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最終稿① トゥルーエンドの条件・婚礼
しおりを挟むノーヴァ帝国皇太子クローヴィスと公爵令嬢ナディアの婚約発表から約半年後。
季節は再び、夏に向かって進んでいた。
今日は王都の教会で、クローヴィスとナディアの婚礼が執り行われる。
この日までに、ナディアは皇帝や皇后を始めとする皇族達に挨拶に行き、ノーヴァ帝国の枢密院に赴き、皇族への忠誠を誓い結婚の承認を得ていた。クローヴィスは公務に追われ、自分一人で挨拶回りをこなす場面も多かった。
クローヴィスには同母の弟妹が一人ずつ。
異母弟妹も十人以上おり、予定を合わせて訪ねて回るのが大変だった。
クローヴィスの同母妹として紹介された第八皇女は、クローヴィスによく似た美少女だった。
だが、彼女は終始ご機嫌斜めで護衛の少年を困らせていたのが印象的だ。さすが巷での呼び名が『わがまま皇女』なだけはある。
第二皇子は、「ふん、クライノートか」と、眼光鋭くやたらツンケンした態度だったし……クローヴィスの弟妹、アクが強すぎる。
しかし、そのクローヴィスの弟妹達の中で、ただ一人、辺境に赴いたクローヴィスの同母弟ヴィラントだけが、二人の婚礼の知らせに何の返事も送ってこなかった。
教会の控室。
花嫁衣装で椅子に座っていて、思わずぼやいてしまった。
「届いてるはずなのに……」
彼のいる辺境は、魔獣達が多く棲息する荒廃した土地だった。
温室育ちの皇子様なのだし、もっとイージーモードの場所を選べばいいのにと思ったが、本人曰く「もふもふが沢山いて良い」とのことだった。
騎士達もついていったから、まさか魔獣に襲われて死んだなんてことはないと思うが……
ヴィラントはクローヴィスに魔法薬を盛られ、私の書いた辺境追放物の物語を信じて王都を去ってしまった。
やろうと思ってやったことではなかったが、彼の人生をデザインしてしまった関係上、少なからず責任を感じる。
とにかく無事であってほしい。
便りが無いのは、やはり自分の元婚約者が兄と結婚なんて複雑だからだろうか。
いや。ヴィラントがそんな一般的な感覚の持ち主なら、その対応にも苦労はしなかった。
人の気持ちを目敏く読んでしまうクローヴィスと一緒にいると、よく腹の探り合いになる。
でもそれは、お互いの思考や感覚が似ているからこそできることだ。
ヴィラントは、読めない。
怒っているのか、悲しんでいるのか、それとも興味が無いのか。
「ナディア。今この時くらい、私のことだけ考えて?」
クローヴィスが、息のかかる距離から見つめてきて驚いた。
だから、心の中を読まないでってば。
婚礼の衣装に身を包んだ彼は、完璧すぎるほどの華やかさだ。
きらめきが強すぎて、宝石が山程縫い留められた花嫁衣装も霞む。
国内外から招かれた列席者達も、式典では彼の姿に釘付けになることだろう。
クローヴィスが、私のドレスに視線を流して軽く息をついた。
「綺麗だ」
「綺麗なドレスですよね」
「こういう定型的な会話には『綺麗なのは君だよ』と続けるといいのかな」
テンプレ台詞しか返せずすみませんね。
この完成された美貌の人と並んで衆目に晒されると思うと、どうしても卑屈になってしまう。
「どんなに綺麗な花嫁でも、クローヴィス様の輝きには及びません」
「ナディア」
クローヴィスは身を屈めて囁いた。
「君が持つ魔女の美しさは、私だけが知っていれば良いんだよ」
恥ずかしさに黙り込んでしまったが、クローヴィスは楽しげだ。
この人に感情を読まれない人間になりたい。
ヴィラントくらい突飛な人間になれば、読まれないのだろうか。
(……無理だなー)
あの皇子は異次元に理解不能で真似できない。
お時間です、という従者の声に、クローヴィスが「分かった」と答える。
「また後でね、ナディア」
クローヴィスは優しく肩を叩いて、扉の向こうに消えた。
清麗な空気に満ちた教会。
高い天井から降り注ぐ、讃美歌と鐘の音。
誓いを立て、口付けをし。
私達は夫婦になった。
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