触らなくていいです。見てるだけで充分ですから

蝋梅

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11.私、18歳。何故かまた事務員です

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カチカチッ

「レイラさん、これ第二騎士団に持っていってもらえる? そのまま休憩はいって大丈夫だから」
「はい」

 いわゆるパソコンに似た物の画面とにらめっこをしていた私は、顔を上げ書類を受け取った。

「いやぁ、優秀な人材が来てくれてホント助かるわ」
「いえ、至らない箇所が多々あり申し訳ございません」

 謙遜し、自分を下げる言葉を並べていく癖は体に染み付いてしまっており、勝手に口から紡ぎ出されてしまう。

 直ぐに改善できそうにないけれど、なんとか少しでも変えていきたいわ。

 そうだわ。コレを今月の目標にすれば良いのよ。

うしッ!

「第二といえば演習から戻ったばかりだな。婚約者とゆっくり昼食でもとってきなさい」

 えっ、また? つい数日前に食べたばかりなのに。

「……お気遣いありがとうございます」

 いわゆる私の配属先である総務のお偉い様であるダグラス様は恵比寿様の様な顔でニコニコしながら私を送り出した。



✻~✻~✻~



「はぁ」

 何故こんな事になったのだろうか。卒業のダンスは私が前日におさらいをしようと深夜に一人転び手首を骨折した結果、難を逃れた。

「かなり痛かったけど」

 完治するまでの片手での生活も予想より大変だった。

「手が動いて目も普通に見えて。当たり前だから何も気にしていなかったわね」

 体験して普通が普通じゃないのかもとしみじみ感じたわ。

「それにしても事務職に加えて婚約者と兄の職場にかかわる事になるとは誤算だったわね」

 本来ならば学園を卒業する前には就職か研究生、いわゆる院生を選択する者が多い。女性は婚約者がいれば十八歳から婚姻可能な為、早めに相手の家名に入る場合も少なくない。

 なんにせよ何かしら決めるはずなのだ。

「自分が、間違った選択をしてしまった気がしてならないわ」

 私も勿論、色々と考えてはいた。婚姻は伸ばせるだけ後回しにして領地の手伝いでもしようかしらと。

 けれど周囲と私の考えは違っていた。

父『何を言っているだ!レイラは、あんなに幼い時から領地の為に尽くしてくれたんだ。これからは自由にしなさい』

母『レイラが健康でいてくれたら、お母様は幸せよ』

ロイ『俺に相談されても難しいっす』

兄『暇なら騎士団くる?』

 現在の年齢からしても先輩方にあたる方々もいたはず。それなのに残念ながら参考にすらならなかった。

 そんな鬱々としていた時に兄から救いの手がのばされたのだ。

『騎士団は親父が許さないから中での職はどう? 急に辞めたらしく募集をかけると耳にしたけど。働けば家に居づらくないだろうし』

 兄、ライラックの悪気のない至極まともな台詞は、私の心にグサグサと刺さる。

 そう、社畜はイヤだけど無職も居づらいのだ。

「贅沢よね。職に就けただけラッキーだわ」

 望んでいなかった職種だが、多岐にわたる仕事はなかなかに忙しく余計な事を考えなくて済むのは、とても良い。

「失礼します」
「あぁ、毎回済まない」
「いえ」

 第二騎士団の団長に書類を渡すのも最初は威圧感に押されぎみだったが慣れた。

「もうこんな時間か。レイラ嬢はケインと昼食、っとまだ外にいるかもしれないな」
「いえ、特に用事はありませんので。失礼いたします」

公私混同は好きではない。

「さて、どうしようかな」

 とはいえ持参しているお弁当は食べたい。

「あ」

 回廊に見えたケインの姿に思わず柱の後ろに身を隠してしまった。

「あの打ち込み方は振り方が」
「アレが正しいわよ!ケイは頑固ね」
「まぁまぁ」

 訓練を終えたらしい数名の騎士達は、私に気づかずあーでもないと議論をしながら賑やかに去っていった。

「別にやましい事なんてないのにな。私は、何をやっているのかしら?」

 小さくなっていく姿を眺めていたら、ふと以前の言葉を思い出した。

『貴方は、いつも、あの護衛騎士と仲が良いですね』

ケインはどうなのよ。

「学生の時も、騎士団でも、いつも彼女と一緒じゃない」

 優秀な騎士を輩出しているグランド家の次女、アイラ・グランド。

 意思の強そうな大きな赤い目に艷やかな赤い髪を持っケインの幼馴染だという彼女といる時の彼は、笑みを見せるのだ。

「どうせ家名の為だもの」

 私とケインとの関係は、最初から事務的なモノだ。

なのに何故?

「たまに、しんどくなる」

 鬱々とした何かが湧き出てくるのはどうしてなの?



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