6 / 18
6.ケイン・ヴァースの呟き
しおりを挟む
「髪の色や瞳こそ違ったが、間違いなく彼女だった」
あの大人びた、いや既に成人した目つきは俺の婚約者に違いない。
あぁ、思えば彼女とは最近までまともに話をしたことはなかったな。
✻~✻~✻
「婚約が決まった」
俺が十五になって間もない頃、確認しておくようにと写真付きの紙を父に渡された。
そこに俺の選択権はない。
一人になり渡された冊子を開らけば、まだ幼い婚約者となった女の子がぎこちなく笑みを浮かべていた。
レイラ・ノウェール
「ノウェール…第二騎士団の副団長が兄か」
確か文官の家系だった気がするが。それだけじゃない、ここ数年で領地運営が大幅に改善し漁業も国内外で成果を上げていると耳にした。
「俺なんかで不服だろうな」
客観的にみて家柄は悪くないとは思う。ただ次男で家を継ぐことはないし、特に戦もない現在に成果をあげる事もないだろう。学園内での成績は悪くないが抜きん出てという訳でもなく。
可もなく不可もなく、普通だ。
「アイラ達に初対面だと態度が悪く見えると言われたらから、むしろマイナスか?」
自分の容姿は、よく分からない。清潔には心がけてはいる。ただ、それだけで、服にも特にこだわりも無い。
婚約者となった彼女に月に一度、いや数ヶ月に一度の会話はどうだったか。
『初めまして』
『今日は』
『〇〇の花が見頃ですね』
『剣での大会はどうでしたか?』
最初の頃は、挨拶がてらの言葉のやり取りはあった気がする。
「あ、俺が悪いのか……」
ある日、待っている間、ずっと手に入らなかった剣術の本を購入できた俺は、読みふけった。婚約者がいつ着席したのかも気づかないほど。
あれからだ。お互い挨拶をして本を読むようになったのは。
「それにしても昨日の茶の時間はなかなかだった」
『契約結婚』
『役割をこなせば自由』
『不貞をして構わない』
『契約内容は書面に残し中央の銀行で保管』
本当に歳下なんだろうか?
「そうか」
彼女に会う度にモヤモヤとした気持ちが沸き起こっていたが、理由が分かった気がする。
「レイラ嬢は、俺を見ていない」
直接的な意味ではない。彼女の意思が私にない。
「彼女にとって、俺は、本当にどうでも良いという事か」
今更だな。
『ロイ、帰るわよ』
不意に、彼女の笑顔とソレが向けられている護衛騎士の様子が蘇った。
チリチリ
………?
何だ、今のは。
何故苛々とした気持ちに?
あの大人びた、いや既に成人した目つきは俺の婚約者に違いない。
あぁ、思えば彼女とは最近までまともに話をしたことはなかったな。
✻~✻~✻
「婚約が決まった」
俺が十五になって間もない頃、確認しておくようにと写真付きの紙を父に渡された。
そこに俺の選択権はない。
一人になり渡された冊子を開らけば、まだ幼い婚約者となった女の子がぎこちなく笑みを浮かべていた。
レイラ・ノウェール
「ノウェール…第二騎士団の副団長が兄か」
確か文官の家系だった気がするが。それだけじゃない、ここ数年で領地運営が大幅に改善し漁業も国内外で成果を上げていると耳にした。
「俺なんかで不服だろうな」
客観的にみて家柄は悪くないとは思う。ただ次男で家を継ぐことはないし、特に戦もない現在に成果をあげる事もないだろう。学園内での成績は悪くないが抜きん出てという訳でもなく。
可もなく不可もなく、普通だ。
「アイラ達に初対面だと態度が悪く見えると言われたらから、むしろマイナスか?」
自分の容姿は、よく分からない。清潔には心がけてはいる。ただ、それだけで、服にも特にこだわりも無い。
婚約者となった彼女に月に一度、いや数ヶ月に一度の会話はどうだったか。
『初めまして』
『今日は』
『〇〇の花が見頃ですね』
『剣での大会はどうでしたか?』
最初の頃は、挨拶がてらの言葉のやり取りはあった気がする。
「あ、俺が悪いのか……」
ある日、待っている間、ずっと手に入らなかった剣術の本を購入できた俺は、読みふけった。婚約者がいつ着席したのかも気づかないほど。
あれからだ。お互い挨拶をして本を読むようになったのは。
「それにしても昨日の茶の時間はなかなかだった」
『契約結婚』
『役割をこなせば自由』
『不貞をして構わない』
『契約内容は書面に残し中央の銀行で保管』
本当に歳下なんだろうか?
「そうか」
彼女に会う度にモヤモヤとした気持ちが沸き起こっていたが、理由が分かった気がする。
「レイラ嬢は、俺を見ていない」
直接的な意味ではない。彼女の意思が私にない。
「彼女にとって、俺は、本当にどうでも良いという事か」
今更だな。
『ロイ、帰るわよ』
不意に、彼女の笑顔とソレが向けられている護衛騎士の様子が蘇った。
チリチリ
………?
何だ、今のは。
何故苛々とした気持ちに?
55
あなたにおすすめの小説
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない
ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。
公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。
旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。
そんな私は旦那様に感謝しています。
無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。
そんな二人の日常を書いてみました。
お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m
無事完結しました!
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
元王太子妃候補、現王宮の番犬(仮)
モンドール
恋愛
伯爵令嬢ルイーザは、幼い頃から王太子妃を目指し血の滲む努力をしてきた。勉学に励み、作法を学び、社交での人脈も作った。しかし、肝心の王太子の心は射止められず。
そんな中、何者かの手によって大型犬に姿を変えられてしまったルイーザは、暫く王宮で飼われる番犬の振りをすることになり──!?
「わん!」(なんでよ!)
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
【完】瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。
姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚
mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。
王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。
数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ!
自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる