最強令嬢の秘密結社

鹿音二号

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47:思いは口にして1

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いつもの見慣れた、行きつけの店の外の風景。けれど、扉の前にオーナーとパティシエ、給仕長に、ほとんどの従業員が並んで一斉に頭を下げる光景は見たことがない。

どきどきと胸から嫌な音が鳴っている。
引きつった顔になっていないか、それだけはミズリィの一番気にするところだ。

「手を」

馬車を降りるときに、にこやかに手を差し出してくるのは――この国の第一皇子。

「はい……」

ミズリィはその手を重ねて、馬車から足を下ろす。
乗ってきた馬車は、皇家の紋章が取り付けられ、装飾品が眩しいくらいの、訪問用のものだ。

そして、ここは、貴族区の、繁華街だ。
そこに、第一皇子と婚約者のペトーキオ公女が、一緒にティーサロンにやってきた。

(どうしてこんなことに……!)

心のなかではとても泣きそうになりながら、ミズリィは皇子の腕に手を絡ませ、慣れたエスコートに足を進めて、『輪舞曲』の開かれた扉に入っていく。



事の発端、というものかはわからないけれど、始まりはたぶんあの皇子の発言からだと思う。

「最近、友人たちと面白いことをしているようですね」

いつものお茶会。
テリッツとのふたりきりの時間も、当たり障りのない話を穏やかに話すだけなら、なんとか普通にしていられるようになった。
けれど、たまにこういう、予想外の彼の言葉に、さほど良くないミズリィの頭と行動は止まってしまう。

「……え?」

お茶を飲もうとカップを持ち上げたまま固まったミズリィに、にっこりとテリッツは笑いかけてくる。

「活動的だと聞いておりますよ。良いですね、友人たちとの仲が深まるのは……羨ましくもあります」
「え、ええ……皆さんと楽しい時間を過ごしておりますわ」

たしかに、最近は友人たちといることが多い。夜会とどちらが多いかしら、と考えても……同じくらいだろうか。

『前』とは比べ物にならないほど、イワンやオデット……そして、スミレたちとの時間が多くなって、そして濃密な日々になっている。
前と比べても忙しくもあり、充実した二度目の人生だ。

(あら?テリッツ殿下に言ったことがあったかしら)

誰と過ごしているかなんて、はじめのお茶を淹れられる間に天気の話と同じに聞かれるだけ。ミズリィは学院でのことを話すようにと(イワンに言われて)心がけているのだけれど。
テリッツは、ほとんど表情を変えず、

「成績も上がったとお聞きしました。ビリビオ子爵令息たちとの勉強会はうまくいっているようですね」
「……!?」

思わず、口に含んだ紅茶を吹き出しそうになった。
そんな無作法はできない!
ぐっと飲み込むと、変なところに入ってしまい、ミズリィは咳き込んだ。

「大丈夫ですか?」

慌てたようにテリッツがテーブルを回って側に来た。

「げほっ、し、……っつれいしましたわ」
「お使いください」

ハンカチを差し出され、断るのも無理そうで使わせていただいた。

「すみません、噂を耳にしましてね。少し詳しく他のものから聞いたのです」
「っいえ、その……たしかに、イワン様やオデット嬢や……他の友人とも仲良くしていただいて……」

ハンカチで口元を押さえながら、ぐるぐるとミズリィは考えた。

(えっと……これは、大丈夫なの?)

噂が立つほど、友人たちとは付き合っている。それは別の学校に通っているオーガスト・ノプライアン公子ですら聞いたことがあるらしいので、それは、そうなのだろう。

ただ、どんな集まりか、テリッツ皇子に知られては……

「成績優秀な友人に、ティーサロンを利用して勉強を教えてもらっていると。私はとても良いことだと思いましたよ」
「そう……ですわね。スミ、成績優秀な友人と仲良くなれましたので、親切にも教えてくださって……」
「秘密でしたら、謝ります。ミズリィが夜会以外に出かけていくのはめずらしいでしょう?気になってしまったのです」

テリッツが眉を下げて、すこしバツが悪そうにしている。
――だいぶ、落ち着いてきた。深呼吸して、ミズリィは微笑んだ。

「……たしかに、夜会以外にも出かける先があるのは、少し前のわたくしは想像もしてませんでしたわ」

友人たちだけの集まりや、平民区へのお出かけ。
それらは『前』のミズリィにはひとつも思いつかなかった。

「大丈夫ですわ。皆さんと勉強をしているのは本当ですもの」

……それ以外の、帝国の未来について真剣に話していることは、バレていないといいけれど。
テリッツはなぜか満足そうに頷く。

「私もすこし無作法を働きましたね。けれど、君から友人については何も聞いたことがなくて……少し、心配もありました」

心配とは?と聞きたかったが、聞いていいのか分からずミズリィは黙って微笑んだ。最近、オデットに聞いた『処世術』というものだ。
テリッツは優雅にカップを手に取る。

「ビリビオ令息なら問題はないでしょう。他の方も……学院の友人とは、我々貴族の子女には得難いものだと思いますし」
「?ええ、そうですわね」
「ふふ、ミズリィは変わりないようで、私も安心しました」

テリッツも、相変わらずテリッツだな、となんとなく思った。

「今度、君たちが使っているティーサロンにも行ってみたいですね」
「え、ええ!?」

ぎょっとした。
それは、いいのだろうか。
いや、場所だけなら、秘密ではない、はずだ。
オデットの家に行くには馬車の紋章を外してそっと神殿に訪れているけれど、輪舞曲にはそういったことはしてなくて、使うのはそれぞれの家の馬車そのものだった。

テリッツは、珍しい表情をした。
なんとなく悪いことを思いついたイワンのものに似ている。

「……秘密の場所ですか?」
「ええ……っと、他の友人達に聞かないと……」
「はは、そうだね、私が勝手にするのもかわいそうだ」

そのテリッツのめずらしい表情と、楽しそうな言葉はよく意味はわからなかったけど……どうやら、うまくできた、のだろうか。

けれど、他の問題が持ち上がっているとミズリィが知ったのは、次の日の学院でだった。

イワンが難しい顔で、ミズリィが講堂に入ってきたところを挨拶すら省略して話しかけた。

「ちょっとまずいことになった」
「どうなさったの?慌てて」
「『輪舞曲』が、買収されかけてる」
「買収……?」

なんだっただろうか。
イワンは強く目を閉じて、ため息混じりに言った。

「簡単に言うと――ノプライアン家のものになるかもしれない、輪舞曲が」

……それはなんだかとってもダメな気がしたミズリィだった。
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