おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅

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ヴァンリーフSide

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「お前、堅物顔が崩れてるぞ?」
「名前を貰った」
「はぁ?」

 二人でヴァンリーフ・グラント。ソレが産まれた時からの定めだった。

それが、いきなり変わった。

『レインさんでどうですか?』

 昼飯を食べそこね、ふらりと気まぐれに彼女の店に足を踏み入れたのは、偶然だった。

チリン

『あ~、もうホント過労死しちゃうわよ。計画が台無しじゃないの~。ハッ、いらっしゃいませ!』
「すみません、閉店中でしたか?」

 混雑していると噂の店内は、明らかに店じまいの雰囲気を醸し出していた。違う店を今から探すのも面倒だ。仕方がない。もう今日は食わなくていいか。

『大丈夫ですよ!あ、でもビーランチは売り切れてしまって。エーランチでもよければ』
「…それでお願します」

 悪いなとは思いつつ、エーランチという不思議な名に惹かれ食べる事にした。

『おまたせしました! あと、コレサービスです』

 美味そうな肉の香りの側に置かれたのは淹れたての珈琲だった。脇に小さな焼き菓子も置かれていた。

『どうしてもねこちゃん型が欲しくて頼んだんですよ。可愛いですよね。ちょっと甘いかもしれませんが、良かったら。あ、他のお客さんには秘密にして下さい。幾つ焼いても足らなさそうだし』

『ありがとうございます』

 正直、ねこちゃんとやらが分からなかったが、形をみるに生物なのだろう。まずは、肉を丸めたものを口に入れた。

凄く美味い。

 柔らかく、それでいて食べごたえがある大きさに嬉しくなる。彼女は、時間外であろうに火を通してくれたのだろう、熱すぎない、程よい温かい飯を一気に食べてしまった。

『空のお皿お下げしますね。あ、ゆっくり飲んでいって下さい』

 あっという間に食べてしまった俺は、サービスだと出された珈琲を飲み普段は食べない甘味を味わった。

「とても美味かった。ありがとう」

 普段、必要以外話す気が起きない俺が気づけば、食器を下げに来た店主に自分から声をかけていた。

『ありがとうございます!』

 心から嬉しそうな笑顔に驚いた俺は、どうやら凝視していたらしい。

『お客様?』
『あ、いや…また来ます』
『はい!ありがとうございましたー!』

チリン

 それが、彼女と初めて会った日だった。

 あれから暫くして殿下と共に入り浸り、まさか店で働く事になるとは思ってもいなかったが。

「レインと呼んでくれ」
「ふーん?よくわかんないけど、その仏頂面が改善されるのは悪くないな。りょーかい、レイン」

 呼ばれる度に、彼女のクルクルと変わる顔を思い出し、レインの口角は徐々に上がっていた。




~もう片方のヴァンリーフ~

「最近の彼は、本当に変わったよね」

彼とは、もう一人の俺の事だ。

「そうですね。ニヤついてますねぇ」

 変わり者の殿下に話しかけられた俺は、無表情のまま口を動かす。

「正直、堅物過ぎて苦労していたんで助かりますが」

 騎士として入れ替わる際に、堅物の鉄仮面として勤務するのにうんざりしていたのだ。ゆるい方が助かる。

「本当だよ。たして割れば丁度良いのに」

何ですかね、その表現は。

「君の父君と話をしたんだよね。もう、この代でやめても良いのではと」

ほう、陰が不要になるのか。

「いや、違うよ? 別にこんなまどろっこしい事をしなくて単に才能ある子を育成すればいいという話だ」

ソレは劇的な変化だ。

「という事は」
「少しづつ、君も堅物面を崩していくようにって事。案外、春が来て早く実をつけるんじゃないかな」

なかなか面白い。

「楽しそうだね?」
「そりゃあ、もう」
「ヴァン、父君の捌かなければいけない仕事量はなかなかだけど。そこ、気づいてる?」

……まさか。

「次期当主、ほぼ確定じゃないかな。まぁ、君の頭脳なら、まだ間に合うよ。頑張って?」

 マジか。あいつと二人で当主になるだろうとぼんやり思っていたが、俺一人って事?

「殿下…帰宅しても良いですか?」

 なんか、一気に働きたくなくなってきた。

「まだ、一日が始まったばかりなのに。今日は、寝ぼけている暇はないよ」

 しょっちゅう隈ができている父親が将来の俺なのかと震えた。



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