触らなくていいです。見てるだけで充分ですから

波間柏

文字の大きさ
10 / 18

10.私、もうすぐ17歳。卒業間近な婚約者と(後)

しおりを挟む

「お待たせして申し訳ございません」
「いえ、先触れなく来たのはは私なので」

 私が教室に忘れた教科書を明日から連休だからと持ってきてくれたのだ。本当にイイ奴だよね。

「何か仰りたい事があるならケイン様からどうぞ」

 だがしかし、柔らかい午後の日差しが降り注ぐ温室なのに、この空気感の冷たさよ。いつから居たのか知らないけれど、どうせ俺と踊りたくないとか生意気なと思っているんだろうな。

「貴方は、いつも、あの護衛騎士と仲が良いですね」
「護衛騎士。ロイとですか?」

仲が良いのか?

 予想とは違っていたので、尋ねられた言葉を考えてみる。

『お嬢は、お上品さがあと一息足りないッスよね。あ、だじゃれができちゃいましたねぇ。アハハ』
『いやぁ詰めが甘いのが惜しいっ』
『何もない所でコケるって、ある意味才能なんすかね』

 なんか、ムカムカしてきた。

「普通かと思いますが。何故、彼が話に出てきたのかが分かりません」
「学年一位なのに分からないの?」

 なんなの?忘れ物を届けにきてくれただけじゃないの?

「理解できません。ケイン様とは踊りたくないと言った言葉を耳にされていたら、そこはお詫びしますし、理由を説明致します」

 珈琲にミルクを入れスプーンでくるりくるりと回す彼が、やっと視線を上げた。

「気分を害しているって?当たり前だよね。婚約者が護衛と仲睦まじくしているんだから」
「は?誤解で」
「今日だけじゃないよ。もうずっとだ。君と婚約した日からずっと目にしている」

 この人、何を言ってるのか?ロイは護衛だから常にいるに決まっているじゃないの。

 カタンと彼の椅子が音を立てた。

「俺のが年上なはずなのに、貴方は、最初から子供を見るような目をしていたけど」

 不意に影ができた。ケインが私を見下ろしているからだ。じっと見られている圧に耐えられず見上げたら、今までにない、なんとも言えない笑みをうかべていた。

「あれから俺は変わった。勿論、レイラ、貴方も」

 払い除ければ済むのに、それができずに手を取られ、手袋をしていない甲に彼の唇が落とされ、なかなか終わらない。

「契約の婚姻と貴方は言ったが、仲が良くなれば必要ないよね?」

私の喉がコクリと鳴った。

「残り少ない学園生活だけど、友人枠から格上げになるようにするよ」

 まだ会ったばかりの時、幼さが残っていた柔らかそうな頬はすっかり肉が落ちて、鍛え抜かれてきた身体は、シャツからでもゴツゴツとしていそうだ。

 確かに変わったかも。でも、私は変わらない気がする。あの25歳の時からずっと中身は止まったまま。

「……ケイン様って変わってますね」

 自分の現在の容姿は、派手さはないが、整っている方かと思われるが、地味だ。

 陽キャに目を留めてもらえる感じでは決してないのだ。となると家が、財政難になったとか?

 いやいや、そのような話は聞いていない。

「前から思っていたけど、レイラは自分の事は過小評価しているよ」

 やっと手が解放されたのに、離れた手は、私の頭を撫でた。

「誰よりも努力している君を尊敬しているし、護衛に嫉妬している自分が悔しいよ。少しでも追いつきたいと思う」

 な、なんか褒めまくられている?今まで、こんな事なんて言われたことがなかったのに。

「耳、赤いよ?」

 うるさい。誰のせいだと思っているの?

「初めて年相応にみえるな」

 私は、貴方より随分上なのにな。

「もう少し、こうしていていい?」

……コクリ

 しょうがないな。形の良い私の頭を堪能しなさいよ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

元王太子妃候補、現王宮の番犬(仮)

モンドール
恋愛
伯爵令嬢ルイーザは、幼い頃から王太子妃を目指し血の滲む努力をしてきた。勉学に励み、作法を学び、社交での人脈も作った。しかし、肝心の王太子の心は射止められず。 そんな中、何者かの手によって大型犬に姿を変えられてしまったルイーザは、暫く王宮で飼われる番犬の振りをすることになり──!? 「わん!」(なんでよ!) (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

処理中です...