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「ふわぁ」

「ふわぁ」

「真似しないでくださいよ、お嬢様」

「嫌だわ、真似したのはそっちでしょ?」

 ラトナの欠伸につられて出てしまう欠伸。
 それもそうね、心地よい馬車の揺れに瞼を閉じると、そっと膝掛けがかけられた。
 
「ありがとう、少し寝るわ」

「おやすみなさいませ、サローナお嬢様」



 しばらくして優しく体を揺すられる。

「お嬢様、サローナお嬢様、起きてください。アースト国の国境が見えて来ましたよ」

「んっ、もう国境に着いたの?」

「はい、もうすぐ着きます」

「教えてくれてありがとう、ラトナ」

 確かここでガート国からいらした護衛騎士と合流するのよね。その合流地点まで来たのだろう、馬車は徐々に速度を落として止まった。

 馬車を降りて迎えの騎士達に挨拶をする為に、ラトナに身なりを整えている最中。
 1人の騎士が馬車に近付き「サローナお嬢様、お向かいにあがりました」と、馬車の入口から声をかけた。

(えっ?)

 私にはその騎士の声に聞き覚えがあった。
 まさかと思い布を上げて窓から覗けば、黒いフード付きのマントと鎧を着けた赤い髪のユバ様がいた。


(何故ここにユバ様がいるの⁉︎)

 
 彼は窓から覗く私に気が付き、笑って片手を上げて、窓越しにいつもの様に軽い挨拶をする。

「よっ、サローナ嬢、元気か?」

「ご、ごきげんよう、ユバ様」

 すっごく訳がわからない、ぷちパニックだわ。
 屋敷を出るときに聞いた従者の話では、ここにいる方達はガート国からいらした、護衛騎士だと聞いている。

 その中になぜ? ゴーハン殿下の近衛騎士になるはずの、ユバ様がいらっしゃるの?

「ラトナ! 直ぐに馬車を降りるから手伝って頂戴」

「はい、サローナお嬢様」

 ラトナに手伝ってもらい馬車を降りた。そのとたんに鼻をくすぐる、いままでに嗅いだことのない甘い香りがふわりと香った。

(甘い香り、なんの香り?) 

 それも香りも気になるのだけど、いまはこの香りを気にしている場合じゃないわ。

 私はユバ様に近寄り声をかけた。

「どうして? ここにユバ様はここにいるのですか?」

 そして、このアースト国で可愛いお嫁さんをもらうはず。彼に2度と会えなくなると覚悟していたのに、私の目の前にいる。

「貴方はゴーハン殿下の近衛騎士になるのではなかったのですか?」

 予想していなかったハプニングに、ドギマギして声が詰まる。

「ユバ様!」

「落ち着けって、俺がゴーハン王子の近衛騎士になる話はあったよ。でも、自国に帰るからと言って断った。そう言ったらさぁ、王子の隣にいたナリアにはわんわん泣かれちまったがな……ははっ」

「それは当たり前よ。ナリアはユバ様のことを殿下の次に気に入っているもの」

「いやぁ、王子の次に気に入られてもな。俺は元々このアースト国の住人じゃない。学園も卒業したし自国に帰るさぁ」

「自国?」

 ユバ様の出身がガート国だなんて知らなかった。でも、今日からガート国に着くまでの間、1週間も一緒に過ごせる?

(彼を堪能できる!)

 剣の訓練とか着替え、一緒の食事⁉︎
 私の淡い期待に反して、彼はどんどん話を進めていく。

「さてと、サローナ嬢とも合流したからゲートを開く」

「ゲート?」
 
「あ、サローナ嬢には言ってなかったか。俺たちの国と、こことでは次元が違うんだ」


 次元が違う? どこに私とラトナを連れて行くきなの?


「待って、その説明は受けていないわ?」

 話を止めると彼は「まいったな」といった表情を浮かべて、早口で話し出した。

「あーごめん、サローナ嬢。いまは説明をする時間がないんだ……早くしないとゲートが閉じちまう」

 ユバ様は手を空にかざして杖を出すと、その途端に光が私たちを包む。

 私はそれに見覚えがあった、幾度のゲームの中で見てきた。魔法陣……だ。

 実際に目にした魔法陣って、なんて綺麗なのと心を奪われた一瞬、私達は森の中に転送された。
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