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聖山の調査(1)
しおりを挟むミズリィ・ペトーキオが時間を巻き戻り、学院時代に戻ってきてから2年。
ミズリィは18歳になった。
先日誕生日パーティーも催され、みんなから祝われ、幸せをかみしめていた。
『前』のときは、うれしかったのは間違いないけれど、家族や友人たちに終わってもらえることが本当に奇跡で、ありがたいことだとは気づいていなかった。
今、こうやってやり直すように、ふたたびの誕生日。前回の17歳の日と同じく、泣いてしまった。
家族の前では必死にこらえたけれど、ミズリィが『2回目』だと知っている友人たちの前では堪えられなかった。みんな、あきれたような、心配そうな顔で、慰めてくれた。
この2年間、来る日に備えていろんなことを調べたり、考えたり、勉強したりした。
大きな事件は起こらなかったものの、ミズリィにとってはとても印象深い日々だった。
こんなに必死に毎日を過ごすことなんて、前には考えられなかった。これで充分だと、言ってしまえば怠けていたのだ。
ぜんぜん、足りていなかった。頭が悪いから、なんて言い訳で、日々を無意味に過ごしていた。
考えること、しなければいけないことはたくさんあったというのに。
だから、がんばるのだ。
死にたくない……いうのももちろんだけれど、後悔しないために。
いつものように学院の講義が終わり、クラスメイトに挨拶をしながら講堂を出る。
「今日こそは輪舞曲の新作を食べます!」
スミレが隣で意気込んでいる。
もう遠慮はしなくなったスミレは、ミズリィのそばにいるのが当然という顔だ。
「前回はお母様が体調を崩されて……今は大丈夫ですの?」
「おかげさまで。ミズリィ様には大変お世話になりました……」
「よかったわ、良くなられて」
スミレが眉尻を下げるので、ミズリィは笑顔で頷いた。
スミレの家族には会ったことがない。
けれど、スミレの家族なのだ、ミズリィが気にしないなんて無理な話だった。
こっそり、薬を少しばかり届けさせた。
匿名という手があるよ、とイワンに聞いて、使用人に届けさせたのだが……スミレにはばれていたらしい。
でも、匿名なので、何も言えないのだとか。
「今日は楽しみましょう?」
「はい!」
スミレは、輝くような笑顔だった。
『輪舞曲』に着くと、すでにイワンとアリッテルがいつもの部屋の席に座っていた。
「あら、おはやいのね」
ふたりはよく喧嘩をするから、一緒にいるのを見るとどきりとしたけれど、今日は何でもなさそうな雰囲気だ。
アリッテルはミズリィたちに挨拶すると、肩をすくめてイワンの方を見た。
「私が来た時からもうこうでしたわ」
イワンはミズリィたちが来たのに気づいていないようだった。
腕を組んで、じっと目の前のテーブルを見たまま、動かない。
「イワン!イーワーン!ミズリィとスミレがいらしてよ!」
アリッテルの大きな声に、ようやくはっとイワンは我に返った。
「あ、ああ、すまない、来ていたんだね」
「ええ、来ましたわ」
「ずいぶん悩まれていましたけど、どうされたんです?」
それぞれ席につきながらイワンに尋ねた。
「ああ……ううん、君たちに聞こうと思っていたけれど……まあ、僕がいま悩んでもしょうがない」
「何かお困りごとですの」
「いや、どうしたらいいか、方法を考えているというか」
何度か首を振り、イワンは苦笑した。
「……オデットたちを待とう。全員に考えてほしいな」
オデットとメルクリニはしばらくしてやって来た。
「あら、遅れたかしら」
「すまない、学院を出る時ちょっと用事が」
「かなわないさ、別に時間を決めているわけじゃないし」
イワンは笑って、ベルを鳴らした。
すぐさま給仕係がやってきて、ずらりとテーブルにはお菓子並ぶ。
「どうぞ、ごゆっくり」
いつものようにオーナーが手ずからお茶を淹れてくれて、お茶会……もとい、未来のために話し合う勉強会が始まった。
「で、何を悩んでいたんですの、イワン・ビリビオ」
アリッテルが美しい所作でお茶を口に含んでから、ズバリとイワンに聞いた。
「……そうだね。僕が悩んでいたのは……」
フォークで彼はピスタチオのケーキを切り分けた。
「どうも、聖山に、調査が入るらしいということさ」
「……聖山に?」
「聖山って、大精霊が封印された……」
「調査?」
ミズリィたちが口々に聞き返すと、イワンは訳知り顔で両手を挙げた。
「順に話そう」
イワンが聞いた話は、聖山を教会が調査するというものだった。
大精霊が封印された山。皇都近くの、一目見るだけなら何もとくべつなところがない山だ。
そこに人を送り、教会は何かを見たいらしい。
「目的がはっきりしない。封印のことがあるから、その関連かも……とは考えられることだけど」
「……重要な場所ですから、定期的に調査しているのでは?」
スミレの疑問には、イワンは首を振った。
「いや、ほとんど見られていない。でも、たまに用心深い司教とかが就任すると、やっぱり調査はするみたいだとは聞いた。……ただ、今回は20年ぶりの調査、しかも大司教がいきなり言い出したみたいで」
「大司教様?」
ミズリィはふと気になった。
「数年前に就任した若い人だよ、大ミサのときは出てくるだろう?」
「ええと……分かりますわ。偉いお方ですのよね?」
「……あ、ああ、そういうことか。この帝国の一番偉い教会の人だよ」
「……」
ふと、ミズリィの脳裏に、処刑されるときの前の記憶が出てくる。おぞましさに身震いしそうになるけれど……
「……あの方、ではないですわ」
「え?」
「うん?どういうことだい」
「……わたくしが処刑された時、あの方はどこにも見当たりませんでしたわ。ですから、あの時の大司教様はその方ではないのではないかしら」
「……代替わりしたのかもしれないね」
イワンは少し考えてから、皿にフォークを置いた。
「となると、今の大司教はミズリィの件と関係がない可能性が高い」
「どちらにしろ問題はなくてよ?それに、イワン、聖山を教会が調べるとして、何か不都合がありますの?」
アリッテルが不思議そうだった。
はやくも話についていけなくなりそうで、ミズリィは持っていた荷物から手帳とペンを取り出した。
話を聞くときは書いておくといい、と言われたのだ。学院の板書と一緒だという。スミレも先に手帳を出していた。
「不都合があるかどうか、分からないよ。話には続きがあるんだ、君はせっかちだな」
「悪かったですわね。ならさっさとおっしゃい」
「やれやれ。……で、その教会だが、その聖山の調査に学院の手を借りられないかと聞いてきたらしい。これは生徒会の生徒から聞いたから、信ぴょう性はある」
「……教会が学院の手を借りる、それはなぜでしょうか」
スミレ手帳に書き加えながら、ぼそりとつぶやく。
「人手が足りないとは思えません。わざわざ外の組織……学院の手を欲しがるなんて……」
「いちおう、魔法のことだから伺いを立てたのでは?という意見らしいね、学院の上の方々は」
「でも、封印したのは聖人……教会の人では?魔法ではなくないですか?」
「そうでもないらしい。何でも古い術だから、今の法術とも違っていて、魔法寄りとか。これは資料は公開されてるから、論文とかもあったよ」
「……なるほど」
「まあ、理由は何でもいい。僕が言いたいのは、それを利用できないかってことなんだ」
「利用?ですか?」
「そう、例えば、その調査についていけないかな……って」
「ついていく?……私たちが、ですか!?」
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