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22.どうして?!
しおりを挟む「オマエ誰だよ!」
「ただの人だよ」
「嘘だ! アンタが父さんを!!」
オマエからアンタ呼ばわりされたなぁとぼんやり思いながら目の前の人間を観察するも。
その少年は、縁から滑り降りこちらに飛びかかってきた。手には小さなナイフが。
私は、避けなかった。
「つっ」
一瞬おいて痛みがきた。
痛い!
でも、リューナットさんは、もっと痛いよね。
「俺っ!」
腕に刺さったナイフを見て少年は、ナイフから手を離した。その手は震え、瞳は刺さったナイフを見て見開いていた。
よかった。
私はそう思った。だって、この子の反応は、まだ救いがあると思ったから。
「かなり痛いけど大丈夫。怒るのは無理ないけど相手を傷つけても何にもならないよ」
きっと虚しいだけなんだよ。
私は少年にそう言い微笑んだ。ついでに刺されていない左腕で少年を軽く抱きしめてみれば固まったままの少年。
「ユラ様!」
急に呼ばれて上を見上げれば。
空から誰も乗せてないノアとヴァルがきた。
ヴァルの背には、ラジウスさんとぐったりしているリューナットさんがいる。
「ラジウスさんは、出てきちゃ不味いってリューナットさんが言ってましたけど」
「どうせ直ぐに気づかれる。それよりその腕は!?」
腕を見たとたん彼の気配が一気に変化した。
「──お前か?」
「いいの!」
苛立っているラジウスさんは、少年へ低く唸るように問いながら剣を鞘から抜こうとしたので慌ててそれを止めた。
「私から刺されたの」
「何故?!」
理解ができないと彼の瞳は言っていた。
「氷漬けにした張本人だから」
少年が怒るのは当たり前だ。
それより私は、ヴァルの背にいるリューナットさんが気になってしかたがない。彼は、ずっとうつ伏せのまま目を閉じ動かない。
早くしないと。
「ノア、下に連れていってもらえる?」
腕も痛いし、吐き気もしてきたので、ノアに乗せてもらい陥没した地面に降りて火の国の王様に近づき火の神器に話しかけた。
私と来れば面白いこと沢山ありますよ。
光から火の神器は新しい事が好きで飽きっぽいと聞いたのだ。なら、もうこの台詞しかない。
正直、面白いかは分からないけれど、ある意味刺激的な日々を送れると思う。
あぁ、そろそろ限界かも。
貧血の症状も出てきたみたい。そう思っていたら。
ブァヮン!
凍った火の国の王様の腰にある金のベルトに埋め込まれていた真っ赤な石から火が勢いよく飛び出し、私に向かってきた。
「熱っ!」
鼻先で火の塊は急停止し、今度は溶岩のようにドロリと溶けていく。
『嘘だったらすぐ離れるからな!』
少年の声が頭に響くと共に手首に熱い感覚。
左手首には新しい腕輪が。色は紺色が混じったような赤。
『変わりませんね』
光がため息をつき呟いた声がした。
「オマエ父さんに何をした!」
叫ぶ赤い髪の少年。今なんて言った?
「君のお父さんって」
「火の国の王だ! 俺は次期王になる!神器を返せ!!」
少年は、将来かなりのイケメンになると思ったけれど、王子か。
「悪いけど無理」
「なんっ?!」
私は、少年を見た。
「貴方達がしっかりしないから神器が穢れ、この世界の神様達も見放そうとしてるんでしょ?それに人のこと言えないけれど、怒りに任せて人を傷つける王様を皆が慕うかしら?」
私は周りを見た。
今は動かない数えきれないほどの人達。
「ここにいる人達には、それぞれ家族がいる。戦う人の背後も考えないといけない」
王子様に言った言葉は、まさしく自分にも当てはまる。
ゲームの駒じゃない。
皆、生きている。
「光、悪いけど王子も動けないようにしてもらえる?」
『はい』
「なにをっ?! フゴッ!」
王子はスマキになってもらう。
ごめんね。今、騒がれても困るんだ。何より私が限界きてる。耳が、音が遠く感じる。
「こっちにリューナットさんを運んでもらえますか?」
私は、上にいるラジウスさんにお願いした。ヴァルとラジウスさんが降りてきて彼が地面にリューナットさんをそっと寝かせた。
「影響はないと思いますが、上にいてください」
「だが」
「あの少年と風の王様お願いします」
先に話し口をはさませない。
「リューは…」
「助けます」
琥珀色の瞳がゆれている。私と彼の視線が絡んだ。
私のせいなのに、彼の瞳には私に対しての怒りは全く見られない。ただ、彼の、リューナットさんへの想いだけ。
大事な友達をこんなにしてごめんね。
「出血が酷く、あまり持たない」
「絶対助ける」
「…頼む」
言い切った私の言葉で彼は上に上がった。
「さて、やるか。悪いけど、光と水もお願い」
『はい』
『うん』
私は立っているのが辛いのもあり、膝だちになり両手を前に出した。
息を吸い、ゆっくり吐く。両手を呼吸に合わせ徐々に上に上げ体から放出するイメージをえがく。
自分では気づいていなかったけれど、ラジウスさんいわく、私の身体から大量の魔力が白い光と共に放射線状に広がっていき、それらは兵士の身体に吸い込まれていったらしい。
『それくらいで』
光の声で今度は、徐々に抑えるイメージをする。兵士達は、倒れて気を失っているけれど、もう凍ってはいなかった。
自分の右腕を見た。
刺さっていたナイフは地面に落ち、腕の傷は無くなっていた。
よかった!
成功したみたい。
リューナットさんは?!
横たわっている彼に急いで近づく。
「どうして?!」
彼の右足は、消えたままだった。
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