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「唯一の手がかりは、最初の毒ですか」
今のところ期待できるものと言えばそれだ。
実行犯を捜しているが、尻尾をつかませない。
毒はおそらく、海を越えた東の国の蛇毒だろうということ。
けれど、入手ルートは不明、新しく取り寄せも難しい。よって本当かどうかは分からない。
ともかく、どこから手に入れたのか、それが分かればいいのだが。
「あれは、どうやってデイルは気づいたんだ?」
ベイディが興味深そうに聞いてくる。
困る質問だ。
「いえ……本当に勘というか……」
匂いも味もないので、先ほどのマーリーのようにはいかなかった。
本当に自分でもよく分からない。
本来ならなぜ知っていたと疑われそうなものだが、デイルが仲間に加わった経緯が経緯だけに疑いようがないと言われてしまった。
ベイディは何やらしみじみとしていた。
「デイルって、不思議だよな……いつもはこう、あんまり……」
「ああ、バカっぽいというかトロそうっていうんでしょ?」
「……口が悪くなってしまうな」
ベイディはバツが悪そうだが、それはデイルにとってはむしろ嬉しい言葉とも言える。なにせ……
「ええ、見た目に騙されました」
「え?」
思っていたことをちょうど言われて、慌ててレイリーを振り返った。
苦々しいような美しい顔。
「本来ならあのとき、薬を使う予定はなかったんです。貴方は優秀だと頭で理解しているにも関わらず、感覚はどうにも……普段ののんびりした貴方の印象になっていたようです」
「それまた……」
驚いた、レイリーまで騙されてくれていたとは。
「侮っていました。ちょっと優しい言葉をかけてやれば、すぐに協力を取り付ける事ができるだろうと……ですが、あの時の貴方の目は、絶対に言わないと叫んでいましたね。説得が不可能だと悟らせる……」
だから、念の為の薬だったし、強力だったのか。
「ちょっとちがうが、たまにデイルは……野生に帰らないか?」
「ああ、そのような感じですね」
王太子殿下の感覚は不思議だ、レイリーはなぜか同意しているが。
「野生って……」
「いやー分かる気がする。突然人が変わったみたいになりますね、仕事の時でも」
「ええーそうかな」
「いつもはこのような態度ですからね、いまだに驚くくらいは」
「まあ、油断してくれるならとてもいいことなんです」
「ええ、まったく、油断しました」
レイリーは肩をすくめて苦笑した。
自白剤を使われたことについては、仕方なかったと割り切れる。
その後の、誰かさんが許せないのだ。
「なあ、いいか」
その誰かさんが、ふと身を乗り出した。
「デイルを貸してほしい」
「え、絶対いやですけど」
「だめに決まっているでしょう」
一拍も置かず、デイルと、レイリーの反射的な拒絶。
王太子はがくりとうなだれた。
デイルは反射的に断ったが、レイリーは何のことかは知っているらしい。
「一時帰還の時の随行でしょう。絶対に許しません」
「一時帰還、ですか?」
「何か国で問題が?」
口々に聞く。
レイリーは表情を少し緩めた。
「いえ、問題などではなく、報告がてら王太子の仕事をしに戻れと言われましてね」
「ああ……2カ月以上経っていますからね」
「さっとかたづけてまた来なさいということです。私は殿下が戻られるとなるとここから離れられませんし……」
「執務室の机の上がどうなっているか、想像しただけで恐ろしいんだが」
「私もです。ともかくデイルは駄目です、無理です」
「……俺というものがありながら、グレオル様……」
ぼそりと言う王太子の従者は作ったように表情が暗い。20代なかばの、たしか伯爵家の子息だったか。黒に近い焦げ茶の髪に、緑の目は少し小さめでぶっきらぼうに見えるが、性格は意外とノリが良い。
「いや、違うぞ!?お前はお前だ、ヒルジット!」
あたふたと従者に言い訳する王太子の姿に誰もが笑う。
彼は分かっている従者だ。
おそらく、王太子とデイルの間に何があったか知っているのだろう。直接何か言われたことはないから、むしろ確信できた。
従者といいつつ、仕事はそれを上回ってこなすため、あまり主人の側にいない。だからこそデイルをと、副官と別れて戻る王太子が言っているのだろうが……
今調査官の長が現場を離れるわけにいかないのである。
そういうことにした。
今のところ期待できるものと言えばそれだ。
実行犯を捜しているが、尻尾をつかませない。
毒はおそらく、海を越えた東の国の蛇毒だろうということ。
けれど、入手ルートは不明、新しく取り寄せも難しい。よって本当かどうかは分からない。
ともかく、どこから手に入れたのか、それが分かればいいのだが。
「あれは、どうやってデイルは気づいたんだ?」
ベイディが興味深そうに聞いてくる。
困る質問だ。
「いえ……本当に勘というか……」
匂いも味もないので、先ほどのマーリーのようにはいかなかった。
本当に自分でもよく分からない。
本来ならなぜ知っていたと疑われそうなものだが、デイルが仲間に加わった経緯が経緯だけに疑いようがないと言われてしまった。
ベイディは何やらしみじみとしていた。
「デイルって、不思議だよな……いつもはこう、あんまり……」
「ああ、バカっぽいというかトロそうっていうんでしょ?」
「……口が悪くなってしまうな」
ベイディはバツが悪そうだが、それはデイルにとってはむしろ嬉しい言葉とも言える。なにせ……
「ええ、見た目に騙されました」
「え?」
思っていたことをちょうど言われて、慌ててレイリーを振り返った。
苦々しいような美しい顔。
「本来ならあのとき、薬を使う予定はなかったんです。貴方は優秀だと頭で理解しているにも関わらず、感覚はどうにも……普段ののんびりした貴方の印象になっていたようです」
「それまた……」
驚いた、レイリーまで騙されてくれていたとは。
「侮っていました。ちょっと優しい言葉をかけてやれば、すぐに協力を取り付ける事ができるだろうと……ですが、あの時の貴方の目は、絶対に言わないと叫んでいましたね。説得が不可能だと悟らせる……」
だから、念の為の薬だったし、強力だったのか。
「ちょっとちがうが、たまにデイルは……野生に帰らないか?」
「ああ、そのような感じですね」
王太子殿下の感覚は不思議だ、レイリーはなぜか同意しているが。
「野生って……」
「いやー分かる気がする。突然人が変わったみたいになりますね、仕事の時でも」
「ええーそうかな」
「いつもはこのような態度ですからね、いまだに驚くくらいは」
「まあ、油断してくれるならとてもいいことなんです」
「ええ、まったく、油断しました」
レイリーは肩をすくめて苦笑した。
自白剤を使われたことについては、仕方なかったと割り切れる。
その後の、誰かさんが許せないのだ。
「なあ、いいか」
その誰かさんが、ふと身を乗り出した。
「デイルを貸してほしい」
「え、絶対いやですけど」
「だめに決まっているでしょう」
一拍も置かず、デイルと、レイリーの反射的な拒絶。
王太子はがくりとうなだれた。
デイルは反射的に断ったが、レイリーは何のことかは知っているらしい。
「一時帰還の時の随行でしょう。絶対に許しません」
「一時帰還、ですか?」
「何か国で問題が?」
口々に聞く。
レイリーは表情を少し緩めた。
「いえ、問題などではなく、報告がてら王太子の仕事をしに戻れと言われましてね」
「ああ……2カ月以上経っていますからね」
「さっとかたづけてまた来なさいということです。私は殿下が戻られるとなるとここから離れられませんし……」
「執務室の机の上がどうなっているか、想像しただけで恐ろしいんだが」
「私もです。ともかくデイルは駄目です、無理です」
「……俺というものがありながら、グレオル様……」
ぼそりと言う王太子の従者は作ったように表情が暗い。20代なかばの、たしか伯爵家の子息だったか。黒に近い焦げ茶の髪に、緑の目は少し小さめでぶっきらぼうに見えるが、性格は意外とノリが良い。
「いや、違うぞ!?お前はお前だ、ヒルジット!」
あたふたと従者に言い訳する王太子の姿に誰もが笑う。
彼は分かっている従者だ。
おそらく、王太子とデイルの間に何があったか知っているのだろう。直接何か言われたことはないから、むしろ確信できた。
従者といいつつ、仕事はそれを上回ってこなすため、あまり主人の側にいない。だからこそデイルをと、副官と別れて戻る王太子が言っているのだろうが……
今調査官の長が現場を離れるわけにいかないのである。
そういうことにした。
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