捨てられた王女は魔道具職人を目指す

月輪林檎

文字の大きさ
46 / 93
成長する王女

魔武闘大会(4)

しおりを挟む
 闘技場に向かい合わせでセレナとアイリが立つ。クリストン姉妹対決が始まろうとしていた。

「どっちが勝つと思う?」

 マリーが周りの皆にそんな事を訊く。

「どうでしょうか? 相性的には、アイリさんが有利ですが、速さで勝負すれば、セレナさんにも勝機があると思いますの」
「そうだね。片や剣、片や魔法だから、射程的に考えると、アイリさんが有利かな」
「コハクと同じように、セレナも速度型だからな。アイリの魔法の前に攻撃すれば、どうにかなるだろう。やはり、Sクラス同士の戦いは面白いな」

 そのような事を話していると、審判の先生が開始の合図を出した。

『これよりBブロック決勝戦を開始する。はじめ!!』

 合図と共にセレナが動き出す。細剣を抜きながら駆け出し、一直線にアイリの元に向かった。対するアイリは、

「『黒霧ブラックフォグ』!」

 黒い霧を発生させて、セレナの視界から身を隠した。セレナが、このまま突っ込んでも、アイリの元に辿り着けるかはわからない。

「そうくるなら『風爆ウィンドバースト』!」

 風の爆発が、アイリの出した黒霧を吹き飛ばす。風爆は、マリーが自分の靴に付けている魔法だ。
 風爆によって、霧が晴れた闘技場に、アイリの姿がなかった。

「え!?」

 霧さえ晴らせば、アイリの姿が見えると考えていたセレナは、驚愕し立ち止まってしまった。

「『闇弾ダークバレット五連クインティプル』」

 セレナの左側に姿を現したアイリは、直ぐさま闇の弾を五連続で放った。

「うわっ!」

 持ち前の運動神経で何とか避けるセレナ。その避ける位置に向けて、アイリは手のひらを向ける。

「『重力床グラビティフロア』!」

 セレナを中心とした五メートル範囲に重力が増すエリアが展開された。

「こんなもの! 『風爆《ウィンドバースト》』!」

 セレナは、自分の足下で風の爆発を起こす事で身体を吹き飛ばし、無理矢理、重力床から離れた。

「やっぱりそう簡単に捕まえられない……でも、まだ手はある!」

 意気込んでいるアイリに対して、セレナは若干焦っていた。

(危なかった……なんでアイリの姿がなくなったのかは分からないけど、何か弱点があるはず……せめて、まで距離を縮める事が出来れば)

 セレナがそう考えていると、アイリの手が動く。

「『風纏《ウィンドウェア》』」

 アイリが、再び魔法の準備をしようとしているのに勘づき、セレナは風を纏ってその場から高速で移動する。
 風を纏ったセレナに対して、アイリは自分の周りを闇で覆って、セレナの接近を防いでいた。

「この密度だと接近できない……!」

 セレナは、どうすれば良いかを考えつつ走り続ける。常に動いていれば、位置を特定されて狙い撃ちされる確率が減ると考えての行動だ。

「セレナは、きっと動き続けているはず……点での攻撃は効果が薄い……だから、範囲攻撃が一番!」

 アイリは、手を地面に付ける。

「『闇の衝撃ダークインパクト』」

 黒い闇の波動が地面を伝って全方位を駆け抜けていく。これは、闇魔法と力魔法の複合魔法だ。消費魔力は大きいが、今のアイリなら難なく放てる。

「っ! やば!!」

 セレナは、直感で地面にいなければ大丈夫と判断し、地面を思いっきり蹴って、風の力を借り、一時的に空へと退避する。地面を走った闇の波動はセレナの直感の通り、空中にいたセレナに当たる事はなかった。

「やっぱり……いや、違う!」
「『闇弾ダークバレット三連トリプル』!」

 アイリは、空中に逃れたセレナに対して、的確に闇の弾を三発放った。

「空中なら避けきれないでしょ!」

 アイリが勝ちを確信する。しかし……

「おりゃあ!!」

 威勢の良いかけ声と共にセレナの身体が横に吹っ飛んでいく。

「えっ!?」

 これにはアイリも驚きを隠せなかった。それだけでなく、観客席にいる者達も眼を剥いた。

 ────────────────────────

 観客席のリリーも思わず立ち上がった。

「浮遊魔法!?」

 浮遊魔法は、使える者はほとんどいない超高等魔法と呼べる魔法だ。

「いや、違うよ。あれは、多分自分に風の弾を当てただけだね」

 驚きを隠せないリリーにそう言ったのはリンだった。

「えっ!? じゃあ、浮遊魔法ではありませんの?」
「ああ、そうだろうな。浮遊魔法にしては挙動が若干おかしい。それに、どう見てもセレナ自身にもダメージが入っているからな」

 リンの意見にアルも同意した。二人がそう言うのであれば、違うのだろうと判断して、リリーも座る。

 ────────────────────────

「痛ったぁ……」

 セレナは背中に衝撃を受けて、結界のおかげで痛みを感じないはずなのに、思わず、そう呟いた。

「よくも姉に向かって、やってくれたね! アイリ、お仕置きだよ!」
「やだよ!」

 風の後押しを受けたセレナが、アイリに向かって突っ込む。

「来ないで! 『暗黒弾ダークネスバレット』!!」
「上位魔法!?」

 アイリは今まで使った事がない闇魔法の上位属性である暗黒魔法を使った。魔法の上位属性は、存在するものとしないものがある。闇属性は、ネルロも使っていた通り、暗黒属性となる。
 闇の弾よりも太く速い暗黒の弾が、突っ込んでくるセレナに向かって飛んでいく。

「それなら!!」

 セレナの細剣に風が巻き付いてくる。

「『貫通ペネトレーション暴嵐テンペスト!!』」

 セレナの細剣に巻き付いていた風が密度を上げていった。そして、風を纏った細剣が、アイリの放った暗黒の弾とぶつかった。

「えっ!?」

 これは観客席からまばらに聞こえてきた声だった。それくらいに衝撃的な事が起こったのだ。
 通常、魔法と剣がぶつかり合えば、十中八九剣が負ける。たとえ、細剣に風魔法を巻き付けていたとしても、上位魔法である暗黒魔法に勝てる訳がない。しかし、目の前で起こった事は、その真逆だった。
 ぶつかり合ったセレナの細剣とアイリの魔法は、一瞬拮抗したが、すぐにセレナの風がアイナの暗黒を斬り裂いた。そして、それだけに留まらず、セレナの風は、真っ直ぐにアイリの身体を貫いた。

「うぐっ!」

 その一撃は、アイナの意識を飛ばすのに十分な威力だった。一瞬身体を浮かせたアイナは、そのまま地面に倒れ込んだ。

『勝負あり! 勝者セレナ・クリストン!』

 観客席は大いに沸いた。歓声が闘技場に響き渡る。

「勝てた……はぁ、危なかった……」

 セレナは、息も絶え絶えの状態だった。その状態でアイリの傍まで向かう。

「アイリ、大丈夫?」

 アイリの傍らに膝を突いて声を掛ける。しかし、アイリが返事をする事は無かった。

「すぐに目は覚めないか……」

 セレナが声を掛けるのとほぼ同時に医療班が到着してアイリを担架に乗せ、医務室まで連れて行く。それを見送ってから、セレナは、皆の所に向かった。

 ────────────────────────

「すごいね」

 マリーが発したのはその一言だけだった。その声は、周りの歓声にかき消されずにアルの耳まで届く。

「そうだな。アイリもセレナも確実に成長している」
「アイリさんの上位魔法。セレナさんのオリジナルの進化。どっちも並大抵の努力で出来るものではないね」

 アルの言葉に、リンも思わず頷きながらそう言った。

「何故、セレナさんの細剣がアイリさんの魔法を破れたのですの? アイリさんの魔法は上位魔法で、威力は私達が普段使うものよりも強いはずなのではなくて?」

 リリーが、首を傾げて訊く。

「そうだね。アイリが使ったのは闇魔法の上位魔法である暗黒魔法。対して、セレナが使ったのは、風魔法の応用で貫通力と威力を上げた細剣。普通に考えれば負けるのは、セレナの方だった」

 リリーの疑問にマリーが答える。

「だけど、セレナが実際に使ったのは前に使ったものを進化させたものだった。ここから見た限りでは、前よりも風の密度が濃くなっているって感じかな」
「それだけで、上位魔法に打ち勝てるものですの?」
「私もセレナの技を、全部知っているわけじゃ無いから、はっきりとした事言えないけど、細剣から風が撃ち出された様にも見えたんだ。セレナの技が上位の魔法に打ち勝つ事が出来た一番の要因は、通常よりも濃い密度で撃ち出された風の弾にあるんだと思うよ。それは、ある意味で言えば、上位魔法である嵐魔法とも言って良いくらいにね」

 マリーは、自分が分かる範囲内でリリーに説明した。

「そのくらいの密度の風であれば、暗黒魔法とも拮抗出来たんだろう。実際、一時的にだが、拮抗状態になっていたしな。これは、俺の予測だが、風の密度を正面に集中させていたんじゃないか」

 マリーの説明の後に、アルがそう付け足した。その直後に、セレナがマリー達の元に戻ってきた。

「ただいま」
「おかえり、おめでと」

 マリーがそう言うと、セレナは照れくさそうに笑った。

「少し危なかったけどね」
『続いて、Cブロック決勝戦を開始する!』

 セレナが席に着くと同時に、次に試合の招集がされた。

「呼ばれた。行ってくるよ」
「私もですわね」

 リンとリリーが立ち上がり、闘技場まで降りて行く。次の激戦が始まろうとしていた。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。

ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」 夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。 元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。 "カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない" 「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」 白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます! ☆恋愛→ファンタジーに変更しました

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...