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生活魔法1

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「今日は少し遅かったのう」

 ドアを開けると、おじいちゃんがお茶を飲んでまったりとしていた。

「すいません。武術の授業が長引いてしまって……」

 謝ると同時に、さらりと人のせいにする八束。
 まあ、事実だからいいんだけども。俺なら謝るだけで終わってそう……。
 でも、八束みたいにこういう事さらっといえる方が、怒られるのは少なくて済む気がする。世渡り上手、と言うか、なんというか……。
 羨ましくはないけれど、凄いとは思う。

「そうか、そうか。それは災難じゃったのう。体は大丈夫かの?」
「余裕っしたね」
「なら良かったわい」

 八束が力こぶを作って見せると、おじいちゃんは微笑ましそうに、目を細めた。
 孫と祖父の会話みたいで、聞いてるこっちまで微笑ましい気分になってくる。

「ところで、今日は何をするんですか?」

 俺が尋ねると、おじいちゃんは髭をもふもふと触り始める。凄い触り心地がよさそうだ。

「ふむ、そうじゃな……話ばかりでもつまらんじゃろう。ちょっと実践を交えて、二人の属性について学んでいこうかと思っておるが」

 おお、となると、空間魔法について教えてもらえるのか……それはワクワクする。
 八束はちょっとピンとこないようで、首をひねっていたが、そんなものは無視である。

「その前にまず、魔力を出すところから始めなくてはの……」
「あ、魔力なら出せますよ」

 八束が遮るように言う。

「なんと」

 おじいちゃんはそんな八束の態度に怒りもせず、素直に驚いて見せた。いつもは細い目が、真ん丸になっている。

「それは……残念じゃのう」

 ぼそり、と呟いた。
 思わず……と言うように漏れたその呟きは、そっとこちらから目を逸らし、遠くを見つめるその顔は、とても悲しそうだった。

 ……そうか。
 確かに、せっかくの生徒なんだから、自分の専門分野の魔力の、しかも第一歩は教えてやりたいと思うのが自然だ。そのことにも気が付かず、武術訓練の時にいい案を思いついた、とはしゃいでいた自分が馬鹿らしい。

 いや、でも気が付いていたとしても、多分、同じことをしただろうな……。影井にとっては死活問題だと思ったし、……おじいちゃんには悪いけど、おじいちゃんが悲しむだけで済むなら、やっぱり早急に魔力を教わった方がよかったと思う。俺たちが魔力を使えるようになってからだと、教わるための口実を考えるのも大変だしね。

 だから俺は、見ない振り、聞こえない振りをした。



「まあ良い、魔力を出せるなら話は早いからの。お主等は鑑定石を使ったと聞いておる。それなら、なんの属性に適性があったのか、教えてほしいんじゃが」

 ちらちら、と八束と俺のほうを見る。
 まあ、そりゃ、教える上で、知っておく必要のある情報だよな。スキルを教えろ、と言っている訳でもないので、何の抵抗もなく、口を開こうとする。
 しかし、それよりも早く、八束が口を開いた。

「俺、生活魔法らしいんすけど……」
「……他に、適性はないのかの?」

 八束は一瞬、ちらりとこちらを見るが、すぐにおじいちゃんのほうを見て、ゆっくり頷く。

 ん?なぜ俺のほうを見たのだろう?何か聞きたいことでもあったのだろうか?
 この場面で見た、ということは、魔法適性に関することを聞きたかったのだと思うけど……。もしかして、適性を見てほしい、とかだろうか?
 それならこちらを見た意味は分かるが、鑑定石に見てもらっているのに、何故態々、俺に見てほしかったのかは……。
 鑑定石のことを信用してない、のだろうか?うーん。ありそう。胡散臭い目で見てそう。基本、何にも信用してないからな、八束は。

 もしかしたら、八束も実はこういうファンタジーの世界に憧れて……るのはあんまり想像できないから、それはないにしろ、使えるのが生活魔法だけだったということにショックを受けて、事実を受け入れられないのかもしれない。

 その場合は、はっきりと言って、現実を分からせてやった方がいいのかもしれない。現実逃避したままってのはだめだよな。うん。
 そのためには、実際に見てやった方が、誠実ではある。もしも、彼にほかの適正があった場合、確認しないで、他の適正はない!なんて言ってしまった日には、どうなることか。いや、たぶん誰にも分らないから、どうってことはないと思うんだけど、友達として、ね?
 凄い不誠実だし、それだけは避けたい。

 鑑定石の能力はしょぼいけど、偽物ではないし、魔法の適正に関しては漏れがあるようには思えないけど、まあ、念のため、だ。念のために、彼の適正を見ることにしよう。

 それが彼の望んだことでもあるだろうしね。



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