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10.私、もうすぐ17歳。卒業間近な婚約者と(後)
しおりを挟む「お待たせして申し訳ございません」
「いえ、先触れなく来たのはは私なので」
私が教室に忘れた教科書を明日から連休だからと持ってきてくれたのだ。本当にイイ奴だよね。
「何か仰りたい事があるならケイン様からどうぞ」
だがしかし、柔らかい午後の日差しが降り注ぐ温室なのに、この空気感の冷たさよ。いつから居たのか知らないけれど、どうせ俺と踊りたくないとか生意気なと思っているんだろうな。
「貴方は、いつも、あの護衛騎士と仲が良いですね」
「護衛騎士。ロイとですか?」
仲が良いのか?
予想とは違っていたので、尋ねられた言葉を考えてみる。
『お嬢は、お上品さがあと一息足りないッスよね。あ、だじゃれができちゃいましたねぇ。アハハ』
『いやぁ詰めが甘いのが惜しいっ』
『何もない所でコケるって、ある意味才能なんすかね』
なんか、ムカムカしてきた。
「普通かと思いますが。何故、彼が話に出てきたのかが分かりません」
「学年一位なのに分からないの?」
なんなの?忘れ物を届けにきてくれただけじゃないの?
「理解できません。ケイン様とは踊りたくないと言った言葉を耳にされていたら、そこはお詫びしますし、理由を説明致します」
珈琲にミルクを入れスプーンでくるりくるりと回す彼が、やっと視線を上げた。
「気分を害しているって?当たり前だよね。婚約者が護衛と仲睦まじくしているんだから」
「は?誤解で」
「今日だけじゃないよ。もうずっとだ。君と婚約した日からずっと目にしている」
この人、何を言ってるのか?ロイは護衛だから常にいるに決まっているじゃないの。
カタンと彼の椅子が音を立てた。
「俺のが年上なはずなのに、貴方は、最初から子供を見るような目をしていたけど」
不意に影ができた。ケインが私を見下ろしているからだ。じっと見られている圧に耐えられず見上げたら、今までにない、なんとも言えない笑みをうかべていた。
「あれから俺は変わった。勿論、レイラ、貴方も」
払い除ければ済むのに、それができずに手を取られ、手袋をしていない甲に彼の唇が落とされ、なかなか終わらない。
「契約の婚姻と貴方は言ったが、仲が良くなれば必要ないよね?」
私の喉がコクリと鳴った。
「残り少ない学園生活だけど、友人枠から格上げになるようにするよ」
まだ会ったばかりの時、幼さが残っていた柔らかそうな頬はすっかり肉が落ちて、鍛え抜かれてきた身体は、シャツからでもゴツゴツとしていそうだ。
確かに変わったかも。でも、私は変わらない気がする。あの25歳の時からずっと中身は止まったまま。
「……ケイン様って変わってますね」
自分の現在の容姿は、派手さはないが、整っている方かと思われるが、地味だ。
陽キャに目を留めてもらえる感じでは決してないのだ。となると家が、財政難になったとか?
いやいや、そのような話は聞いていない。
「前から思っていたけど、レイラは自分の事は過小評価しているよ」
やっと手が解放されたのに、離れた手は、私の頭を撫でた。
「誰よりも努力している君を尊敬しているし、護衛に嫉妬している自分が悔しいよ。少しでも追いつきたいと思う」
な、なんか褒めまくられている?今まで、こんな事なんて言われたことがなかったのに。
「耳、赤いよ?」
うるさい。誰のせいだと思っているの?
「初めて年相応にみえるな」
私は、貴方より随分上なのにな。
「もう少し、こうしていていい?」
……コクリ
しょうがないな。形の良い私の頭を堪能しなさいよ。
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