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数日後──……
今夜はユリウスとアンティカの婚約が発表される夜会の日。
今日までユリウスはもとより、ゼノの方も一度も顔を表さなかった。婚約者でもないのだから当然と言えば当然なのだが、何故だろう。イライラが止まらない。
「姉さん、準備はいい?」
コンコンと扉を叩いて合図を送られた方を見れば、いつもは下ろしている髪を整え、正装に着替えたグイードが立っていた。性格に難がなければ、まずまずの優良物件。
(黙っていればいい男なのに)
性格に難がある為か、未だに婚約がいない。姉弟そろって売れ残り状態。その為、こういった社交の場でのエスコートは父かグイードが務めてくれている。まあ、よっぽどの事がない限りグイードが付き添ってくれている。
(こういう所よね)
本来なら父に頼むべきなのだが、何だかんだティナも義弟離れできていないなと実感する。
「どうしたの?」
黙ったまま顔を見ているティナに声をかけた。
「ん~?うちの義弟は今日も格好いいなと思ったのよ」
「な、な、なんだよ、急に!!」
ティナに褒められたグイードは、顔を真っ赤にして照れを隠すように声を荒らげた。そんなグイードをティナは「ふふ」と微笑ましく見つめていた。
「……姉さんだって……いつも綺麗だよ。どの令嬢よりも輝いてる」
「それは言い過ぎよ」
「そんなことないよ。僕の自慢の姉なんだから胸を張っていいよ」
元気づけようとしてくれているのだろう。気を使わせてしまったなとティナは「ありがとう」と微笑み返した。
❊❊❊
夜会の会場である城へ着くと、すでに大勢の人で賑わっていた。
「……見て」
「あら、ティナ様じゃない。惨めよねぇ…自分が婚約者だと思っていたのでしょう?」
「そんな事言っては駄目よ。自分の身の程を知らないなんて可哀想じゃない」
グイードにエスコートされて中へ入ると、すぐにヒソヒソと嘲笑う声が耳につく。いちいち気にするのは馬鹿のすることなので、堂々と聞き流す。
そんな姿を見たグイードは「流石」と笑っている。
「飲み物取ってくるよ」
「お願い」
そう言ってグイードがティナの傍を離れた時、会場が騒がしくなった。
──主役の二人が登場したのだ。
アンティカは派手なドレスに身を包み、満面の笑みを浮かべながらユリウスの腕に手を回している。正装したユリウスは普段の数倍の色気と美しさがあり、悔しいが見惚れてしまった。そんなティナの視線に気が付いたアンティカは「クスッ」と目を細め、見せつけるかのようにユリウスの腕に胸を押し付けていた。
二人は会場を真っ直ぐと歩き、国王陛下の前まで来ると足を止めた。陛下はゆっくり立ち上がると、ユリウスの前までやってきた。
ユリウスは黙って膝をつき頭を下げ、アンティカもニヤつく顔を必死に抑えながら同じように跪いた。
「あ~…この度、騎士として国を護っておるユリウス・ヴァインガルトナーが婚約をする事となった」
どことなく物憂げに宣言する国王。この時点で、何かおかしいと気付く者はいない。
「その相手となる者は…」
その場にいる者達が息を飲み、名を口にするのを待つ。今更聞かなくとも分かっている。
アンティカは口角を上げて、自分の名を呼ばれるのを待っている。
「ティナ・シファー伯爵令嬢。……そなただ」
国王は憐れむような視線をティナに向けながら名を呼んだ。
「「……………………………は?」」
聞き間違いかと、その場にいた全員が一瞬唖然としていたが、いち早くアンティカが声を上げた。
「──ちょ、お、お待ちください!!何故、ティナ様なんです!?こうしてユリウス様の隣にいるのは、わたくしです!!」
必死にそれは間違いだと訴えるが、陛下は真っ直ぐと見据えたまま黙っている。
「わたくしは認めません!!ユリウス様に相応しいのは、このわたくし以外に有り得ない!!」
淑女とは思えぬ乱れっぷりで怒りをぶつけている。
「ねぇ、ユリウス様も陛下に違うと言ってください!!」
縋りながらお願いするも、ユリウスは黙ったまま下を向いている。それがアンティカを更に熱くさせる。
「ユリウス様!!わたくしが貴方の婚約者ですよね!?何か言ってください!!」
体を揺らしながら訴えるが、ユリウスはアンティカの言葉には反応しない。こうなってくると、周りの者達も徐々に陛下の言葉は聞き間違いではなかったと実感が沸いてくる。
(おいおいおいおい、何がどうなってる……?)
ユリウスはティナに興味を失っていたはず。こちらとしても、祝う気満々でやって来た。それなのにどうして……?
ティナは困惑と焦りの色を見せている。
それもそのはず、国王陛下直々に婚約者と宣言されれば、それはもう結審がついたのも同じこと。事実を覆すことは難しくなる。
アンティカを庇う訳ではないが、このままでは自分の身も危うい。この際、無礼だろうか関係ない。ティナも前に出て陛下に進言しようとしたが、一歩足を出した所でどこから現れたのかゼノに止められた。
「……裏切り者が何の用?邪魔よ」
「やっぱりそう思ってたか…だから前もって伝えておいたのに…」
訳の分からない事を言っているが、話を聞いている暇はない。
ティナはゼノを押し退けようとするが、簡単に退くような奴ではない。流石に苛立ちも限界になり、声を荒らげようとした。その時──
「いい加減にしないか」
現れたのは、アンティカの父であるベントリー公爵だ。
今夜はユリウスとアンティカの婚約が発表される夜会の日。
今日までユリウスはもとより、ゼノの方も一度も顔を表さなかった。婚約者でもないのだから当然と言えば当然なのだが、何故だろう。イライラが止まらない。
「姉さん、準備はいい?」
コンコンと扉を叩いて合図を送られた方を見れば、いつもは下ろしている髪を整え、正装に着替えたグイードが立っていた。性格に難がなければ、まずまずの優良物件。
(黙っていればいい男なのに)
性格に難がある為か、未だに婚約がいない。姉弟そろって売れ残り状態。その為、こういった社交の場でのエスコートは父かグイードが務めてくれている。まあ、よっぽどの事がない限りグイードが付き添ってくれている。
(こういう所よね)
本来なら父に頼むべきなのだが、何だかんだティナも義弟離れできていないなと実感する。
「どうしたの?」
黙ったまま顔を見ているティナに声をかけた。
「ん~?うちの義弟は今日も格好いいなと思ったのよ」
「な、な、なんだよ、急に!!」
ティナに褒められたグイードは、顔を真っ赤にして照れを隠すように声を荒らげた。そんなグイードをティナは「ふふ」と微笑ましく見つめていた。
「……姉さんだって……いつも綺麗だよ。どの令嬢よりも輝いてる」
「それは言い過ぎよ」
「そんなことないよ。僕の自慢の姉なんだから胸を張っていいよ」
元気づけようとしてくれているのだろう。気を使わせてしまったなとティナは「ありがとう」と微笑み返した。
❊❊❊
夜会の会場である城へ着くと、すでに大勢の人で賑わっていた。
「……見て」
「あら、ティナ様じゃない。惨めよねぇ…自分が婚約者だと思っていたのでしょう?」
「そんな事言っては駄目よ。自分の身の程を知らないなんて可哀想じゃない」
グイードにエスコートされて中へ入ると、すぐにヒソヒソと嘲笑う声が耳につく。いちいち気にするのは馬鹿のすることなので、堂々と聞き流す。
そんな姿を見たグイードは「流石」と笑っている。
「飲み物取ってくるよ」
「お願い」
そう言ってグイードがティナの傍を離れた時、会場が騒がしくなった。
──主役の二人が登場したのだ。
アンティカは派手なドレスに身を包み、満面の笑みを浮かべながらユリウスの腕に手を回している。正装したユリウスは普段の数倍の色気と美しさがあり、悔しいが見惚れてしまった。そんなティナの視線に気が付いたアンティカは「クスッ」と目を細め、見せつけるかのようにユリウスの腕に胸を押し付けていた。
二人は会場を真っ直ぐと歩き、国王陛下の前まで来ると足を止めた。陛下はゆっくり立ち上がると、ユリウスの前までやってきた。
ユリウスは黙って膝をつき頭を下げ、アンティカもニヤつく顔を必死に抑えながら同じように跪いた。
「あ~…この度、騎士として国を護っておるユリウス・ヴァインガルトナーが婚約をする事となった」
どことなく物憂げに宣言する国王。この時点で、何かおかしいと気付く者はいない。
「その相手となる者は…」
その場にいる者達が息を飲み、名を口にするのを待つ。今更聞かなくとも分かっている。
アンティカは口角を上げて、自分の名を呼ばれるのを待っている。
「ティナ・シファー伯爵令嬢。……そなただ」
国王は憐れむような視線をティナに向けながら名を呼んだ。
「「……………………………は?」」
聞き間違いかと、その場にいた全員が一瞬唖然としていたが、いち早くアンティカが声を上げた。
「──ちょ、お、お待ちください!!何故、ティナ様なんです!?こうしてユリウス様の隣にいるのは、わたくしです!!」
必死にそれは間違いだと訴えるが、陛下は真っ直ぐと見据えたまま黙っている。
「わたくしは認めません!!ユリウス様に相応しいのは、このわたくし以外に有り得ない!!」
淑女とは思えぬ乱れっぷりで怒りをぶつけている。
「ねぇ、ユリウス様も陛下に違うと言ってください!!」
縋りながらお願いするも、ユリウスは黙ったまま下を向いている。それがアンティカを更に熱くさせる。
「ユリウス様!!わたくしが貴方の婚約者ですよね!?何か言ってください!!」
体を揺らしながら訴えるが、ユリウスはアンティカの言葉には反応しない。こうなってくると、周りの者達も徐々に陛下の言葉は聞き間違いではなかったと実感が沸いてくる。
(おいおいおいおい、何がどうなってる……?)
ユリウスはティナに興味を失っていたはず。こちらとしても、祝う気満々でやって来た。それなのにどうして……?
ティナは困惑と焦りの色を見せている。
それもそのはず、国王陛下直々に婚約者と宣言されれば、それはもう結審がついたのも同じこと。事実を覆すことは難しくなる。
アンティカを庇う訳ではないが、このままでは自分の身も危うい。この際、無礼だろうか関係ない。ティナも前に出て陛下に進言しようとしたが、一歩足を出した所でどこから現れたのかゼノに止められた。
「……裏切り者が何の用?邪魔よ」
「やっぱりそう思ってたか…だから前もって伝えておいたのに…」
訳の分からない事を言っているが、話を聞いている暇はない。
ティナはゼノを押し退けようとするが、簡単に退くような奴ではない。流石に苛立ちも限界になり、声を荒らげようとした。その時──
「いい加減にしないか」
現れたのは、アンティカの父であるベントリー公爵だ。
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