先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい

月輪林檎

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学園中等部

初めての友達

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 試験用紙を纏めた教師は、座っているセレーネの元に来る。

「では、使用人待機室に向かいましょう」
「良いの……んですか?」
「はい。想定以上に早く終わってしまったので、カノンさんもまだ来ないでしょうから」
「う……はい。お願い……します」
「はい」

 教師に連れられて、セレーネは校舎を歩く。その中で、セレーネは教師に訊きたい事があった。

「カノンと知り合いなの……ですか?」
「そうですね。新任の教師以外は知っているでしょう。カノンさんが在籍していた世代は、次代の剣聖、次代の賢者、次代の聖女、次代の大魔道士、次代の巨匠、次代の画伯など、次の世代を担う事の出来る人達が勢揃いでした。さらに言えば、全員が全員一つの分野だけに特化している訳では無く、他の分野にも一定の学力を持っていました。その中で、カノンさんは次席という成績を残して卒業したのです」
「カノンも何かが特化してたの……ですか?」
「いいえ。そういった生徒達と比べたら、カノンさんはある分野が優れているというものはありませんでした。どの分野においても、絶対に上がいました。ですが、それでも次席に着くことが出来る成績だったのです」
「ふ~ん……あっ、そうなんだ……ですね」

 カノンの学生時代に、少し興味を抱いたところで、使用人待機室に着いた。

「ここですね」
「ありがとう……ございます」
「はい。入学の日をお待ちしています」
「中等部にも来るの……ですか?」
「私は、元々中等部の教師ですので。今日は、飛び級試験の試験官として小等部いたのです」
「へぇ~……あっ、そうなんで……すね」
「では、失礼します」

 教師は頭を下げてから離れていった。それを見送ったところで、セレーネは一つ気付いた事があった。

「あっ……名前聞いてなかった……まぁ、入学した時でいっか」

 そう呟いて、使用人待機室に入る。すると、カノンが入口の前に待っていた。

「試験は終わりましたか?」
「うん。全部満点で飛び級だって」
「おめでとうございます。それにしても、想定より早かったですね」
「簡単だったよ」
「そうでしたか。しっかりと覚えていらっしゃったようで、私も誇らしい気持ちです。では、屋敷に帰りましょうか」
「うん」

 カノンと手を繋いだセレーネは、学園の出口へと向かって歩く。その途中で、正面から豪華な服に身を包んだ少女がやって来た。少女は、紫みを帯びた深い青色の髪にサファイアのような青い瞳をしている。その隣には、シックなデザインの服を着たメイドがいた。メイドは、濃い青緑色の髪に少女と同じような青い瞳をしている。

「あら、あなたも入学試験?」

 少女がセレーネに訊く。

「うん」

 セレーネが頷いて答えると、少女は腰に手を当てて胸を張る。

「じゃあ、同級生になるかもしれないのね。私は、フェリシア・ウルトラマリン。ウルトラマリン伯爵家の令嬢よ! あなたと友達になってあげても良いわよ!」
「ふ~ん……あっ、私はセレーネ・クリムソンだよ。よろしくね」
「へ……? クリムソン……?」

 セレーネの家名を聞いたフェリシアは、少しずつ表情が抜けてきた。伯爵と侯爵。より上の爵位がどちらか分かっていたからだ。
 固まっているフェリシアに並んだメイドが頭を下げる。

「申し訳ありません。お嬢様は、家が伯爵家という事で、少々高飛車になっている節があります。ですが、悪気があった訳ではありません。純粋に同級生となるなら友達になりたいと思っただけなのです」

 メイドは、あまり感情の乗っていない声でそう言った。

「うん。全然気にしてないよ。あなたは誰?」
「失礼しました。フェリシアお嬢様の専属メイドをしておりますジーニー・ピーコックと申します」
「よろしくね」
「よろしくお願い致します」
「私は、セレーネお嬢様の専属メイドをしていますカノン・アガットです。よろしくお願いします」
「はい。同じメイド同士仲良くして頂けると幸いです。よろしくお願いします」

 ジーニーは変わらず、あまり抑揚を付けずにそう言った。ジーニーとカノンの自己紹介も終わったところで、ようやくフェリシアが再起動した。

「はっ! あ、あの……」
「ん? 何?」

 セレーネが笑顔でそう言うと、フェリシアは少しだけ顔を赤くしながらまごまごとしていた。

「その……」
「さっきみたいに話しても大丈夫だよ」
「あ、ありがとう」

 言葉遣いを急に直すのは難しい事だとセレーネも先程学んだ。それを抜きにしても、セレーネはフェリシアに不快な思いをさせられたとは思っていないので、本当に気にしていなかった。

「セレーネ」

 フェリシアでもジーニーでもない女性の声で、セレーネが呼ばれた。その声を聞いたセレーネは輝かんばかりに笑顔になると、その声の方を振り向いて駆け出す。

「お姉様!」

 そこにいたのは、真紅色の髪を首の後ろで一つ結びにした碧眼の女性だった。名前をテレサ・クリムソンと言う。
 そんなテレサに、セレーネは飛びついた。

「セレーネ。急に走ると危ないわ」
「は~い」

 テレサの声は、ジーニーのように平坦な声だった。だが、少しだけ咎めるような雰囲気がある。だが、セレーネは笑顔で返事をしていた。テレサに会えた事が嬉しいためだ。

「あの子はお友達?」
「うん。さっき友達になったの。フェリシアだよ」
「そう。ウルトラマリン家の」

 そう言ってテレサはフェリシアを見る。セレーネがお姉様と呼んだことで、テレサもまた侯爵家だという事を察したフェリシアは緊張していた。いや、緊張していた理由はそれだけではない。テレサは、先程から常に無表情であったため、少し怒っているようにも見えていたからだった。
 セレーネと共にフェリシアの傍に来たテレサは、フェリシアの頭を撫でる。

「セレーネをよろしく」
「は、はい!」
「それじゃあ、フェリシア、学園でね」
「え、ええ。また」

 フェリシアは、小等部へと向かって行く。ジーニーは最後に三人に頭を下げてからフェリシアを追っていった。

「お姉様は帰り?」
「いいえ。セレーネを見つけたから来ただけよ」
「えぇ~……もっとお姉様と居たい」
「無理よ。学園をサボる訳にはいかないもの。学園が始まれば、セレーネも忙しくなるわ」
「むぅ~」

 そう言われて、セレーネはテレサの胸に顔を擦り付ける。そんなセレーネの頭を、テレサは優しく撫でる。

「前までとは違って、同じ王都にいるのだから、また会えるわ。私も暇を見つけたら、会いに行く」
「本当!?」
「ええ。時間があれば。アカデミーは忙しいから、どうなるか分からないけれど」
「今日は!?」
「今日は行けるわ」
「じゃあ、こっちに泊まろう!? もっと一緒が良い!」
「分かったわ」
「やった!」

 セレーネは飛び跳ねて喜ぶ。嬉しそうなセレーネを見て、カノンも笑顔になっていた。

「それじゃあ、まだ授業があるから」
「うん! 後でね!」

 セレーネとテレサは手を振り合って別れた。カノンは、即座にセレーネと手を繋ぐ。テレサと過ごせると知ったセレーネが大興奮でどこかに行かないようにするためだ。

「カノン! カノン!」
「はい。あまり興奮しすぎると、早く眠くなってしまいますよ」

 カノンがそう言うと、セレーネはスンッと大人しくなった。

(この方法が普段から使えれば……)

 カノンは、心の中で長く息を吐く。

「そういえば、フェリシアと同級生になるには、フェリシアも小等部を飛び級で卒業しないといけないんだよね?」

 大人しくなったセレーネの話題は、フェリシアの事だった。

「そうですね。ですが、ウルトラマリン家の神童と言われているようですから、問題ないと思いますよ」
「えっ? カノンはフェリシアの事知ってたの?」

 ウルトラマリン家の神童と知っていたという事は、フェリシアの事自体を知っていたという事になる。その事にセレーネは驚いていた。

「はい。お姿は初めて拝見しましたが、お名前と神童だという事はご近所の方から聞きました」
「カノンって社交的だよね」
「いえ、偶々井戸端会議に巻き込まれただけですね。他には、そこまで話題になる子供はいませんでしたね」
「ふ~ん……飛び級で入学する生徒ってどのくらいいるの?」
「いない時もあれば、五人ほどいる時もありますね。ですが、飛び級で入る事が出来ても、中等部の勉強に付いて行けずに、留年し続けて結局元の世代に合流する事も珍しくありません。お嬢様も勉強はしっかりとしておいてください」
「うん」

 セレーネは素直に頷いた。セレーネに注意していたカノンだったが、実際にはそこまで心配はしていなかった。カノンが担当している授業は、中等部の内容も含まれていたからだ。だが、それでも足元を掬われる事もある。注意はしておいた方が良かった。
 セレーネ達は、そんな話をしながら屋敷へと帰っていった。
 そして、テレサと夜を過ごしていく。一緒に夕食を摂り、お風呂も一緒に入った。どちらでもカノンはテレサにべったりだった。それに対して、テレサは特に怒るという事もなく受け入れていた。寝る際にも同じベッドに入り、べったりとくっついていた。そこで他愛のない話をしていると、セレーネが寝落ちしてしまったので、テレサは、セレーネの身体にしっかりと掛け布団を掛けて、セレーネの頭を優しく撫でてから眠りについた。
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