愛してる。だからばいばい

はすか

文字の大きさ
5 / 11
本編

5

しおりを挟む



「…………は?」

 突拍子のない提案──提案と呼べるものなのかどうかも怪しいが──に、反応が随分と遅れた。
 ジニアはそれに気分を害した風もなく、寧ろ笑みを深くした。

『何だ、怖いのか?』

「怖いも何も、聞かれてることがよく分かりません」

『あー……そうだな。じゃあ、具体的に話すか』

 考える素振りを見せていたジニアだったが、それもやめると、いつになく真面目な顔で話し出した。

『要するに、解呪すればいいんだよ。嘘から出た真ってわけじゃねえと思うが、あの娘の病気は確かに呪いの類だ』

「な……! 呪いなんて、そんな! 魔法があった時代にしかないはずじゃ」

 そこまで言って、僕ははっとする。

 魔法は、かつて人々が扱うことのできた不可思議な力の総称である。「かつて」であるから、もちろん今は使えない。時代とともに風化し、忘れ去られたのだ。魔法があったという事実さえ、今は物好きな人しか知らない。
 そして、呪いもまた然りだ。魔法よりは認知度が高いが、それが何なのか、現代の民は詳しくは理解していない。
 数百年前──それこそ、目の前にいるジニアが生きていた時代は、魔法や呪いの全盛期だったはず。ならば、彼が言っていることは信憑性を得てくるわけだ。

「魔法があった時代に付与された呪いが、今もまだ残り続けているということですか……?」

『ま、そうだな。何せ、当時の全人類の魔力を掻き集めても足りなかった俺の魔力で、直々に付与してやったやつだからな』

「…………あ?」

 自分が出したとは思えないほどの低い声が馬車内を震わせた。今は王都を走っているが、馬車の外が一瞬静まり返った気がした。

『おー、どうどう。怒気が漏れてんぞー』

 この人は、今何と言った。自分が、ローズを苦しめている元凶だとでも言うのか? 仮にでも敬われるべき王族であると言うのに?
 僕が怒りで、目の前が赤く染まるような感覚を覚える中、ジニアは挑発的に嗤う。

『俺はな、この国の奴らが大嫌いなんだよ。例え今生きる奴らが、当時のクソどもに直接は関係しねえとは分かっていてもだ。嫌いだし、何なら全員殺したいとも思ってる』

 そこまで聞いて、僕は自分を抑えきれなかった。
 尊敬すべきジニアの胸ぐらを掴み、歯を食いしばる。そうしなければ、人として尊厳を踏みにじるようなことを口走りそうだったから。

『話は最後まで聞け』

 ジニアは右の赤目を閉じて、呆れたように話を続ける。

『お前の知ってる通り、俺はずっと昔に死んでる。にも関わらず、お前とこう会話できてるっていうのは、つまり俺の魂が現世に留まり続けてるせいだ』

「だったら、さっさとあの世に行けばいい……! お前は人に仇なす存在だ。何でお前みたいなのが、国を建てた……──っ!?」

 一瞬のことだった。僕には何が起きたのか全く理解できず、気づけば馬車の天井を背景に、僕はジニアに見下ろされていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

ジェリー・ベケットは愛を信じられない

砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。 母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。 それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。 しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。 だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。 学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。 そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。 ※世界観はゆるゆる ※ざまぁはちょっぴり ※他サイトにも掲載

 《完結》 どうぞ、私のことはお気になさらず

ヴァンドール
恋愛
実家の伯爵家では、満足に食事も取らせてもらえず毎日、使用人以上に働かされた。  そして縁談が来たと思ったら火遊び好きな侯爵の隠れ蓑としての婚姻だった。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

真実の愛の言い分

豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」 私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。

処理中です...