最強令嬢の秘密結社

鹿音二号

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48:思いは口にして2

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全ての講義の終了後、学院から出て輪舞曲へ。
学院から直接訪れたので、休学中のオデットだけは間に合わず、今日は来られるかわからない。

オーナーが少し疲れた顔をしながら出迎えてくれた。

「話をもう一度聞かせてくれるかい」

いつもの個室でオーナーに話を聞く。
なにせ自分たちの居心地の良い居場所を奪われるかも知れないのだ、ミズリィも気が気でない。
オーナーは一度頭を下げて、話し始めた。

1週間ほど前、ノプライアン公爵家の代理人と名乗る男が店にやってきて、店を買いたいと言い出した。
もちろん、オーナーは断った。やっと最近お客も増えてきて、この調子ならビリビオ銀行に借りたお金も返せると希望も見えてきたところだったのだ。

貴族の事情ももちろん頭に入っているオーナーは、ノプライアン公爵家の名前を聞いて、正直、嫌な予感しかしなかったようだ。
それに、己の店はペトーキオ公爵令嬢が利用する店でもある。これはなにかある、と警戒していた。

そして――毎日、押しかけてくる代理人。
普通の人間とはとうてい思えないような、言ってみればならず者のような人たちを引き連れて、店に入って交渉、というよりはただ居座りに来る。
目的は、お客を追い払うためだろう。

「今日は?」
「やってきました。ただ、ビリビオ子爵様の……」
「ああ、私兵がちゃんと来てくれたんだ」

対策として銀行と子爵家の人間を配置して助けるようにというイワンの指示だとか。
イワンはむっつりと不機嫌そうだった。

「うち(銀行)にも来たのさ、代理人ってやつが。輪舞曲の債権を譲渡しろとか」
「ええ!?」

オーナーが悲鳴を上げた。どうやらノプライアン家はずいぶんなことをしたのだとミズリィにも分かった。

「無理に決まってるだろ、って追い返したけど。父には僕から事情を説明したけど、それ以前の問題だから。公爵家といえど、銀行で権力を振り回そうなんて……」

イワンは肩をすくめて首を振った。

「ともかく、ノプライアン家がいきなりこんなこと始めたのは……」
「我々のせいだな」

メルクリニが頭を抱えた。

「新年会で、ちょっとやり返しただけだというのに、あのオーガストめ」
「……あっ」

ようやく、ミズリィは思い出した。
新年舞踏会で、オーガストが大きな声でミズリィとスミレをからかったのだ。それを苦々しく思ったイワンとメルクリニが、オーガストをからかい返した。

「その仕返しだろう。僕達が頻繁に使ってる店がここだと調べればすぐわかるし、嫌がらせだな」
「そんなことで!?」
「ああ、そんなことで、だ。ほんとにみみっちいな、オーガスト公子様は」

けれど、そういう人間だった、オーガスト・ノプライアンは。
簡単にオーナーに話すと、彼もぽかんと口を開けた。

「ともかく、僕達にも責任がある」
「滅相もありません。ビリビオ様方が謝られることでは……」
「けれど、このままだと店も、僕達の居場所も悩ましいことになる。どうにかするよ」

しばらくは苦労をかけるけど、と、イワンがオーナーに頭を下げると、あたふたとオーナーも頭を下げる。

「何卒よろしくお願いします……!」

お茶を給仕してから、オーナーは下がった。

「さて、どうしてやろうか」
「こんな良いところをなくすのは惜しいですわ。私も協力いたしますわよ」
「腹立たしいな、本当に性根が腐っている」
「なんだかすみません……」

スミレが肩をすぼめるのを見て、アリッテルが、もう!と声を上げた。

「スミレは何も悪くなくってよ!胸を張るべきですわ!」
「そうだぞ、まったく君には落ち度はない」

メルクリニもふん、と鼻を鳴らす。

「そうですわ。わたくしとスミレが友達で、何が悪いのです?オーガスト様にちゃんお聞きしなければ」
「おお、ミズリィがやる気だ」

イワンは手を叩いた。

「では、何かいい感じでギャフンと言わせようじゃないか。……しばらく表に出られないくらいにはしたいな」
「あら、悪だくみのお時間なのぉ?」

タイミングよく、オデットがやってきた。

「よくわからないけど、仲間はずれは嫌だわぁ。私も混ぜて?」
「よし。気合じゅうぶんだな。なら……」

ここに、『オーガスト・ノプライアンをギャフンと言わせよう計画』が始まった。

――けれども。
話し合いが進むにつれて、ミズリィは顔色が悪くなっていく。

「ほ、ほんとうにそれをしなければならないんですの……」
「ああ、これが一番効果的だ」

イワンが目に力を入れてミズリィを見つめる。

「不安なのはわかる。僕もちょっと、いや、かなり不安なのだけど。きっと君ならできる」
「だ、だけど」
「準備は入念にします!大丈夫です!サポートはします!」
「スミレ……」

なんだか試験の前の勉強会のときより緊張と力が入ったスミレ。

「で、でも……」

おろおろするミズリィに、アリッテルが立ち上がって指を差した。

「ええい観念しなさいミズリィ・ペトーキオ!たかがデートくらいで未来の皇太子妃がうろたえるのでなくってよ!」
「そ、そんな……」

――そう、テリッツ皇子をデートに誘う。
この、輪舞曲でお茶をしようというのだ。

何度も聞いたので、理由はミズリィも理解した。
オーガストの狙いは、この輪舞曲をミズリィたちから取り上げることだ。
今はその計画の真っ最中。買収を拒否した輪舞曲に、今度は悪いイメージをつけようとして、ならず者を何度も送っている。お客のイメージも重要だし、そういう悪い人間と付き合っているという噂が立てば、貴族向けにサービスする店は成り立たなくなってしまう。現に、ここ数日でかなりお客が減ってしまった。

そうして輪舞曲の経営を悪化させ、お金がなくなったところに、ノプライアンはまた助けると言って店を買おうとするだろう。

それを防ぐには。
噂には、噂で対抗。
今のペトーキオ公爵令嬢の御用達という噂さえ霞むのなら――さらに、上を。

「さいわい、テリッツ皇子は輪舞曲に興味があるって言ったんだろう?」
「た、たぶん」
「それに、正直に話せばきっと乗ってくださると思うよ。特に、オーガストがまた問題を起こしているなら、それを放置したくないのは皇家も一緒のはずだ」

過去に何度もノプライアンの不始末で厄介事を持ち込まれたのだ、今回もまた面倒なことになるのなら、と考えてくれるらしい。

「ですけれど……」
「ミズリィ様、不安なのはわかります」
スミレが真剣な顔をした。
「ですが、これはいい機会では?」
「いい機会?」
「今のミズリィ様は殿下に少し警戒しすぎだからね。用心は必要だけど……あまり、壁を感じすぎても、きっとよくない。殿下が何を考えているかも、知りたいところだしな」

イワンがテーブルの上で両手を組んだ。

「……わたくしには殿下のことなんて分かりませんわ」

「そういう後ろ向きなところも、たぶんよくないよ。ちょっとずつ、歩み寄ってみるのもどうかな?」
「歩み寄る……」
「何から何まで話せっていうわけじゃないよもちろん。ただ、テリッツ殿下も最近はミズリィに気を使ってくださるわけだし、他愛ないことをお話しできないわけじゃないだろう。そうだな……」

イワンは少し上の方に目をやった。

「メリーが……前は嫌われたって言ったけど、今は護衛騎士じゃないか」
「まだ、予定だ」

そこを間違えるな、とメルクリニが念を押す。

「だから、もしかしたらテリッツ殿下も、変わることがあるのかもしれないよ」
「……嫌われず、裏切られないこともあるかもしれないのです?」
「そうだよ、ミズリィ」

力強く、イワンは頷く。

「そういう努力をしてみても良いんじゃないかってね」
「イワン、もうちょっと手加減してあげなさいな」

オデットが苦笑しながらカップを持ち上げる。

「ミズリィはまだ怖いのよ」
「……分かってるよ」

背もたれに身体を預け、イワンはため息をつく。

「急ぎすぎたかな。でも、僕の所見を言うと、テリッツ殿下も最初からミズリィを嫌ってはないと思うんだ」
「どうして……?」

イワンがなぜそんな事を言うのか、ミズリィはまだ信じられなかった。
おどけたように、イワンは眉を跳ね上げた。

「僕も個人的にお付き合いがあるけれど、ミズリィについて話すことがあるんだ。共通の知人でもあるから……ただ、ああいう人って嫌いな人間のことは何も言わないからね、僕と殿下の共通点としての話題にしてもいいくらいは嫌ってないってことだよ」
「それは、いつからですか?」

スミレが聞くと、彼は少し考えた。

「僕が10歳になるちょっと前にお会いしたのが初めてで……ああ、僕とミズリィが仲良くなったのを殿下から言ってくださったんだった」

イワンが苦笑する。

「あれは牽制だったかもな」
「けんせい……?」
「気にしないで。つまり、ずっと前からってことだよ」
「……どう言えばいいのか、分かりませんわ」
「悩めばいいわ」

オデットはくすぐるような笑みを浮かべた。

「まだ時間はあるもの」
「そう。そして、できることはやる。だからミズリィ、」

イワンは、にっこりと笑う。

「殿下をお誘いしてよ」
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