11 / 12
ヴァンリーフSide
しおりを挟む「お前、堅物顔が崩れてるぞ?」
「名前を貰った」
「はぁ?」
二人でヴァンリーフ・グラント。ソレが産まれた時からの定めだった。
それが、いきなり変わった。
『レインさんでどうですか?』
昼飯を食べそこね、ふらりと気まぐれに彼女の店に足を踏み入れたのは、偶然だった。
チリン
『あ~、もうホント過労死しちゃうわよ。計画が台無しじゃないの~。ハッ、いらっしゃいませ!』
「すみません、閉店中でしたか?」
混雑していると噂の店内は、明らかに店じまいの雰囲気を醸し出していた。違う店を今から探すのも面倒だ。仕方がない。もう今日は食わなくていいか。
『大丈夫ですよ!あ、でもビーランチは売り切れてしまって。エーランチでもよければ』
「…それでお願します」
悪いなとは思いつつ、エーランチという不思議な名に惹かれ食べる事にした。
『おまたせしました! あと、コレサービスです』
美味そうな肉の香りの側に置かれたのは淹れたての珈琲だった。脇に小さな焼き菓子も置かれていた。
『どうしてもねこちゃん型が欲しくて頼んだんですよ。可愛いですよね。ちょっと甘いかもしれませんが、良かったら。あ、他のお客さんには秘密にして下さい。幾つ焼いても足らなさそうだし』
『ありがとうございます』
正直、ねこちゃんとやらが分からなかったが、形をみるに生物なのだろう。まずは、肉を丸めたものを口に入れた。
凄く美味い。
柔らかく、それでいて食べごたえがある大きさに嬉しくなる。彼女は、時間外であろうに火を通してくれたのだろう、熱すぎない、程よい温かい飯を一気に食べてしまった。
『空のお皿お下げしますね。あ、ゆっくり飲んでいって下さい』
あっという間に食べてしまった俺は、サービスだと出された珈琲を飲み普段は食べない甘味を味わった。
「とても美味かった。ありがとう」
普段、必要以外話す気が起きない俺が気づけば、食器を下げに来た店主に自分から声をかけていた。
『ありがとうございます!』
心から嬉しそうな笑顔に驚いた俺は、どうやら凝視していたらしい。
『お客様?』
『あ、いや…また来ます』
『はい!ありがとうございましたー!』
チリン
それが、彼女と初めて会った日だった。
あれから暫くして殿下と共に入り浸り、まさか店で働く事になるとは思ってもいなかったが。
「レインと呼んでくれ」
「ふーん?よくわかんないけど、その仏頂面が改善されるのは悪くないな。りょーかい、レイン」
呼ばれる度に、彼女のクルクルと変わる顔を思い出し、レインの口角は徐々に上がっていた。
~もう片方のヴァンリーフ~
「最近の彼は、本当に変わったよね」
彼とは、もう一人の俺の事だ。
「そうですね。ニヤついてますねぇ」
変わり者の殿下に話しかけられた俺は、無表情のまま口を動かす。
「正直、堅物過ぎて苦労していたんで助かりますが」
騎士として入れ替わる際に、堅物の鉄仮面として勤務するのにうんざりしていたのだ。ゆるい方が助かる。
「本当だよ。たして割れば丁度良いのに」
何ですかね、その表現は。
「君の父君と話をしたんだよね。もう、この代でやめても良いのではと」
ほう、陰が不要になるのか。
「いや、違うよ? 別にこんなまどろっこしい事をしなくて単に才能ある子を育成すればいいという話だ」
ソレは劇的な変化だ。
「という事は」
「少しづつ、君も堅物面を崩していくようにって事。案外、春が来て早く実をつけるんじゃないかな」
なかなか面白い。
「楽しそうだね?」
「そりゃあ、もう」
「ヴァン、父君の捌かなければいけない仕事量はなかなかだけど。そこ、気づいてる?」
……まさか。
「次期当主、ほぼ確定じゃないかな。まぁ、君の頭脳なら、まだ間に合うよ。頑張って?」
マジか。あいつと二人で当主になるだろうとぼんやり思っていたが、俺一人って事?
「殿下…帰宅しても良いですか?」
なんか、一気に働きたくなくなってきた。
「まだ、一日が始まったばかりなのに。今日は、寝ぼけている暇はないよ」
しょっちゅう隈ができている父親が将来の俺なのかと震えた。
1,205
あなたにおすすめの小説
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜
蝋梅
恋愛
仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。
短編ではありませんが短めです。
別視点あり
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない
櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。
手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。
大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。
成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで?
歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった!
出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。
騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる?
5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。
ハッピーエンドです。
完結しています。
小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる