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6話

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「ま、魔王様!?……と、ゾイさん?」
「おお~、おったおった。サキ、無事か?」

魔王の影からゾイが咲の安否を確認するように出てきた。
まさか魔王が来てくれるとは思いもしなかった咲は驚いて開いた口が塞がらなくなっていた。

魔王は咲の姿を見てホッとした様子だったが、すぐ後ろにいるフレデリックに気づき眉をしかめた。
それはフレデリックも同じだ。

「……なるほど、サキ様は魔王に囚われているのですね」

フレデリックは咲を背に庇いながら魔王を睨みつけている。
うん。完全なる誤解がここに生まれた。

「ほお?おかしなことを言う人間だな……もしそうだと言ったらどうすると言うのだ?」
「決まってる。サキ様は私が人間界へと連れ帰る」

腰に付けていた剣を抜き、魔王に突きつけた。
もう咲の顔は真っ青を通り越して色が抜け落ちている。

「いや……あの、フレデリックさん、ごかぃ──……」

このままだとまずいと思った咲が慌ててフレデリックの服を掴み止めようとしたが、掴んでいる手を優しく包み返され哀れみの表情を向けられた。

「安心してください。私の命に代えてもお守りします」

なんて宣言した。

(そんな代わられた命なんていらないぃぃ!!)

自分の命を大切にしてくれ!!と叫びたかったが、アドレナリン全開のフレデリックが聞いてくれるはずがない。

「聖女であるサキ様は私が護る!!」
「…………なに?」

『聖女』という言葉を聞いて魔王の雰囲気が変わった。

おいおいおいおいおいおいおい!!!話が余計こじれるから黙ってもらっていいですか!?いや、本当、お願い!!

咲が切実に願うがその願いが叶う事はなかった。むしろ悪化した……

「貴様ら魔族は聖女であるサキ様を人間界に引き渡すどころか、こんな薄気味悪い森に装備無しで置き去りにするとは……」

フレデリックは自分が言った言葉に感極まって、目頭を押えながら空想を話し出した。
魔王はその話に耳を傾けているが時折、こめかみがピクッと跳ねるのがとても心臓に悪い。

「なるほど……──だが、そこの人間が聖女だと何故分かる?ただの人間の小娘ではないか」

最後まで聞き終えた魔王が、フレデリックに問いかけた。

「分かるさ。瀕死の私を見事に治してくれた。あの様な酷い傷を治せるのは聖女以外いない!!」

ビシッと言い切ったフレデリックの言葉に、魔王は今までに無いほど眉間にシワを寄せた。

「ほお……?」

不気味な微笑みを向けられたもんだから尚更怖い。
いっその事、怒鳴ってくれる方が幾分かいい。

咲は全身から嫌な汗が吹き出しながらも、正座で自分の行く末を見届けていた。

「とにかく!!サキ様は私が連れて行く!!」
「えっ!?──おわぁ!!!」

フレデリックは咲の返答を待たずに、その体を抱き上げ担ぎあげた。

「貴様の言い分は分かった。──だが、は俺のだ。返してもらう」
「は?」

咲が言葉を発するが早いか、いつの間にか咲は魔王の腕の中にいた。
あまりの出来事に頭がついていかない咲だったが、一つだけハッキリしていたのは心地よい安心感だった。

「貴様!!この期に及んでまだサキ様を屈辱する気か!?」
「屈辱?何馬鹿なことを言ってる。こいつは俺のものペットだと言っているだろ」

フレデリックは咲を取り返そうと奮起したが、魔王がそれを軽くあしらっている。

咲は咲で、魔王が直々に助けに来てくれたからてっきり仲間だと認めてくれたと思っていたが、愛玩動物ペット枠からは脱していない事に落ち込んだ。

「お前と話していても埒があかん。俺らは帰る。後は好きにしろ」

いい加減痺れを切らした魔王が咲を腕に抱いたまま踵を返すと「待て!!」と当然の如く引き止める声が聞こえたが、気にすること無く歩み進めた。

フレデリックは見えない壁に阻まれ、こちらに来れない様だった。

「あ、あの、魔王様?私、歩けますけど!?」

しばらくして我に返った咲が離せと訴えるが、魔王はそれを一喝した。

「黙ってろ」
「──ッ!!」

凍てつくような冷たい目付きにヒュッと息を飲んだ。

「悪い事は言わん。今は大人しゅうしとき」

ゾイにそう進言され、触らぬ魔王に祟りなしという事で、大人しく抱かれたまま城へと戻ることになった。



◈◈◈◈



「──それで?私は日暮れまでに戻るよう言いつけてありましたよね?」
「はい……」
「では今は幾時でしょうね……?」

城へ戻ってきた途端、レザゼルからの詰問が待っていた。
この人は魔王と違った恐ろしさを持っている。
魔王は物理的に攻撃をしてくるが、この人は笑顔で相手の精神を抉っていく。

(元はと言えば、あのナンパ野郎のせいだし……)

「サキさん?……貴方、この期に及んで考え事ですか?随分と余裕があるようですね?」
「いえいえいえいえ!!!とんでもございません!!!」

顔は笑っているのに目が据わってるレザゼルに詰め寄られ、咲は慌てて謝り倒した。

「レザゼル。その辺にしとけ。そいつにはまだ聞きたいことがある」
「そうですか?これからが楽しくなるところでしたのに……」

見るに見兼ねた魔王が止めに入ってくれたが、レザゼルは残念そうにしながら恐ろしい言葉を呟いた。

咲はようやく解放されホッとしたが、そんな安堵感は一瞬の内に消え失せた。

「さて、人間。お前、聖女の力が目覚めたようだな?」

そう口にされた瞬間、全身の血が凍ったように動けなくなった。
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