手違いで召喚されたのはポンコツ聖女?─待っていたのは魔王からの溺愛でした─

甘寧

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7話

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咲は必死に言葉を巡らせた。

聖女と言う存在は魔族にとって脅威しかない。
今まで仲良くしてくれていた人達も聖女の力が目覚めたなんて知ったら……

そんな事を考えたら生きた心地がしなかった。

「あ、あ、あの、その……」

何とか口を開いたが、上手く言葉が出てこない。
泣きそうになる咲に溜息交じりに魔王が告げた。

「……何か勘違いをしているようだが、お前に聖女の力があるのはこの城の者は全員が知っているぞ?」
「へ?」

その言葉に咲は素っ頓狂な声が出た。

「そもそも召喚された場所を間違えただけで、お前は本来聖女としてこの世界へ喚ばれているんだぞ?逆に今まで聖女の力が出なかったのが不思議なくらいだ」

呆れるように言う魔王に同感と言わんばかりにレザゼルが頷いている。

(という事は、本人である私だけが知らなかったと……?)

咲自身、聖女の力があるなんて微塵も思っていなかった。
だから、フレデリックの傷を治したのが自分の力なのか半信半疑でもあり、できれば何かの間違いであってほしいと思っていたぐらいだ。

「まあ、魔王様が仰ったとおり我々は貴方の力については驚きもしませんし、そんな力を持ったばかりのヒヨッコを恐れる者もおりませんのでご安心ください」

微笑みながら棘のある事を言うレザゼルだが、本当の事なので何も言えない。

「それよりも、人間に貴方の存在を知られた事の方が厄介です」

眉間を押さえながら困ったように呟くレザゼルに魔王も頭を抱えている。

これには流石の咲でも理解出来た。

失敗したと思われていた召喚が実は成功していて、何故だか分からないが聖女は魔界にいる。
しかも、魔王が連れ去るとこをフレデリックに目撃されている点からして……

「低俗な人間達は今頃、聖女サキ魔族我々に囚われていると勘違いしている事でしょう」
「……………………………」

それは人間と魔族の関係を悪化させるには充分過ぎる事態だった。

咲は自分の我儘で無理やり魔界に居座らせてもらっているのに、このままでは魔界みんなに迷惑がかかってしまうと考えた。
人間界に行くのは嫌だが、ここのみんなに迷惑をかける方が断然嫌だ。
咲はグッと手を握り、覚悟を決めた。

「あの!!私!!人間界にいき──」
「「あ゛!?」」
「──……ません」

魔王とレザゼル二人に睨まれ、咲の覚悟はポッキリ折られた。

「今更お前が戻ったところで奴らとの関係は変わらん」
「そうですよ。それとも何ですか?貴方は人間の方が良くなったんですか?」
「そんな事ありません!!」

冷たい目を向けられ、咲は慌てて否定した。

「私は魔界ここが好きなんです!!ずっと皆さんと一緒にいたい!!けど、私がここにいたら迷惑が……」

泣きそうになり俯きながら言ったが、最後までは言えなかった。
ポンッと俯いている咲の頭に暖かい手が置かれた。

「大丈夫ですよ。貴方一人ぐらい我々が護ってあげます。それに、貴方今まで私達にどれだけ迷惑掛けてきたと思っているんです?それこそ今更です」
「レザゼルさん……」

なぜだろう……感動する場面なのに、感動できない……

そんな事を思っても魔王とレザゼルの顔を見れば自然と涙が出てきた。
そんな咲に困ったように苦笑いしながらも、魔王が優しく頭を撫でてくれた。


◈◈◈◈


「サキ!!!!」
「ララさん!!!」

ようやく解放され、自室へ向かう途中でララに会った。

ララは咲の姿を見つけるとすぐに駆け寄り、全身をくまなく確認しだした。

「あぁ~良かった!!大丈夫!?どこか怪我してない!?人間ってすぐ死んじゃうでしょ!?」

こっちが困惑するぐらい心配された。

ララは夜勤明けの睡眠も取らず、ずっと咲の帰りを待っていたらしい。
そんなララに申し訳なさ半分、嬉しさ半分で胸がいっぱいになり、思わずララの胸に飛びついた。

「ララさぁぁぁん!!!ごべんなざい~!!!」

涙と鼻水でグチョグチョの顔を上げると、小さい子を宥めるかのように背中を擦りながら微笑むララの顔があった。

この騒ぎを聞きつけた他の魔族達もやって来て、皆が咲が無事に戻れって来た事を喜んでくれた。
その様子を見て、ようやく心の底から安心する事が出来た。

その日は聖女の力が目覚めた咲を祝うべくお祭り騒ぎで料理長も腹の空かせた咲の為に滅多に作らない可愛らしいデコレーションケーキを振舞ってくれた。

咲は、こんな平穏がいつまでも続けばと心から願った……
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