

入ってきたアルベールに気づくと誰よりも先にシルヴィが笑顔で声を掛けてくれる。
その笑顔にアルベールが眉間に皺を寄せ応える。

それがいつの間にかアルベールの日常になっていた。

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