おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅

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10.久しぶりに笑った日

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 「とりあえず服を着ていいかな?」

 自分で脱いだとはいえ寒くなってきたし、なにより自分以外の温もりをダイレクトに感じてしまい落ち着かない。

あれ、私って欲求不満なのか?

「あ!すみません!」
「え?」

 突き飛ばされたと気付いた時には既に遅く立ち上がって失敗したわ。タンコブだなと諦めていたら強い力で引き上げられた。

「ありがとう。もう、大丈夫よ?」

 何故かさっきよりも密着が凄くて、離れようとしてもちっとも動かない。

「レインさん?」

 それどころか頭上にスリスリされているようで。流石に動揺してきた。

「貴方を好きですと言ったら笑いますか?」

すき……。

「え、私?」

 少し緩められたのでなんとか顔を上げたら、予想以上に至近距離だった。

 若い子に見つめられるのがなんかツライ。

「殿下の側には私と先程ナオ様が会った影のどちらかが必ずいます。でも、この店に行く時には…あいつに会わせたくなくてというか、俺が行きたくて。だから貴方は、店でアイツに会った事はないんです」

 無表情な彼は、今や拗ねたような顔をしながら横を向いて独り言のように呟いているその姿は、冗談ではなさそうで。

「私は、君よりかなり年上だし、なによりこの世界の人じゃないから子供とかも無理かもだし」

 この国の結婚は20歳から22歳だと聞いた。

「私は、今日で25になりました」
「今日が誕生日?」
「はい」

めでたいじゃない。

「おめでとう!」
「ありがとうございます。って、あー、貴方を前にすると調子が狂うな」

 頭をグシャリとしてため息をついているのをみてちょっと笑ってしまったら、彼は怒っているようだ。

「何が可笑しいんですか?」
「いや、今日のレイン君はよく喋るなぁと」

 いっつも最低限しか話さないのに珍しい。

「本気なんですが」
「ちょ」
「駄目ですか?」
「ん」

剥き出しになったままの肩に息がかかり、背中をッッと撫で上げられ変な声が出てしまった。

「タイム!慣れすぎじゃない?!」

 なんなの?!硬派なイケメンワンコじゃなかったのか?

「慣れてない。他に取られたくなくて焦っているんです」

 この子は何を言ってるんだろうか。

「ナオ様の店は、食事の評判もですが、明るくて笑った顔が可愛いと評判なんですよ。あと必死で涙目になって呟いている所なども素がいいと」
「ふぉッ」

私、口に出ていた?

「いや、確かにもうムリ間に合わないとか言ってるかも」

 時間に追われて、でも自分しかいないし半泣きでご飯を盛る日も少なくない。

見られていたとは!

「恥ずかし過ぎる!」

 かといって、無意識の呟きだしコントロールは出来ないし。

「脱線しましたが、ひやひやしていて。もう、見ているだけでは我慢できなくて…ナオ様?」

 ある程度生きている私は目の前のワンコが本気なのか、誂われているのではないかとじっと彼を見てしまう。

 綺麗な青い目に今は少し上気したシャープな頬。

 あのきらきら王子に命令されて言っているわけではなさそうだけど。

「年下は嫌ですか?頼りなく見えますか?」

 きりっとした眉がちょっと下がって、なんか可愛いくて。そんなころころ変わる珍しい彼の顔を眺めているうちに、なんかごちゃごちゃ考えるのも馬鹿らしくなってきて。

「いきなり婚約はなしでお付き合いからなら、お願いします」

 特に取り柄もない、いつもテンパってばかりの私でいいなら。

あれ?

「もしもーし」

 なんか、今度は急にだんまりになっちゃった?

ガシッ

「ひゃ!」

いきなり両肩を掴まれた。

「本当に?」
「え、ええ」
「あの、嘘とかなしですよ?あ、一筆書いてもらえますか?縛るつもりはないんですが、信じられなくて」

 なんか怖いと顔に出ていたらしい。

「あの、直ぐに紙を屋敷から持ってきます!」
「あ、ちょ!」

バタン!

「いったい何なの?ヘクチッ」

風のように去っていったレイン君と半裸な私。

「…ふふっ、なんか可笑しい」

こんな訳わからない状況なのに、この世界に来て、初めてちゃんと笑えたかも。

 私は、暫く笑いが止まらなかった。

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