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しおりを挟む突然の婚約者の入れ替えにより、なんとか成立した婚約の儀。その入れ替わりを画策した妹アルミナの願いにより、私はとある辺境伯の元へ出家することとなった
「ごめんな…シェルエッタ。こんなはずじゃなかったんだ。」
「良いのよお父様。伯爵さまからの命令じゃ断れないもの。では、そろそろ行来ますね。」
----------------婚約の儀後----------------
追放が決まった私は、この先の不安を紛らわすため、夜風を浴びに庭で散歩をしていた。
すると、屋敷の2階のバルコニーから声が聞こえてきた。
声の聞こえた方を見ていると、先程婚約したてのハイレントとアルミナが向かい合ってお互いを見つめていた。
憎き夫婦がよろしくやっている所を盗み見るほどいい性格はしてなかったので、退散する。しかし、気になる会話が聞こえてきた。
「くくっ。しかし、ここまでうまく事が運ぶとは思わなかったな。アルミナ?」
「えぇ、ハイレント様。邪魔者だったシェルエッタは追放、これでテールミス家の資産はハイレント様のモノと言っても過言ではありませんわ。」
「これで我がヴァーレン家にも再興の兆しが見えたというもの。いずれはお前達がやっている商いもヴァーレン家の主導でやらせてもらおう。」
「もちろんですわ。ハイレント様が…いえ、旦那様のお望み通りに。」
「それにしても、下賤の畜生が身分を隠し、汚い血を我がヴァーレン家と混じり合おうなどと今考えてもゾッとする。アルミナ、お前の告発がなかったら危うかったぞ。」
「旦那様のことを思えばですよ。」
「しかし、いつになってもたまらんな。畜生共を嬲るのは。」
-------------------------------------------
昨日の会話から、私が追放されることは計画的なことだったようだ。その結果、今こうして私は馬車に揺られている。
まぁ、別に婚約なんてしなくてよかったからいいんだけどねっ。家を追い出された負け惜しみを考えていると、御者に話しかけられる。
「嬢ちゃん、マーティナ辺境伯領行きだってな。なんか悪いことでもしたんか?」
「…特に悪い事はしてないんですけど、マーティナ領は罪人が流れ着く所なのですか?」
「いやぁ、罪人とまではいかないが他の領地や中央都市センテントから奇人、変人が集まってくるんだよ。」
「なるほど。」
「そんで、領主のゼルレッジ・マーティナというお方も、中央都市でやらかして左遷させられたらしいんだよ。」
「他にもマーティナ領の悪い噂はありますか?」
「あるよ。最近聴くのだと…溶解の魔女とかかなぁ。」
「溶解の魔女?」
「あぁ、何でも溶かす怪しい術を使いすぎて顔の半分が爛れてるらしい。たまに、その術を街の女子供にかけて回るらしい。」
「怪しい術…。」
今思えば、この世界には魔法とかあるのだろうか?
異世界転生系には鉄板の要素だし、あるといいんだけど。
「あの~普通の人も魔術とか使えたりするのですか?」
「くはっはっはっ!使えるわけねーべ。まぁ、ガキ達に聞かれたら夢を壊さないように答えてやるがな!」
「ははっ。すみません、箱入り娘だったもので…。」
この感じだと、魔法とかは無さそうだな。いや、私は諦めない。魔法がない異世界なんて異世界じゃないもの。
「おっ!話してる間に見えてきたぞ。あれがマーティナ領中心街セノトックだ。」
「おぉ~!結構栄えてますね!」
「当たり前よ。セノトックは今やこのファナレス王国の中でも5本の指に入る大都市だからな。ありとあるゆる物と人、そしてほんのちょっとの罪人がこの街を作ってる。」
「おじさん早く!馬を急かせて下さい。」
「慌てるなお嬢ちゃん。残念だが、お前さんを下ろすのはセノトックじゃない。」
「え?」
と言うと、御者のおじさんは手綱を引いて、馬車をメインストリートからはずれた小道に誘導した。
「お前さんを下ろす場所は、この先の屋敷だ。」
おじさんが指さした方向に目を向けると、そこには大きめの湖と小さい寂れた屋敷が一軒ポツンと建っていた。
「マーティナ領の領主、ゼルレッジ・マーティナの屋敷だ。」
屋敷に着くと、使用人らしき壮年の男が出迎えていた。
「お待ちしていていました。シェルエッタ・テールミス様。私は執事長のセバスと申します。ささっ、お疲れでしょう?中に入ってください。」
「あ、ありがとうございます。」
「ほんじゃあお嬢ちゃん、元気でな!」
「おじさんもありがとう!」
御者のおじさんと別れを済ませ、セバスに案内のまま屋敷の中に入ると、一人の男が入っていた。
「君かね?バカな妹に立場を奪われた小娘は?」
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