僕の初恋を返せ

鹿音二号

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1ー1.2

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「もう一度聞きます、協力しませんか」
「……」

本当は、協力したい。
裏切る予定の敵の国が居心地がいいなんて。長くもない人生の中で、この半年間が一番平和で楽しかった。
脅されてじゃない、本当に、レイリーや王太子の側に仕えられたらどんなに幸せだろうと。
けれど、駄目なのだ。どんなに願っても、それは夢のまた夢。

口にたまった唾を飲み下して黙るデイル。
その顔に、布を押し当てたレイリーはかすかに目元を歪めていた。
息をしないように……というのは無理だ。頭を掴まれて、振り払うことも出来ない。
やがて、覚えがあるような香りが口や鼻に充満する。
二度、三度呼吸するうちに身体から力が抜けて、頭に靄がかかる。

「……離してください」

レイリーの声とともに、掴まれていた肩や腕が離された。力が入らない。デイルはずるりとソファーの背もたれから体を滑らせた。

「……いいですか、再度お聞きします、協力しませんか」
「い……やだ」

本当は言うつもりはなかった言葉が、口から出てくる。驚いたが、つまり、これが薬の効果なんだろう。
口元を手で押さえようとしたら、腕を取られた。

「貴方ならわかっていますね」

レイリーの青い目が近付いてきた。

「カディラルの間諜はすべて捕らえました。貴方がたの目的――戦争の前哨戦なら我々の勝ちということです」
「……」
「貴方についてなら、最初はそうだと知りませんでしたが、経歴が嘘だというのはすぐに調べて分かりました。ずいぶん前から嘘の情報を流してもらうように、貴方には動いてもらっています」
「……」
「そのうえで、今後……あと2カ月、貴方には自主的に嘘の情報をカディラルに流す役目をして欲しい。ですから、……え?」

レイリーがふと目を逸らした。
何か話し声がする。

「なぜ貴方様が……、……、ですが……いえ、……」

レイリーの声も遠い。耳もおかしくなってきたらしい。
相変わらず身動きが取れないし、さらにぼうっとしてきた。
会話は終わったらしい。声がやんで、突然肩を掴まれて揺さぶられた。

「ともかく、俺がやろう」
「グレオル様!」

深い声と、レイリーの鋭い声。
え?と瞳だけを動かすと、とんでもない美形がドアップになった。黒髪黒目の、整った顔立ち。
王太子殿下。
デイルは、固まった。

「おやめください、王太子のやることでは……」
「お前も手一杯だろう、レイ。それに、王太子の俺が計画の一番の目玉を押さえておくのも不自然ではない」
「……すごくその顔が……」

レイリーがなにやら言っているが、聞こえない。代わりに、グレオルの深い声が耳元で響いて、じわじわと頭が溶けそうになる。
心地がいい声。
そういえば、隣にデイルを支えるように座っているのは……

(うん、王子様だ)

とたんに、危機感がブワッと込み上げてきた。
いや、錯乱したと言っていい。
デイルは、残った力で王太子を突き放した。
が、びくともしない。
けれど、突然暴れたデイルに、周囲がざわめいたのがわかる。

「まだこんなに動けるのですか!」

レイリーの慌てた声。
すぐにまた布を押し当てられて、今度はもろに吸ってしまった。

――レイリー
――仕方ないんですよ、これは彼に耐性があるのか

グレオルの咎めるような声と、レイリーの途方に暮れたような声。遠くから聞こえる。
完全に力が抜けた、というより、体が自分のものではないような感覚に、かすかな恐怖。
ぐっと、肩を抱かれた。痛い。

「……ぅ」

――分かった。その薬を置いていけ
――頼みましたよ

ざわざわと少し騒がしくなったが、すぐに静かになる。

――デイル

心地のいい声が名前を呼んだ。
それに頷きそうになり……慌て首を振る。
違う。ハイ、は言ったらいけない。

――名前も違うのか?

首を振る。

――そうか、良かった

かすかに笑んだような低い声音が、それこそ薬のようだった。
ずっと聞いていたい。
けれど、音として聞こえるのに、言葉としては伝わってこない。もったいない、自分へ語りかけてくれているのに。
どうして、こんなにも優しい声なのだろう。
泣きたくなるほど。

「……好き」

思わず、口に出してしまった。
その音が自分の耳に入って、はっとする。
何を言った、自分は。

「……デイル?」

近くに、驚いたような美しい顔。
かああっ、自分の頬が熱くなるのが分かった。
無意味な言葉が口から出てくる。

「いや、ちがう、そんな、え」

……たった今、デイルはグレオルのことが好きなのだと、気づいた。

憧れだと思っていた。けれど、これは明確に違う。いや、憧れているのだと言い聞かせて、気持ちに蓋をしていた。
きらめく黒い瞳は、じっとデイルを見つめている。
恥ずかしい。
羞恥と情けなさと、恐怖でデイルは目をつぶった。

「いやだ……」

なんでこんなときにこんなことを言い出すのか。
場違いにもほどがある。
自分で自分をコントロール出来ない。気持ちも、身体も。それは一番の恐怖だった。
震え始めたデイルの身体を、そっと抱くものが。
ほこりっぽくて少し饐えた、けれど森林のような香りがする。くらりとした。

「……デイル、俺が好きか」
「あ、」

耳元に好きな声を吹き込まれて、ぞくりと背が浮いた。かっと身体が熱くなって、どくどくと耳の裏で鼓動が聞こえる。

「……そうか」

笑みを含んだ、低く響くグレオルの声に、打たれたように震えるデイル。
違う、そうじゃない。
どこかで頭の片隅で必死になって否定しているのに。
萎えきった身体が、ふわりと浮遊感に包まれる。目はもう見えない。ぼんやりと黒い輪郭がずっと目の前にあることくらいしかわからない。

「……俺も、お前のことが愛おしい」

嘘だ。
いくら好きな声だとしても、それは即座に否定できた。彼が、自分ごときに……敵国の間諜などにそんな気持ちをくれるはずがない。

「いやだ……」
「大丈夫だ。どうして、仲間になってくれない?」
「……」

それは、言えない。
無理なのだ、デイルは国を裏切ることができない。

「レイのことを疑っているのか?あいつは今回ばかりは正直だ、お前のことについては神経質が過ぎたくらいだった」
「……」
「俺も、お前が素直に仲間になってくれないか、願っている」

なぜ、それは必要ないはずだ。

「僕……、ただの下っ端で、」

声を上げると、息を呑む音が近くで聞こえた。

「知ってること……ない。必要は……」

敵の手中に落ちた間諜なんて本国にも不要なものだろう。せめて、バレたことを知らせれば……あるいは温情はもらえるかもしれないが。

「下っ端、な」

呆れたようなグレオルの声。
ぶつぶつと続けて何か言ったが、それは聞き取れなかった。
やがて、ふわりとまた浮遊感がして、背中に何か柔らかいものが当てられた。

「……?」
「苦しくないか?」

ふと、目の前がクリアになる。
きれいな顔が、すぐ近くにあって、どきりとする。それに、かあっと体温が上がった気がする。
指一本動かせない。ただ赤面するしかないデイルに、そっとグレオルが触れた。
首すじを撫でられてぞわりとする。

「……っ」
「隠すあまり、別のことがおろそかになったみたいだな」

からかうような口調、けれどいたわるような声音で、グレオルはすっと手を動かした。
だんだんと、王太子の大きな手がデイルの身体を撫でていく。首元、胸元、腹の上をするりと撫でて……

「……ぁっ?」

下腹。さらにその下。
じん、と痺れた。

「……はっ、ぇ?ぁぐ、」

ぐっと大きな手に押されて、自分でようやくそこがどんな状態か分かった。分かってしまった。

「かわいいな」

グレオルの歌うような声に、ぐっと喉が詰まる。
どうして。

「今度は薬が効きすぎたか」
「ひ、ぃ、は、離ぁ……!」

ぐっぐっ、と何度か押されて、じわりと下腹部に甘いしびれが生まれた。じくじくと熱を持つ、王太子の手のひらの下。

「大丈夫だ……」
「や、やだ……いや」

どうしてこうなった。
なぜか王太子はデイルのそれ、勃起した性器にご執心だった。
優しいと言えるような手付きで、デイルのベルトを緩め、ボトムスごと下履きをずらす。
すうすうと空気に触れた股間、デイルは絶望に頭を殴られた。

「っ……」

なぜ、こんなことに。
自分がグレオルを好きだと……性的な対象としての好意を抱いたなんて、知らなかった。
知らずに終わりたかった。
彼は敵国の王子。自分は間諜。どうしてこれから国ごと害をなそうとするその人を、好きだと言えるのか。
隠しておきたかった、大事に。
グレオルは、デイルに顔を近づけ、優しく笑う。好きな、眩しい笑顔。

「怖いことはない」
「っや、ん……っ」

唇を食まれた。
ちゅっちゅと何度も吸われ、それから熱い舌でべろりと唇の内側をなぞられる。
足から完全に衣服を剥ぎ取られ、広げられた。そこに、たくましい王子の身体が入り込んだ時にはゾッとした。

「あ、む……っ、ぅ、う」
「は……っ……」

王太子の鋭く吐く息が、顎にかかる。
口づけは、心地よかった。
ますます頭に靄がかかって、自分が何をしているのかわからなくなった。
もう我慢できないほど熱くなった股間が、ピクピクとしている。思い切り扱きたいのに、指一本動かない。

「あ、ぁ……んぅ、」
「ん、……大丈夫だ」

王太子は、緩やかに微笑む。とろりと濡れた目を眇め、厚い唇が弧を描く様がぞくりとするほど艷やかで、またデイルの身体が震えた。

「任せてくれ」

ぐっと、性器を掴まれて、疑いようがないほど、鋭い快感をかんじて。
それから……

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