最強令嬢の秘密結社

鹿音二号

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41:イワンのまとめ2

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好みのお茶に、チョコやベリー、オレンジにピスタチオなどの数種類のケーキ。
クリームたっぷりのシュークリームやサックリとしたショートブレッドに、ヌガーや柔らかいキャンディーまで。
甘くて美味しいデザートは、それだけでこの一ヶ月ノートと書籍をにらめっこしていたかいがあった。
一番の功労者、スミレはまるまる大きな切り分けていないケーキをもらっていた。家族に持って帰るようだ。

「それで、報告とやらを聞こうじゃないか」

しばらく『輪舞曲』の甘味に舌鼓を打っていたが、一息ついてメルクリニがふわふわした雰囲気を変えた。

イワンは少し前まで意気消沈していたけれど――いったいどうしたのだろう――今は普通に戻って、大好きなチョコレートケーキを一口ずつ味わっていた。

「ん。頃合いだな。まあ、食べながらゆっくり聞いてくれ。大したことは分からないのは変わりないんだけど……」

ちょっとお行儀悪くフォークをくわえたまま、イワンは考えた。

「まずは、みんなも聞いていると思うけど、アップルアローのことについて」

最近海の向こうの大商団が、ホーリースで貴族たちの投資の的になっている。ところがミズリィの以前の記憶では、それは失敗に終わって、もう数ヶ月で社交界を揺るがす資金難に陥るはずだ。

「まず、ちょうどこの話をミズリィに聞いた頃、アップルアローの本拠地のパトベリア王国が今までにない大寒波に襲われた」

これは、ミズリィも聞いた。というか、イワンに聞かされた。『前』ではまったく知りもしないことだった。
異常気象らしい。もともと雪が多く寒い国ではあるけれど、そんな国でも多いと悲鳴を上げたくらいの大雪だった。

「そして、アップルアローの、新しい港を作る工事は中断しなければならなかった。凍らないはずの海まで凍って、さらにいろんなものが滞って、工事どころじゃなくなったんだ」
「順調だったはずの工事は遅れることが決まったんですよね」

スミレの言葉に、イワンが頷く。

「そうだよ。そうなると、問題は、ホーリースの貴族たちの、ちゃんと工事が期日までに終わり、そこから船で運ばれてくる荷物を受け取るという計算が狂ってしまったということだ」
「ええと、つまり……?」

ミズリィにはまだ話が分からない。紅茶を一口のんだイワンは、

「投資した貴族に、春先には荷物が届いているはずだった。ところが遅れるってことは……家門のお金を使い込んだ人たちは、そっくりそのままお金がないということさ」
「領地のお金は?全部使ってしまったの?」
「実際は使っていない。けれど、お金が収入を上回るほど欲しい時、どうすると思う?」
「……節約する?」
「それでも足りないときは?」
「ええと?」
「借りるんだよ、高利貸しや、銀行にね」
「銀行……ええと、ビリビオに……?」
「そう、帝国内には銀行はいくつもないから、必然的にビリビオになるね」


「借りるということは……返さなければならない」
「その通り。返すのはどうするか。アップルアローの優先権で得た一番高くていい品物を売って、お金を増やすつもりだった」
「ということは、春に荷物は届かないことになって、品物は売れないということね?では……ビリビオにお金が返ってきませんわ」
「当たり。ところが、ちゃんと契約はしてあるんだよ、春にまずいくらか返しなよって。強気で、全額返すっていう人もいたさ。さーて、どうするんだろねえ」

イワンは乾いたような笑みを浮かべている。

「どうするんですの?」

アリッテルが本当に不思議だというような顔をした。彼女の父も投資をしていたが、大きな額ではなかったらしい。けれどちょっと落ち込んでいるとか。
イワンはため息をついた。

「金額が多すぎるんだよな……一時的にビリビオや皇家が肩代わりすることになってる。絶対に返せって言ってね」
「ご実家、大丈夫なんですか?」

スミレは心配そうだった。イワンは苦笑する。

「なんとかね。それこそ資産の充填のあてはあるんだ、パトベリアがホーリースに補償をしてくれるらしい」
「……親切なんですね?」

スミレは驚いた顔をした。
メルクリニが彼女を見て、きょとんとする。

「どういうことだ」
「ああ、ええと……自然災害が原因じゃないですか。誰のせいでもない理由なのに、国が言い訳せずにちゃんと補償してくれるっていうのは、ちょっとびっくりしたんです」

スミレが慌てて小さく首を振った。
イワンが声を上げて笑った。

「……さすがだ、スミレ!」
「え?」
「いや、そのとおりさ、パトベリアは最初知らんぷりするつもりだったんだよ!」
「えええ……」

スミレも含め全員、呆れた顔になったのはしかたがない。
知らんぷり……ということは、ホーリースがどうなってもいいと言っているようなものだ。
イワンはまだくふくふ笑いながら、

「雪が多い国って言っただろう?冬になると町や村を行き来できなくなるし、ほとんどの港が凍ったりして他国に行くのも困難だ。毎年冬はぜんぜん他の国との交流がなくなる国でもあるのはよく知られた話だしね、港の工事が遅れるなんてこと、これを幸いに知らせることもしなくていいと考えていたようだ……ちょっと推測が混じってるけど、あんまり間違ってもないと思うよ」
「パトベリア王国は、なぜそんなに事実を言いたくなかったんですの」

クマのヌイグルミに頬を寄せたアリッテルが、考えながらしゃべった。

「大切なことではなくって?外交?とかにも影響があるんじゃ」
「外交なんて言葉、どこで聞いたんだい」
「イーワーンー?子供扱いは止めるのではなくって!?」
「わ、わるい、つい」
「つい?」
「……ごめん。ともかく、それは、もちろん当然の疑問だ」

オデットはじっとごまかすイワンを睨んでいたけれど、アリッテルのほうが気になったらしく、またヌイグルミに顔をくっつけた彼女を見て頬を緩めている。

「パトベリアがホーリースに何も言わないつもりだった理由は、資金の引き上げを心配して……と、補償を払いたくなかったからだろう。ホーリースが港のことに気づくのは冬が過ぎて春直前、その頃にいきなり事実を知っても、多分慌てる貴族をなだめるだけで帝国は手一杯だ。春になり、もっと事態が深刻になっても、のらりくらりと躱し、おそらく夏頃に港は完成する。そうすればなあなあにできると思っていたみたいだね」

もし気付いたホーリース貴族たちがいても連絡が取りにくいように、アップルアローの窓口を減らす準備をしていたらしい。

「ケチくさいですね」

スミレがふん、と鼻を鳴らす。メルクリニは腕を組んでしみじみと頷いている。

「本当にな。だが、先んじて手は打てた。厳しいところではあるけど、先が見えないわけじゃない」
「手を打ったというのはどぉいうこと?」
「まあ、ちょっとした秘密の切り札があって、それをパトベリアに使ったのさ。渋々だけどパトベリアが補償を申し出たのはそれがうまく行ったからだね」

オデットはニコリと笑った。

「まあ良かったわねぇ。これで信じたかしらぁ?メリー」
「へあ?」

びっくりしたメルクリニが思わず出したような声が、いつもより高い。
おかしそうにオデットは笑う。

「だって、この話が本当か、は、ミズリィの証明じゃなくて?」
「あの、ええと……証明になりましたの」
「……なったよ、充分だ」

メルクリニが苦笑して、すまなかった、と謝ってきた。

おまけに詳しく説明してもらうと、ミズリィが前世で見た春に社交界の大混乱は、『パトベリアが隠した工事延期の事実』をホーリースが知らなかった結果だろう、ということだ。
今回は事前にミズリィのおかげで、数ヶ月も先にそのことを知り、事前に行動を取ったおかげで要因のお金不足は解決するのだという。

未来を変えるとは、こういうこと。
初めて、分かった気がする。

「あの、メリー様はそこまで疑っていらっしゃいませんでしたよね……?」

スミレが恐る恐る聞くと、メルクリニは目を伏せながら微笑んだ。

「ああ。ミズリィがこんな嘘をついてなんの意味があるんだ?ただ、証拠が欲しかったのも本当なんだ……簡単に信じられるわけもなくて、ミズリィには不快な思いをさせたのでは」
「いいえ。まったく」
「……それなら、良かったが」

これで、友人としても騎士としてもわだかまりがなくなっただろう。
たったこれだけで、友情が壊れた『前』と同じようにならないなら、なんにも悪いことはない。
嬉しくて笑っていると、みんなに不思議そうな顔をされてしまった。
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