愛してる。だからばいばい

はすか

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 今度はミェイアル公爵にアポを取り、ローズの元を訪ねた翌日。ローズの体調が優れないため、また彼女が療養している部屋へと通された。

「セリシール様……!」

 沈んだ表情をしていたローズが、パッと顔を輝かせた気がした。ふわりと微笑むその姿が、僕の胸を締め付ける。
 ローズと会うのは……おそらく今日が最後なのだから。

「どうされたのですか?」

 部屋に通されても一向に動こうとしない僕に、ローズが怪訝そうに尋ねてくる。僕はつんと痛くなる鼻の奥に気付かないふりをして、ローズの側へと歩いていく。

「ローズ、落ち着いて聞いてくれ」

 僕は椅子には座らず、ベッドで半身を起こすローズに膝を付いて、手をそっと握った。
 気を抜けば、涙が零れてしまいそうだ。それだけはしたくない。ローズに気取られてはいけないのだ。
 ……それもあるが、第一にローズに涙は見せたくない。

「君の病気は、治るよ」

「……!」

 悲痛そうに顔を歪めるローズ。しかしローズはすぐに笑みを浮かべた。その目尻には、雫が浮かんでいる。

「笑えない冗談ですよ。揶揄うなんて酷いです」

「冗談なんて言わない。僕は、何をしてでも……君を」

「セリシール様?」

 流石に僕の様子に違和感を覚えたのか、重ねたローズの手が震える。
 ……そう言えば、ローズとは十数年と寄り添ってきた相手だ。気づかない方がおかしいか。
 早いところ話を進めなければ。ローズは必ず僕がやろうとしていることを拒むだろう。だからこそ、気取られない内に動いてしまいたかったのに。

「ローズ」

 名前を呼んで、僕はゆっくりと立ち上がる。ローズがその動きを目で追う。

「セリシール様……?」

 最後の日で、短い時間ながら三回も名前を呼んでもらえた。それだけが、僕を動かす活力と勇気を与える。
 ローズの目に手を翳し、視界を閉ざす──

「……おやすみ、ローズ。愛してる。だから、ばいばい」

「何を、仰って……」

 ローズの言葉に必死に耳を塞ぎ、僕は部屋にいるであろうジニアに向かって声をかける。

「もういいですよ」

『……ああ』

 瞬間、僕の体内に異物が流れた。この時代の人間は魔力すら持ち合わせていないのだ。そこに無理くり魔力を通すわけだから、僕は酷い不快感に襲われる。
 でも、そのおかげでローズの声で心が軋むことは無くなった。そちらの方に意識が向きさえしなければ、無駄に苦しむ必要も無い。
 雑念を振り払い、ローズが元気に生きることのできる未来のことだけを想う。例えそこが、僕がいない世界でも。

 時間にしては、そんなにかからなかった。ローズがびくりと肩を震わせたのを見るに、僕がいた記憶は抜け落ちたのだろう。その代わり、この世界の呪いは解けた。
 改めて考えると安いものだ。誰も死ぬことはなく、ただ僕がこの世界にいたという事実だけが皆の記憶から抜けるなんて。

 そう思えたのも、本当に一瞬のことだった。

「誰、ですか……?」

 他でもない、ローズのそのたった一言により……


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