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未知の感覚
しおりを挟むアリシアの言葉は、ジェイデンの行動に寄って遮られた。
背後から拘束されていたアリシアの首元に、ジェイデンの顔が寄せられている。
「…な」
その首元でジェイデンはアリシアの匂いを嗅いでいるようだった。
「甘い…」
「え…?」
「ひどく…甘い香りが…する…」
さらに至近距離で香りを確かめているのか、ジェイデンの顔の一部がアリシアの首筋に当たる。
「…っ!」
ビクッと体が揺れた。
暗闇の中、状況もわからないまま、ジェイデンはアリシアの首元に顔を埋めた。
「あぁ…、とても…、落ち着く……」
羽交い締めというよりは、今度は抱きしめられているようにぎゅっと体を締めつけられた。
ドクンと心臓が鳴った。
これは…、一体、何が…起こっているの…?
言葉を紡ごうとしたが、混乱している頭では気の利いた話もできなかった。
アリシアはこうした触れ合いを初めて経験する。
夫のジムはアリシアに触れようともしなかった。毛嫌いされていたから仕方ないのだが、他人の温もりというものを親以降初めて知った。
しきりに首元でアリシアの匂いというものを堪能していたジェイデンは、自身の唇をアリシアの首筋に当てていた。アリシアにはただ何かわからない柔らかいものが押し当てられているような感覚だった。
「あ…、あ…の……、た、大公…様……」
状況も把握できず、ただされるがままだったアリシアも、ここでようやくジェイデンに声をかけた。
だがジェイデンはアリシアの言葉など全く聞いてなどいない。
「この、甘く…魅惑的な香りを、いつまでも…堪能したい……」
さらに腕に力がこもり、ジェイデンと密着していく。首筋に当てられた感触が、次第に生々しいものへと変わっていく。
首筋にぬるりとした感触と、チリっと鋭い痛みが一瞬走った。
「ぃ…!」
それと同時にアリシアの体を締めつけていた腕の拘束が解かれ、代わりにジェイデンの手がアリシアの身体を確かめるように撫でていく。
「…ッ」
アリシアは混乱を極めた。
いま自分の身に何が起こっているのかわからない。見当もつかない。
一つわかるのは、ジェイデンがおかしいということだけだった。
アリシアの話などまるで聞かず、うわ言のように一人で話している。
普段のジェイデンなど知りもしないが、数時間前な紳士的な対応をしてくれていた時とは明らかに違っていた。
そういえば、大公様はさっきから何かに苦しんでいたわ。もしかしたら、何かのご病気か…心の病のせいかもしれない…。
子爵家を切り盛りしていたアリシアも、たまにそういう人間を目にしていた。
関わることはなかったが、世の中にそういう人間がいることもアリシアは知っている。
「大公様…、お気を確かにしてください。もし、お薬などございましたら、私が持ってまいります」
いまだにジェイデンはアリシアを離さず、首筋に唇を当て吸い付いている。
「ぅっ…」
出そうになる声を必死で抑えた。
アリシアの身体を弄っている手も動きを止めておらず、腰回りを撫でていたが、徐々に上へと伸びていく。
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