先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい

月輪林檎

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先祖返りの真祖

リーシア・ノスフェラトゥ・クリムソン

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 それから更に数週間が経過していった。セレーネの授業に地理などが増え、プレゼントとして科学と魔術の本が贈られた。本を貰ったセレーネは、大層喜び毎日寝る前に読んでいた。
 そして、今日はセレーネに来客があった。事前に伝えられていたカノンは、屋敷の玄関口まで迎えに行き、セレーネの居室に案内する。

「お嬢様。お客様です」
「?」

 何も心当たりのないセレーネは首を傾げていた。そこに、客人が入ってくる。黒いドレスと外套を纏った銀髪赤眼の女性だ。その姿を見ても、セレーネは誰だか分からなかった。

「お久しぶりです。セレーネは覚えていないでしょうが、私達は一度会っているのですよ」
「え? いつ?」
「…………あなたが二歳の時でしょうか? いけませんね。永く生きていると、時間の流れが分からなくなってきます。今は五歳でしたね?」
「うん」

 ここまで言われても、やはりセレーネに心当たりはない。そんなセレーネに気付いて、カノンが耳打ちする。

「お嬢様の封印をされた真祖様であり、お嬢様のご先祖のリーシア・ノスフェラトゥ・クリムソン様です」
「封印? これ?」

 セレーネは、自分の身体に刻まれている赤い紋様を指す。それに対して、リーシアが頷く。

「はい。その封印の更新のために来ました。手を出してください」
「うん」

 セレーネが両手を前に出すと、リーシアが両手を取った。すると、セレーネの身体に刻まれている紋様が光り始める。一分程そうしていただろうか。少しずつ光が収まっていった。

「想定よりも魔力が増えていましたね」
「一応、健康のために運動をしてもらっていたのですが、不味かったでしょうか?」

 カノンがリーシアに確認する。

「いえ、これは私の想定が甘かっただけです。運動の方は続けて下さい。体力を付ける事は、魔力や使用出来る魔術の増加に繋がりますが、あなたの言う通り健康にも必要ですから。それらを想定した調整をしましたので、しばらくは心配ないかと。近くに引っ越す予定ですので、都度調整はいきます」
「なるほど。分かりました」

 カノンとリーシアが会話している間、セレーネはリーシアの事をジッと見ていた。それに気付いたリーシアは、セレーネと目線を合わせるために屈む。

「どうかなさいましたか?」
「何て呼べば良い?」
「リーシアちゃんでも何でも構いませんよ。血は繋がっていますが、もう十代以上前ですから」
「じゃあ、リーシアちゃん!」
「はい」

 リーシアは、本当に気分を害した様子もなく微笑んだ。

「リーシアちゃんって、私と同じなの?」
「そうですね。恐らく、私の因子が先祖返りで現れたのだと思います」
「それじゃあ! 眷属をやめさせる方法とかって分かる!?」

 先程カノンから耳打ちされた内容に真祖という言葉あったため、もしかしたらと思っていたのだ。

「眷属をやめさせるですか……正直、考えた事がありませんでしたね」
「分からない?」
「申し訳ないのですが、分かりかねますね。眷属をやめたいと言われたのですか?」
「ううん。でも、勝手に眷属にしちゃったから……」
「なるほど……セレーネは、最初の吸血衝動が早く来てしまいましたから、相手の了承もなかったのでしたね。まぁ、特に気にしないでも良いような気もしますが、気になるのなら眷属をやめさせる方法を見つけるしかありませんね」
「出来るの?」
「そこまでは分かりません。ですが、人族を吸血鬼族に変えているという点から、人族に戻す方法があってもおかしくはないかもしれませんね」
「そっか……じゃあ、頑張って見つける!」
「そうですか。頑張って下さい」

 リーシアは、優しくセレーネの頭を撫でる。リーシアが調べるという方法もなくはないのだが、当人がやる気を出しているので、望まれた時に手を貸すだけに留めるつもりでいた。

(亜人学と生物学、医学にも繋がりそうですが、この子には無限の時間があるから大丈夫でしょう)

 リーシアの考え方は、どこまで行っても真祖としての考え方でしかなかった。

「そういえば、奥様が家庭教師を手配すると言っておられましたが、もしかして、リーシア様が?」
「いえ、私は封印の調整のためにいるだけです。家庭教師は別で雇うのだと思います。私も自分の研究をしたいですから」
「研究?」
「はい。私は魔術薬学を専門に研究していますね」
「?」

 リーシアの説明だけでは、何も分からず、セレーネは首を傾げていた。

「魔力や魔術を用いた薬学です。特殊な薬を作り出したりと様々な事が出来ます。かなり難しいので、研究をする人は少ないですね」
「へぇ~」
「お嬢様がお飲みになる薬は、通常の薬学で作られたものになります。子供の身体には、魔術薬は強すぎるので、逆に身体を壊してしまうのです。ですが、難病や重傷者を治すためには、魔術薬が必要になります」
「そうなんだ」

 カノンの補足に、セレーネは納得した。
 魔術薬は、通常の病や怪我には、あまり利用されない。それは効力が高すぎるため。ある程度健康な状態では、逆に毒になってしまうのだ。だが、その魔術薬が癒す病や魔術薬であれば命を繋げられる怪我もある。そのため、一定の需要を満たしており、仕事は絶えない。

「興味があれば、今度教えましょう。引っ越しの準備もありますので、私はこれで失礼します」
「玄関口までお送りします。お嬢様は、お部屋にいてください」
「うん」

 リーシアは、カノンに案内されて屋敷を出て行った。セレーネは、自分の腕にも広がっている紋様に触れる。

(封印……これも魔術? 魔術の本には書いてなかったよね)

 セレーネは、カノンからプレゼントされた魔術の本を捲っていく。その間に、カノンが帰ってきた。

「お嬢様。外で運動のお時間ですよ」
「もうちょっと待って」

 ページを捲っているセレーネの後ろからカノンが覗く。

「何の魔術をお探しで?」
「私のこれも魔術なんだよね?」

 セレーネは、カノンに自分の腕を見せる。それだけで、セレーネが見せたいものが何かをカノンは察した。

「そうですね。私にも分からない高度な魔術です」
「カノンも分からないの?」
「はい。私も魔術に精通している訳ではありませんので。高等部でも専門に勉強したのは、亜人学でしたので」
「亜人学?」

 初めて聞く名称に、セレーネは本から顔を上げてカノンを見る。

「亜人の生態を研究する学問です。人族の生態を研究する学問は、人学という名称があります。亜人学の中でも、獣人についての勉強をしていたので、魔術に関しては、理論だけしか分かりません。そもそも簡単な魔術しか扱えませんし」
「ふ~ん……吸血鬼族については勉強しなかったの?」
「軽く習った程度です。なので、お嬢様が抱えている問題も理解は出来ています。ですが、それを封印する魔術となると、何も分かりません」
「そうなんだ」

 結局、リーシアがセレーネに施した封印の原理は謎のままとなった。これらを解き明かすためにも、セレーネは魔術を習いたいという欲が出て来ていた。

「魔術の家庭教師っていつ来るの?」
「奥様がお嬢様にぴったりの家庭教師を探しておられるので、もうしばらくお待ちください」
「ふ~ん……早く習いたいな」
「それに備えて、まずは身体作りです! 今日も元気に追いかけっこをしますよ!」
「えぇ~……」

 カノンは、手早く片付けを行い、セレーネを外へと連れ出す。そして、元気よく二人で追いかけっこをし始めた。体力も付き始めているので、段々とカノンに近づく事が出来ているのだが、その度にカノンの方も速度を上げているので、すぐに離される。こうして、どんどんとセレーネの体力がついていく事になる。
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