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24.奥底に沈む思い
しおりを挟む低く唸ったグラン君は、目線を下げ苛立ちをだしていた。
「俺は、言葉遊びは好みません」
怒って当然か。褒めて落としたようなものだよね。コミュニケーションって難しい。なんとか伝わって欲しいと思いながら話す。
「私のいる国では現在、男女共に婚期が女性の社会進出、働く人が増えて遅くなっています。男性は18歳から結婚できますが、あくまで私は、早すぎると感じています。自分は学生なので特にそう思います。その為、卒業し数年働いてから将来を考えたいんです」
なんか面接みたいな言い方になってしまった。でも今の私は、バイトはしているけれど生活費、学費は全て親持ちだ。
成人していてもそれって成人と言えるのかな? 話ながらふと思った。
間を開けずグラン君から問われた。
「それだけではないでしょう? あとは何ですか?」
鋭い。
17歳で何人の部下がいるのか知らないけれど団長をしているだけあって、頭の回転や人の心情を察知する能力が高い。21歳の私より社会に出ているグラン君の方が大人だ。
冷めた視線に、この顔を私がさせているかと思うと悲しくなる。
「21歳の私よりグラン君のほうが、既に働いていて人の命を左右する責任のある地位にいて、能力もきっと高くて大人だと思う。けど」
「けど、何?」
声はいつもと変わらないけど温度が低い。私の腕を掴んでいた手が離れた。
「心は変わりやすい」
私は知っている。
「今は、そう想ってくれて婚約しても先は長いよ。17歳だよ? まだこんな大事な事を決めるべきじゃない」
お父さんとの最後の会話は今でも忘れられない。
『さよならだ。未来』
17年近く一緒に家族だったのに、たった一言の挨拶で終わった。
違う。
そうじゃない。
綻びは、きっかけは私。
『勝ったよ!』
『凄いぞ! 頑張ったな!』
私以上に興奮し喜んでくれたお父さんの顔。あんなに仲のよかったお母さんとお父さん。
私が壊した。
「…そうだよ。私が二度とこっちに来なければいいんだ」
なんだ。
そうすれば全部解決だ。
だって、ほら。グラン君の手は腕だけじゃなく添えられていた腰からも離れた…はずだった。
「どうして?」
好きって言っておいて逃げてたのは私だ。
ここまでさらけ出してくれたのにグラン君を信じられないのも私。
なのに。
離れたはずの身体は、今までで一番隙間がないくらいぴったりとくっついていた。
気持ちがいい。
居心地が良すぎて震えた。
泣くな。
泣いたからってどうにもならない。
「ミライ」
額と額をくっつけられて、グラン君の口から小さな言葉が発せられた。それは、歌のように綺麗で、でも言葉はわからなくて。
だだ、最後の言葉だけ聞き取れた。
「我、共に歩むものに誓う。破れば死を」
それが合図だったのか、青い光がグラン君を包み、その光は私の右手の小指に移動し消えた。
小さな震えは、いまや私の全身までいきわたった。宥めるように頭を撫でられたけど、おさまるわけがない。
ねえ、何したの?
強く抱き締められたままで、顔が見たくても見れない。心臓の音が早くなる。
耳元で言われた。
「誰と重ねているのか知りませんが、俺の気持ちは変わらない。伝えても不安を抱えさせてしまうならと自分に術、呪をかけました」
最後の言葉。
「まさか」
「はい。ミライの想像している事でだいたい当たっていると思います。俺の心が、気持ちが変わったら、ミライの前から消えます」
『死を』
「ミライには何も影響しないので安心して下さい」
ほんの少し顎をあげられて。穏やかないつものグラン君の顔。
衝撃が強すぎて、何を言ったらいいのかわからない。やっと出た言葉は、声すらかすれた。
「重すぎる」
「そうですか? 気持ちは変わらないから何の問題もないですけど」
「何でそこまで!」
涙が次々とこぼれた。
「何でって、好きだからです」
指で拭われても止まらない。
「好きだから安心してもらいたいし」
「だからって!」
「ミライは、あの話の他に景色だけの映像の品を作りましたよね」
「え?」
唐突に言われて困惑したけど、グラン君が言った作品はわかった。女子の乙女心をくすぐるアニメのような作品の他に年齢層を高めに設定した品も試験的に作った。就寝前にリラックスできるような、主に景色を中心とした物だ。
「作る時に護衛の為に同行した俺は、あの時、初めて花が美しいと、星が綺麗だと知りました」
「え?」
ぽかんと口を開けてしまった私を見てグラン君はクスリと小さく笑った。
「俺にとって、花は食料にならない無駄な物。星は戦場で位置や時刻を知る為の物でした」
頭を優しく撫でられた。
さっきとまるで逆だ。
「映像の中で日常を映した場面もありましたよね。子供達が走り遊んでいる後ろ姿、夕方の活気ある市場」
「うん」
ふとした日常もいれてみたくなって。私には新鮮だったというのもあるけれど。ただグラン君達には正直新鮮さはないと思っていた。
「あの映像を観て、ああ、守れたと。この日常を守れてよかったと思えたんです」
遅いですけどと呟き。
「敵国の兵とはいえ数えきれないほどの人の命を奪った事も今さらながら自覚した反面、生きていてよかったと、貴方のお陰で思えました」
額、左右の瞼と覚えがあるキスをされた。
「ミライ、返事を下さい」
私は──。
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