最強令嬢の秘密結社

鹿音二号

文字の大きさ
38 / 60

34:新年舞踏会2

しおりを挟む
フラワーデン公爵家は、貴族筆頭と目されるほどの力も家柄もある。老齢になりつつある公爵はまだお元気で、さらに夫人との間に3人もの男子が生まれ、みな公爵家にふさわしい魔力の持ち主だった。全員成人し、嫡男と次男は結婚もして小さなお子もいる。
ペトーキオ家は、夫人が病気がちで跡継ぎになるような男子がいないなど、多少不安定なところもあるが、ミズリィはこのままなら皇太子妃、跡継ぎも数人の養子候補はすでに選定され、ミルリィの婚約者もこれからだ。当主の采配は悪くない。

ノプライアン公爵家は、今後を心配されている。
現当主に変わってから、急激に力が衰えてきた。事業は立ち行かず、領地では作物の実りがよくない。それについての対処もうまく行っているとは聞いていない。
そして、嫡男のオーガスト。
彼は、魔力が貴族としては並以下だった。
さらに悪いことに、貴族の通例である教育機関への入学――オーガストは、それに失敗した。
聖オラトリオ学院に、入学できなかった。

ミズリィですら入れたのに、オーガストは出来なかった。
勉学についてはミズリィと彼にそれほど差があるとは思えない。問題にされたのは、魔力量と、素行だ。
他にも兄弟がいるが、多少公爵家としては見劣りするものの、それなりの魔力量。兄弟と比較され父親からの覚えも悪いのだけれど。

オーガスト自身もだけれど、どちらにしろ、あまり大貴族としてはよくない振る舞いが目立つ家門だった。
今、ノプライアン公爵令息が皇家主催のパーティーで馬鹿にしているのは……

(わたくしと、スミレのことよね)

一瞬怒りが込み上げて、扇子を広げて隠したけれど、多分目はきつくなっていただろう。
けれど、すぐに気分は落ち着いた。
彼のやり方はもう覚えていた。何度もペトーキオ家……特に同い年のミズリィに敵対していた。
それに、彼以外の口からも似たようなことを聞いたりしないこともなかった。

貴族と平民。本来なら友人になんてならない、恥ずかしいことだという。
以前のミズリィなら、何故そんなことを言われるのか理解が出来ずに、怒ったか、分からないなりに考えて黙っていただろう。

(どうしてそんなことで、あそこまで楽しくなれるのかしら)

呆れてしまった。
スミレが平民なのが悪いのか、ミズリィが彼女と友人として付き合うのが悪いことなのか。
そこだけは、わからないし、分かりたくもないと思った。

さて、どうすればいいのか。
目の前で、たぶんミズリィが近くにいると知ってまだ馬鹿にするように笑い続けるオーガストを見つめながら、ほんのすこしの時間考えていると。
彼に負けない強い声が聞こえてきた。

「そうだな、我らが友人の、身分は平民だが、学友の」
「ああ、あの名門聖オラトリオ学院の、進学コースに籍を置く、優秀な彼女だな」

遠くもなく近くもない場所に、友人たちが立っていた。
濃茶の丈の長いコートに白いスカーフで装ったイワンはグラスを片手に、メルクリニはなんとドレス姿で、穏やかに談笑している――ように見せている。

「ミズリィ公女ともとても仲が良いな」
「平民というが、魔法は使えないとオラトリオには入学できないのでは?」
「もちろん。魔法を使えたところで、成績が良くなければ平民が入学できないだろ?魔法も成績も並み以下だったら……たとえ公爵家令息でも、落ちてしまうような格式高い学院さ」

肩をすくめて、おどけたように首を振るイワンに、口を閉じたオーガストの忌々しそうな視線が突き刺さる。が、イワンは無視。

「そうそう、その点、我が学友は素晴らしい。平民だけれども、成績優秀と認められたんだから……おや、そこにいらっしゃるのはノプライアン令息ではないですか」

メルクリニが、今やっと気がついたというようにオーガストに振り向いた。

「ごきげんよう、オーガスト様。お久しぶりです。3ヶ月前の、クレイド伯爵の庭園会以来……でしょうか?学院が違うもので、なかなかお会いできないことをお許しください」
「お久しぶりです。お元気でしたか、私とは半年前の皇家の夜会以来……でしょうか?いやあ、学業と家業で忙しくしておりましたので、覚えていてくださるか心配です」
「……無礼だな!お前らは俺をなんだと思ってる!?」

吐き捨てて地団駄踏むオーガストに、揃って首を傾げるふたり。
オーガストの取り巻きたちも口々に非礼を責めるが、イワンたちはしれっとしている。

「まあ、オーガスト様に無礼ですわよ、イワン、メリー」

さすがにちょっとやりすぎじゃないか。
そう思って、ミズリィは一歩踏み出した。

「ミズリィ嬢、失礼いたしました」
「オラトリオの友人の話に、つい夢中になってしまいました」

さっきのオーガストへの挨拶とまったく変わらないお辞儀で、けれどふたりともにやにやしている。
あとで一言言わなければ。
けれど、どうやら何故かオーガストは喚くことすら出来なかったらしい。やり込められているのがちょっと愉快だと思ってしまったのも本当で、ミズリィはこっそり扇子にため息を吹きかけた。

「わたくしたちの大事なオラトリオの友人のお話ですの?まあ、わたくしも混ぜてくださらないかしら」
「もちろん」
「数日前の勉強会では、成績優秀で教師たちにも覚えがめでたい彼女に教えられてばかりでしたね、挽回の方法を考えていました」

舌打ちしたオーガストが、取り巻きを連れて離れていった。
かなりの人数がミズリィ達を見ていたが、それを合図にさあっと波が引くようにいなくなっていく。

「……これで、よかったのかしら?」
「いやあ、ミズリィ様もなかなか分かるようになってきたじゃないか」
「少々品がないがな。けどそもそもあっちがもっと下品だから」
「イワンも、メリーまで。はしたないですわ」
「だけど、君もちょっとはすっきりしただろ?」

にやっと笑ったイワンに、ちょっと言葉を詰まらせてしまった。

「……よく分かりませんわ」

あまりオーガストに礼儀はなっていないけれど、そもそも彼に礼儀を尽くされたことがない。
ちょっともやっとしたところに、イワンたちが来てくれて、ミズリィとスミレの味方をしてくれて良かったと思ったのも本当だ。

「いいんじゃないか?それで」
「スミレのことは私達も無関係じゃない。言われっぱなしが腹に据えかねただけだ。君は君らしく振る舞っていればそれでいい」

こういう方法があるということで、とイワンがウインクした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

美化係の聖女様

しずもり
ファンタジー
毒親の仕打ち、親友と恋人の裏切り、人生最悪のどん底でやけ酒を煽り何を思ったのか深夜に突然掃除を始めたら床がドンドンって大きく鳴った。 ゴメン、五月蝿かった? 掃除は止めにしよう、そう思った瞬間、床に現れた円のようなものが光りだした。 気づいたらゴミと掃除道具と一緒に何故か森の中。 地面には気を失う前に見た円が直径3メートルぐらいの大きさで光ってる。 何コレ、どうすればいい? 一方、魔王復活の兆しに聖女を召喚した王城では召喚された筈の聖女の姿が見当たらない。 召喚した手応えはあったものの目の前の床に描かれた魔法陣には誰も居ない。 もしかして召喚先を間違えた? 魔力の残滓で聖女が召喚された場所に辿り着いてみれば聖女はおらず。 それでも魔王復活は待ってはくれない。 それならば聖女を探しながら魔王討伐の旅へ見切り発車で旅する第二王子一行。 「もしかしたら聖女様はいきなり召喚された事にお怒りなのかも知れない、、、、。」 「いや、もしかしたら健気な聖女様は我らの足手まといにならぬ様に一人で浄化の旅をしているのかも知れません。」 「己の使命を理解し果敢に試練に立ち向かう聖女様を早く見つけださねばなりません。」 「もしかして聖女様、自分が聖女って気づいて無いんじゃない?」 「「「・・・・・・・・。」」」 何だかよく分からない状況下で主人公が聖女の自覚が無いまま『異世界に来てしまった理由』を探してフラリと旅をする。 ここ、結構汚れていません?ちょっと掃除しますから待ってて下さいね。掃除好きの聖女は無自覚浄化の旅になっている事にいつ気付くのか? そして聖女を追って旅する第二王子一行と果たして出会う事はあるのか!? 魔王はどこに? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 不定期更新になります。 主人公は自分が聖女だとは気づいていません。 恋愛要素薄めです。 なんちゃって異世界の独自設定になります。 誤字脱字は見つけ次第修正する予定です。 R指定は無しの予定です。

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

クラス召喚されて助かりました、逃げます!

水野(仮)
ファンタジー
クラスでちょっとした騒動が起きていた時にその場に居た全員が異世界へ召喚されたみたいです。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

処理中です...