最強令嬢の秘密結社

鹿音二号

文字の大きさ
58 / 60

聖山の調査(2)

しおりを挟む
驚いたようスミレの言葉で、ようやくミズリィも分かった。

「それは……聖山行くということですわよね……?」

『前』のときは、封印が解けたときに登った、それだけだった。
その前に、聖山に近づく……
ミズリィはモヤモヤとした胸をそっと押さえた。

「ミズリィ様、不安ですか?」

スミレは目ざとくこちらの様子に気づいて、心配そうに見てきた。それに笑って、

「……すこし、ですわ」
「念のために聞くけど、『前』は事件以外に聖山近づいたことはあったのかい。こういう調査とか、ミズリィ以外がしたのでもいい」
「たぶん……ないですわ」
「なら、今は何が違ったんだろうな……」

そう、理由もなく前と変わることはない。それはこの2年間で何度も経験した。

「あの、ついて行けないかというのは封印の状態を見るためですよね?」

スミレの確認に、イワンは頷いた。

「そうだ。ミズリィが直接見れれば一番いいと思ったんだ。魔術師の中でもすでに上位だし……当事者だからね」

これは意地悪じゃないよ、とイワンが真面目に言うので、ミズリィは笑ってしまった。

「ええ、わかっていますわ」
「よかったよ、どこかの考えすぎは僕が意地悪だと勘違いしそうで困ったものだから」
「そんな勘違いはしませんよ!もう!」

スミレはぱんっと手帳を軽く叩いた。

「私こそ意地悪みたいに言わないでください。ほんとにもう」
「悪かったって。話を戻すと、やっぱりこれ以上ないチャンスだと思うんだ、聖山は教会の管轄だから、普通なら入れないしね」
「そうですね。チャンスではあると思います」
「イワンが悩んでいたのは、どうやったらミズリィが調査に参加できるか……ということですのね」

アリッテルが言いながらいちごをぱくりと口に入れた。

「そう、多少無理をしてでも調査に潜り込めたらって……ミズリィ、君はどうしたい」

イワンが、まっすぐにミズリィを見た。

「君がどうしても嫌なら仕方がないと思うんだ。けど、ちょっとでも気になるなら、」
「わたくし、見に行きたいですわ聖山へ」

封印はとつぜん解けた。理由は分からなかった。
もし、何か予兆や手がかりがあるのなら。それを今見ることができるなら――

「もしかしたら、今分かれば、封印が解けなくなるかもしれないと、イワンはおっしゃるのよね」
「うん、その通りだミズリィ。何か対策が取れるかもしれないしね」

イワンは満足そうに頷いた。
なんとなく、最近は彼らの言っていることがちょっとずつわかってきた。

「大精霊の仕業で被害があったと言うし、封印が解けないことにこしたことはない。そうでなくても被害は最小限になる方がいいだろう?それに、うまく行けば君のせいにされない」

そう、ミズリィのせいにされ、処刑されるきっかけなのだから。
イワンは手を軽く打ち合わせた。

「なら、決まりだな。ただ――僕には伝手もないしコネもない。あといつその調査が始まるのか、今準備はどの程度なのか……」

イワンがフォークを持って、皿の上にチョコレートケーキを載せた。

「そうですね、あまりこういう偉い方の話ってなかなか聞かないですもんね……」

スミレが頷きながらカップを手に取っている。
ミズリィはタルトのオレンジクリームのなめらかさと酸味に目を細めながら、考えた。

……イワンは調査されることは知ってたけれど、それがいつかはわからない。調査にミズリィを参加させたいけれど、その方法がない……
ともかく、ミズリィが調査についていけるようにしたい、と。
口の中のものを飲み込んで、ミズリィは言った。

「殿下にお聞きすれば分かるかしら?」
「殿下に?……たぶん、分かるけど、その、ミズリィ」
「無理はしていないか?」
「ミズリィ……」

びっくりしたようなイワンや、他のみんなの目をひとつずつ見返して、ミズリィは微笑む。

「最近、殿下とはよく話せているような……気がしますの。大丈夫ですわ、きっと」

2年前にテリッツ皇太子との行き違いや思いの違いを聞いてから、少しずつだけれど、自然に会えるようになった。
今ではあまり『前』のことは思い出さなくなっている。

「君が言うなら……」
「イワン様、でも」

スミレが不安そうにイワンとミズリィを交互に見た。

「けれど、わたくし何を言っていいのか分かりませんの。殿下にお聞きしたいこと、聞いてはいけないことはみんなに教えてほしいのだけれど」
「まあ。いいわよ、ねえスミレ?」

オデットがふんわりと笑って、スミレに顔を向ける。
スミレは戸惑っていたようだけれど、オデットに小さく苦笑した。

「……はい。お手伝いします」

イワンが、満面の笑みだった。

「よし、じゃあ、聞きたいことだね。まずは……」



皇宮のお茶会は、前よりは回数が少なくなったものの、定期的に行われている。
ミズリィがこの時間に戻ってきた直後には、どうしても怖くて不安で楽しむことなんてできなかったけれど、今ではずいぶんと慣れた。
テリッツを必要以上に気にしなくなって……もしかしたら、『前』よりも緊張しなくなったかもしれない。

けれど、今日は久しぶりの緊張を覚えながら、ミズリィはお茶会に挑んだ。

「殿下。今日はお願いがあって……」
「お願い……ですか?」

テリッツは微笑んで向かいの席のミズリィを眺めた。
今日は夏らしい日差しで、風も吹いているため、窓が大きなお部屋でのお茶になった。テーブルは少し広くて、水菓子を中心にきれいな彩りで並んでいる。

「その、人払いをお願いしたいのですが……」

あまり人に聞かれたくないとイワンが言っていたので、テリッツに言ってみると、あっさりと彼はメイドと護衛を下がらせた。

「今日はなんとなく君がそわそわしていると思っていたんです」
「お分かりになっていたのね」

さすがテリッツだ、よく見ている。

「その……お聞きしたいことがありますの」
「ええ」
「……聖山への調査を、教会が行うということを聞いたのですが、その、学院が一緒にしてほしいという、協力のことも……」
「イワンは本当に耳が早いね」

くす、と笑ったテリッツには、誰が聞いてきたのかお見通しだったらしい。

「そうです、教会が聖山の調査を近々行う予定で、学院に協力の要請がありました。なんでも、念入りに調査したいので、別の視点もほしいと」
「……そうですのね」

ひとつ、聞きたいことが聞けた。順調だ。

「……では、皇宮魔術師団ではない理由は……」
「そこまでは、私も失念していた。国としてはどちらでもかまわない……という答えになりそうですね、特別学院でなければならない理由も、教会にあるとは思えません。ただ、ひとつ理由があるとすれば……学院のほうが直接頼みやすいということですね。皇宮魔術師ですと、どうしても皇宮の許可がいりますが、学院は学院長が判断するだけです。そして同行するのは学術的視点を持った研究専門の魔術師になるでしょう」

「ええと……学院は許可が出やすい、ということですのね」
「そうです」

一生懸命、頭に入れた。指折り数えて、聞きたいことを思い出す。

「……では、この調査はあまり国には関係のないことですの?」
「ああ。私が知っている限りでは、皇宮も特に注目しているわけではないし、問題はありませんね」
「……そうです、か。では、もしわたくしが調査に参加したければ、どうすればよいのかしら?」

もし、国が大きく関わっているのなら、テリッツに頼めないか、というのがみんなの意見だった。
けれど、そうではないのなら、何か次の方法を考えなければいけない。
その方法について、テリッツにすこし話を聞けないか――ということだ。
テリッツは目を見開いた。

「……なぜ、調査に参加したいのですか?」
「教会のことについて興味がありますの」

やはり、理由を聞かれた。イワンたちが言った通りだ。

「その……わたくしの友人であるハリセール嬢のことが、前にありましたでしょう?そういえば教会と神殿の違いというのは、わたくしは全然知らないということに気づいたのですわ。勉強はそれなりにしたのですが……ハリセール嬢から、召喚は神殿が得意だと聞いたので、教会は、と……」
「ああ、なるほど」

しどろもどろに答えたミズリィに、あっさりとテリッツは納得したようだった。

(よかった……疑われなかったわ)

一生懸命、オデットの顔を思い浮かべながら言ったらうまくいったようだ。
テリッツは顎に指先を当てて、

「……普通なら、教師と研究室の生徒で参加することになるでしょう。今はまだ具体的に決まっていないようなので、学院長にお話すれば聞いてくれるかもしれません」
「学院長に……ですのね」
「人員は絶対に誰それと決まっているわけではないでしょうし。……私からも、学院長に話しておきます」
「え、えっと、それは悪いことではございませんの?」

皇子が直接頼むなんて、彼にも、他の人にもいろいろと迷惑にならないだろうか。

「ちょっと話すだけです。悪くはない」

ふとテリッツは笑った。

「それに、君は魔法についてなら成績上位、品行方正の令嬢だ。調査に加わっても問題ないはずだ」
「そ、そうですの?」
「ええ、君は魔法がよく『見える』らしいから、むしろ喜ばれるかもしれません」
「見えるといえば……見えますけれども」

他人の式や魔力でも、ミズリィの固有魔法『式化』のおかげでだいたい見える。なかなか見えるという魔術師もいないらしいと聞いた。

「心配はしなくていいはずだ。お願いというのは、この調査のことですか?」
「はい。他に頼る方がいなくて……」
「私を頼りにしてくださって、うれしいです」

穏やかに笑うテリッツに、なんとなくミズリィはくすぐったくなる。

(よかったわ……ちゃんと、みんなに報告しないと……)

それが一番大変で、重要だ。
もう一度指折り数えて、聞いたことをしっかり覚えた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

美化係の聖女様

しずもり
ファンタジー
毒親の仕打ち、親友と恋人の裏切り、人生最悪のどん底でやけ酒を煽り何を思ったのか深夜に突然掃除を始めたら床がドンドンって大きく鳴った。 ゴメン、五月蝿かった? 掃除は止めにしよう、そう思った瞬間、床に現れた円のようなものが光りだした。 気づいたらゴミと掃除道具と一緒に何故か森の中。 地面には気を失う前に見た円が直径3メートルぐらいの大きさで光ってる。 何コレ、どうすればいい? 一方、魔王復活の兆しに聖女を召喚した王城では召喚された筈の聖女の姿が見当たらない。 召喚した手応えはあったものの目の前の床に描かれた魔法陣には誰も居ない。 もしかして召喚先を間違えた? 魔力の残滓で聖女が召喚された場所に辿り着いてみれば聖女はおらず。 それでも魔王復活は待ってはくれない。 それならば聖女を探しながら魔王討伐の旅へ見切り発車で旅する第二王子一行。 「もしかしたら聖女様はいきなり召喚された事にお怒りなのかも知れない、、、、。」 「いや、もしかしたら健気な聖女様は我らの足手まといにならぬ様に一人で浄化の旅をしているのかも知れません。」 「己の使命を理解し果敢に試練に立ち向かう聖女様を早く見つけださねばなりません。」 「もしかして聖女様、自分が聖女って気づいて無いんじゃない?」 「「「・・・・・・・・。」」」 何だかよく分からない状況下で主人公が聖女の自覚が無いまま『異世界に来てしまった理由』を探してフラリと旅をする。 ここ、結構汚れていません?ちょっと掃除しますから待ってて下さいね。掃除好きの聖女は無自覚浄化の旅になっている事にいつ気付くのか? そして聖女を追って旅する第二王子一行と果たして出会う事はあるのか!? 魔王はどこに? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 不定期更新になります。 主人公は自分が聖女だとは気づいていません。 恋愛要素薄めです。 なんちゃって異世界の独自設定になります。 誤字脱字は見つけ次第修正する予定です。 R指定は無しの予定です。

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

クラス召喚されて助かりました、逃げます!

水野(仮)
ファンタジー
クラスでちょっとした騒動が起きていた時にその場に居た全員が異世界へ召喚されたみたいです。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

処理中です...